パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第55回

バルセロナの新たな社会的連帯経済推進政策

2019年の連帯経済見本市でのワンシーン

 世界的に見ても社会的連帯経済が非常に盛んなバルセロナについてはこの連載でも何回か紹介していますが、今回はそのバルセロナで社会的連帯経済推進向けの新たな政策(2021~2023年)(カタルーニャ語)が発表されたので、それについて紹介したいと思います。なお、過去ログで紹介している関連記事もご参考にしてください。

ドキュメンタリー「バルセロナの連帯経済」(日本語字幕版)

 バルセロナ市内における社会的連帯経済の規模ですが、法的に認定された団体としては協同組合が2018年時点で990組合(2015年より+129、以下同じ)、労働者持株団体が233団体(+6)、財団が614団体(+21)、NPOが2348団体(+324)などで、合計で4242団体が存在します。その他、公共財の管理団体や市民農園、時間銀行などそれぞれ数十団体ずつ存在し、合計では4449団体になります。バルセロナ市の人口が2021年現在で163万6732人(福岡市とほぼ同じ)なので、約368人あたり1団体が存在するといえます。

 この計画書でまず注目されるのは、2020年10月に策定された、「2030年のバルセロナに向けた社会的連帯経済の戦略」です。スペインでは4年ごとに市議会議員選挙が行われ、市議から市長が選ばれる(日本の総選挙で選ばれた議員から首相が選ばれるのに似ている)ことになっており、次回の市議選は2023年に予定されていますが、その結果に関係なく、少なくとも現在のSDGsの目標年である2030年までは社会的連帯経済への尽力を続けてゆくと宣言しています。このため、中期的な目標も立てられるのではないかという期待を行うこともできます。そして、具体的に以下の12の目標と、65の行動が制定されています。

  1. 特に戦略的なセクターにおいて、社会的連帯経済の組織の企業としての成長や強化を推進: アセスメントサービス、中長期にわたる支援プログラム、EUプログラムなど
  2. 融資へのアクセスを改善し、社会的連帯経済における融資文化を推進: 補助金創設、社会的連帯経済系金融機関との提携、公的投資基金の創設
  3. 社会的連帯経済向けに戦略的な資源、装置やツールを推進: 有機農業や自転車の使用などを推進している別のプロジェクトや、カタルーニャ州が行っている協同組合アタネウとの協力など
  4. 連携のダイナミズムと分野、地域や営業面での相互協力を推進: 補助金を活用した連携推進、農業や地域などに関連した事業との連携
  5. 社会的連帯経済のデジタル化やプラットフォーム化に貢献: 関連事業の推進
  6. 脆弱な状況にある集団による社会的連帯経済の取り組みを推進: 地区経済の視覚化、脆弱な階層や移民による事業創出支援など
  7. 一般市民、特に若い人たちに対して、労働上および経済的なオプションとしての社会的連帯経済の魅力を提示: 各種情報提供など
  8. 意識的な消費の推進や社会的市場の強化で、社会的連帯経済の商品やサービスなどへのアクセスを向上: 各種見本市の開催、市内で社会的連帯経済の商品を売るアンテナショップの開設など
  9. 社会的連帯経済の推進の公共政策がさまざまな行政レベルで存在することを保証し、社会や経済の課題に回答を提示: バルセロナ市役所だけではなくバルセロナ都市広域圏連合、カタルーニャ州政府、スペイン政府やEUといったところでも社会的連帯経済の推進を働きかけ
  10. 社会的連帯経済の産品の公共調達の割合増に貢献: バルセロナ市の各種公共調達の際に社会的連帯経済系の事業体が落札しやすくするようお手伝い
  11. 社会的連帯経済とその他の市内の経済との間での対話、協力や知識交流の空間を確立: バルセロナ市内のイノベーションセンターを活用して社会的連帯経済以外の経済活動と交流、各種公共政策の検討の場で社会的連帯経済を紹介など
  12. 知識、データやバルセロナ市への社会的連帯経済のインパクトについて作成: 各種データや業績を評価する研究の推進

 バルセロナ市については、ミュニシパリズムの観点で最近日本でも話題になることも多く、そちらとの関係で社会的連帯経済を話題にする人がいますが、ミュニシパリズム自体は自治体や市内の地区レベルで解決できる問題は住民で解決してゆこうというものであり、必ずしも社会的連帯経済に直結するものではありません。地域の課題にはいろいろなものがありますが、その解決手段として社会的連帯経済が適しているケースは限られており(たとえばある地域で女性に対するDVが多いという問題がある場合、この解決手段として社会的連帯経済を使える可能性は低い)、その点については私としても認めざるを得ません。

 しかし、地域の問題を解決する手段として社会的連帯経済を利用できる場合がないわけではありません。たとえば、高齢化が進んで介護が必要なものの、いちいちヘルパーさんを探すのは面倒だという家庭が集まることで、高齢者介護の消費者生協を作ることができるかもしれません(日本では高齢協がこの分野で進んでいますが、こちらスペインには同様の事例は存在しません)。また、地域の映画好きが集まることで、地域の映画館を再生して新しい雇用を生み出すことができるかもしれません。このような例であれば、ミュニシパリズムが社会的連帯経済の推進につながり得るということができるでしょう。

 その一方で、世界的に見れば社会的連帯経済が活発なバルセロナとはいえ、まだまだ一般への知名度は低いのが現状であることを考えると、より一般市民の目に触れるところで社会的連帯経済を紹介してゆく必要があります。アンテナショップはその一つの手ではありますが、これに限らず、たとえば市営である地下鉄や路面電車、そしてバスの広告として社会的連帯経済について情報発信することも大切でしょう。社会的連帯経済の問題点として、一部のコアな活動家以外にはその存在さえ知られていないという点があるため、知名度を高める工夫が必要です。こちらスペインでは、特に地下鉄の駅などで大手NGOによる募金呼びかけの広告を目にすることがありますが、そういう状況を考えれば、公共交通機関における広告はかなり有効な手段だといえるでしょう。

2019年の連帯経済見本市の様子

 また、基本的に都市部だらけのバルセロナ市内では農業はそれほど盛んではなく、食糧主権などとの関連で考える場合、せめてカタルーニャ州全域を視野に入れる必要があります。幸いにして今はカタルーニャ州政府も前述の協同組合アタネウの取り組みを始めるなど、少しずつ社会的連帯経済に積極的になってきていますが、今後さらなる積極的な態度が待ち望まれています。

 その他、社会的連帯経済関係者に欠けている視点として、「どのようにして一般市民が関わればよいか」について具体的に説明するというものが挙げられます。労働者協同組合(労協)や消費者生協、NPOなどさまざまな団体が社会的連帯経済に属していますが、その一方で特に労協に加入するわけでもない普通の人にとって、どのような形で社会的連帯経済との関係を持てばよいのかは意外に不明確です。このため、特に消費者としての自分の行動を見直して社会的連帯経済の商品やサービスをできるだけ利用する方向に(何も新規に消費するのではなく、今まで普通の資本主義企業から買っていた商品やサービスを社会的連帯経済の商品やサービスに替えるだけで十分)自分の消費行動を変えることが大切になるのです。

 いずれにしろ、何かと先進的な活動の多いことで知られるバルセロナ市からは、今後も注目すべき情報が入ってくるものと思います。社会的連帯経済に関心のある方は、一度バルセロナを訪問して現地の雰囲気を感じるのもよいでしょう。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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