パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第69回

なぜ協同組合なのか──協同組合だからこそ果たせる役割

 社会的連帯経済の主な担い手としてこの連載では何度も協同組合について紹介していますが、今回はなぜ普通の資本主義企業ではなく協同組合なのかという点について検討してゆきたいと思います。とはいえ、協同組合といってもさまざまな種類があるため、今回はその種別ごとに見てゆきたいと思います。

 農協や漁協、森林組合といった第1次産業系の協同組合の場合、その組合員は基本的に零細の生産者であり、個人レベルで販路を開拓する余裕はありませんし、肥料やコンバインなどを一人一人が買った場合、割高になってしまいます。しかし、農協に加入することで販路開拓を任せることができますし、共同購入により各種物品を安く調達できるようになります。農協についてはいろんな問題もありますが、相互扶助的な観点から生まれており、今でも農家を支えるべく各種商品やサービスを提供していることを忘れてはならないでしょう。なお、私の住むスペインでは日本と違い、地域に農協が1つしかないということはないので、たとえば同じ町に住んでいてもA農協に加盟する人もいれば、B農協に加盟する人もいる形になります。

 労働者協同組合(労協)についてですが、端的にいうと「集団事業主」だということができるでしょう。労協の意義については労協法施行記念のこの記事で詳しく書きましたが、企業や役所での勤務と違って自由が利く一方で、個人事業主と違って一人で全てを背負い込む必要はなく、餅は餅屋で各分野を任せることができます。また、特に資本主義企業とは違って利益の最大化は必ずしも必要なく、赤字により財政的に行き詰まることさえなければ、より余裕のある経営を行うことができます。

 しかし、労協においての最大のメリットは、「自営業のごとく個人の自由が利く仕事を、自分たちで創出できる」ということでしょう。日本の場合、伝統的に失業率が非常に低いことから、特に都市部ではあまり雇用創出の必要性を感じることはないでしょうが、それでも自分たちのライフスタイルに合わない仕事しかない場合、自分たちで雇用を作り出すことは大切になってきます。特に、私が制作したドキュメンタリー「バルセロナの連帯経済」(リンクでは彼らへのインタビューから始まります)では、上司から指図を受けずに自分たちで自主運営することに意義を感じている労働者組合員が登場します。

ドキュメンタリー「バルセロナの連帯経済」の中で
労協という事業形態への魅力を語るシャビ(コップ・ダ・マー)

 また、日本でも特に中山間地域では、なかなか自分が望む仕事が見つからないことから自営業を始める人もいることでしょうが、その観点からも労協に注目することができるでしょう。自営業の場合個人事業主として、各種許認可の取得から会計・確定申告に至るまで全てを自分1人でこなさなければならず大変ですが、労協を作れば各組合員が自分の得意分野に特化することで、より効率的な運営をできるようになります。ただ、日本の場合には労協の組合員は労協との間に労働契約を結ばねばならず、被雇用者としての権利(たとえば最低賃金や週40時間労働)が保障される一方で、労協としてはそれら各種権利を保障できるだけの経営体力を持つ必要があるのです。

 協同組合運動において他にも注目すべき事例としては、生協など各種消費者協同組合の運動が挙げられます。農協や労協、そして漁協などは、生産者や労働者として協同組合運動に関わる人たちが立ち上げるものですが、消費者協同組合については消費者として自分の望む商品やサービスを入手するために立ち上げるものです。その代表的なものは日本全国各地にあり、主に食料品を扱っている生協ですが、それ以外にも以下のものが挙げられます。

  • 大学生協: 大学の学生や教員、そして事務員が加盟。当初は戦後すぐの混乱期、十分な食事にありつけなかった学生の食生活を改善するために立ち上げられたものだが、時を経るにつれ生まれてくるさまざまな学生の需要に応える形で事業を発展(本屋やパソコンの販売、旅行代理店など)。海外ではあまりない事例なので、日本の大学生協は世界的に見ても非常にユニークな存在。
  • 学校協同組合: 日本ではあまり存在しないが、従来の公立学校とも一般的な私立学校とも違う教育を求めた親や子どもが集まって、自分たちが求めるスタイルの教育を実現するもの。一応私立学校扱いとなるものの、学校法人の理事会が学校の経営を決める普通の私立学校と違い、生徒や学生、そして場合によっては親も学校の運営方針の決定に参加でき、より民主的な運営が可能となる。
  • 高齢協: 高齢者による消費者生協。高齢になり体が弱ってくるに従い出てくる需要(介護や老人ホームなど)のみならず、高齢者が生活しやすいバリアフリーの住宅や、年金だけでは生活できない人向けの仕事づくり、各種学習の場作りなども行い、組合員の老後の生活ができるだけ充実したものになるようにしている。
  • 医療生協: 医療の分野での消費者生協。日本全国に約100団体あり、各地で組合員のニーズに見合った医療活動を行っている。
愛知県南医療生協とバルセロナの医療生協COSが登場した勉強会

 ただし、消費者協同組合については、日本と諸外国の法制度の違いについて注意を払う必要があるでしょう。日本には協同組合部門全てを統括する「協同組合法」は存在せず、農協は農協法、消費者生協は消費生活協同組合法など別々の法律で管轄されていますが、私が住むスペインなど多くの国では協同組合法が存在し、この法律があらゆる種類の協同組合を統括しているだけではなく、複数の種類の協同組合を兼ねることができるようになっています。このため、純粋な消費者生協は少なく、多くの場合は労協の性格も持ち、労働者組合員と消費者組合員という2つのカテゴリーを設けることになっています。そして、労働者組合員は、消費者組合員よりも絶対数ははるかに少ないものの、組合の運営が生活に影響する度合いがはるかに大きいため、労働者組合員のほうが消費者組合員よりも1人あたり議決権が多くなっています。とはいえ、これら協同組合全てを束ねる共通点として、組合員による民主的な運営があることを忘れてはならないでしょう。

 さらに、消費者協同組合が成立・存続するためには、運営に向けて消費者組合員たちが積極的に関わり続ける必要がありますが、それは逆にいうと組合活動に十分に時間を割くことができる人が数多くいる必要があるという意味でもあります。大学生協の場合は大学生、生協の場合は専業主婦、高齢協の場合は定年退職して年金暮らしの高齢者が活動の中心になっていますが、その一方で仕事に忙しい社会人はなかなかこの運動に関わることができません。むしろ日本の場合、消費者として集まって自分の要求を実現するよりも、市場調査を通じて潜在的な需要を資本主義企業側が読み取り、それを満たす商品を開発してもらうほうを好む気質がある気もしますが、そのような状況の中であえて消費者として自分の消費生活をデザインしてゆく文化を日本社会の中でどのように定着させるか、という課題も克服する必要があるのではないでしょうか。

 協同組合は、労働者や消費者自身が組合員となって、経済活動を行う組合の運営に関わることができる組織です。普通の資本主義企業のように、会社の経営や商品開発などをお任せするのではなく、組合員自体がその運営に関わったり、場合によっては商品開発にも参加したりできるという魅力がある制度です。労働者協同組合法が施行されてから1年近くが経過し、数十の労働者協同組合が立ち上がっているようですが、さらにその動きが進むことを祈ってやみません。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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