パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第58回

労働者協同組合とは何か──労働者協同組合法施行を祝って

 本日10月1日は、関係者の皆さんの長い努力がついに実り、労働者協同組合法が施行される記念すべき日です。この法律の施行により、日本でも労働者協同組合(労協)に対する興味関心が増すと思われるため、今回はそもそも労協とは何なのか、一般企業とはどこが違うのかなどについて紹介したのち、私が住むスペインの協同組合法(こちらスペインでは、労協のみならず消費者生協や農協なども全て同じ協同組合法の管轄になっています。なお、スペインでは全国法に加えて、カナリア諸島以外の16州に州法として協同組合法が存在していますが、ここでは全国法を取り扱います)と比較したうえでの違いについて紹介したいと思います。

NHKのクローズアップ現代が作成した、労働者協同組合についての動画

 さて、労協とは何かについてひとことで説明するなら、個人事業主ならぬ集団事業主であると言えるでしょう。以下、ラーメン屋の場合に置き換えて、自営業や会社の場合との違いを見てゆくことにしましょう。

 まず、会社としてのラーメン屋の従業員になる場合、あくまでも店舗での接客や調理などの業務を担当するだけであり、基本的にその会社の株主ではなく、会社の経営方針について口をはさむこともできません。もちろん現場で常連客などと接する中で、「最近は足腰の弱い高齢のお客が多いから店舗でもバリアフリーに取り組んでほしい」とか「値上げしてもいいからチャーシューを増やしてほしいというお客さんが多い」、また「この店のある地域は夜遅くに出歩く人が少ないので、閉店時間を早めたほうがよいのではないか」などの提案を行うことはできますが、その決定権を持つのは従業員ではなく店長や本社の各種関係部署であり、その従業員には全く決定権はありません。また、ラーメン屋がいくら儲かっても従業員にはそれに見合う賃上げやボーナスがもらえる保証はなく、給与体系はあくまでも会社の規則に従うことになりますが、逆にいうと雇用されている限りは、少なくとも最低賃金や厚生年金など労働者としての最低限の権利は守られる存在になるのです。

 その一方、個人でラーメン屋を開いた場合、店舗設備や営業時間、メニューなど全てを自分で決めることができる一方で、店舗の賃貸契約や確定申告など全てを基本的に1人でこなす必要があります。また、このラーメン屋が人気を博して好調な売り上げを記録した場合、その利益はその店主が独占することができる一方、お客が来ない場合には最低賃金さえ得られなかったり、体調を壊して入院したらそもそも収入がゼロになったりするリスクを抱えることになるのです。

 そのような事例と比べた場合、例えば7人の仲間が共同出資して労協を設立し、ラーメン屋を開店した場合、会社と個人の折衷型になると言えます。基本的にこの労協は7人の共同所有物で、ラーメン屋の業務はこの7人で分担することになり、確かにそのうち3人以上が理事になって理事会を組織する必要はありますが、特に少人数の労協の場合にはこの7人が平等な立場で日頃から経営について話し合い、全員が意思決定に参加することができます。また、7人のうち事情により労働時間に制約のある人がいる場合、その人の事情を最大限考慮したシフトを組むことができますし、このラーメン屋が儲かった場合、7人の考え次第でその儲けを配分することもできれば、将来に向けて貯めておいたり、設備投資に回したりすることもできるのです。以下、ラーメン屋でこそないものの、スペインのバルセロナで労協として居酒屋を経営している事例について私が取材し作成した動画を紹介いたします。

「バルセロナの連帯経済」のうち、
労協として運営されている居酒屋「コップ・ダ・マー」を紹介した部分

 その上で、本日施行される労協法について、主に私の住むスペイン協同組合法と比べながら議論してみたいと思います。

 日本の労協法では、第3条第2項において出資金の多寡に関わらず議決権が平等であることが定められています(スペイン法では第26条第1項)。その一方で第9条第3項では、1組合員の出資金額が総出資金の25%に制限されており(3人の場合は適用対象外)、特に組合員4人以下の場合は全員が同じ額の出資金を拠出する必要がありますが、スペイン法にはこのような規定はありません。ちなみにスペイン法でも日本法でも最低組合員数は3人ですが、スペインの地方法では2人による組合も認められているケースもあります。また、現在では日本でもスペインでも、資本金の最低額は特に制定されていません。

 日本法では第3条第5項では非営利がうたわれていますが、これは配当目的に出資だけをする組合員の存在を否定するものであり、労働者としての組合員の権利を否定するものではありません。前述した通り、たとえば労協としてラーメン屋を設立して大儲けをした場合、ボーナスなどの形で労働者組合員にいくら配当しても問題ないのです。その一方、スペイン法では特に非営利はうたわれていません(といっても資本家に利益配当するわけではない点は日本と一緒ですが)。

 また、日本法の第14条では、「90日前までに予告し、事業年度末において脱退することができる」となっており、場合によっては脱退予告から正式な脱退まで1年以上かかるケースがある一方、スペイン法ではいつでも自主脱退できるようになっています。

 しかし、スペイン法と比べた場合の日本法の最大の特徴は、労働契約の締結の義務(日本法第20条)でしょう。これにより日本の労協の場合には、労働者組合員が被雇用者としての側面や、労働時間の制限や福利厚生などの権利を持つことになります。その一方スペインの労協においては労働者と組合との関係は組合員としてのものと規定されており(スペイン法第80条第1項)、基本的に労働基準法の適用範囲外になり、基本的に組合から収益を受け取る自営業者になるため、スペイン法に基づいて社会保険料を払う必要が出てきます。これについては、労働基準法の適用免除という規則を悪用してニセの労協を作らせて、実質上最低賃金未満で長時間労働を強いる動きを排除したものという話を日本側から伺っていますが、その一方で新設労協の場合、売上がまだ少ない中でも組合員に少なくとも最低賃金を払う必要が出てきます。個人事業であれば、最低賃金に満たない利益しか出なくても我慢することが法的には可能ですが、日本の労協の場合、何らかの金策を行って組合員に給与を払わなければならないのです。

 他の協同組合同様、労協においても最高意思決定機関は総会です。年1回の定期総会とは別に臨時総会を開催することができますが、日本法では組合員の5分の1以上(定款によりそれ未満の定足数にすることも可)が理事会に総会開催要請を出してから実際に総会を開催するまで最大20日かかりますが(日本法第59条)、スペイン法では組合員全員が居合わせる(代理を含めて)場合、全員の合意があれば総会をいつでも開催することができます(スペイン法第23条第5項)。このため、特に小規模の労協のように、日頃から組合員が全員揃いやすい環境が整っている場合には、実質上いつでも好きなときに総会が開催可能であり、それだけ機動性が高くなっています。

 さらに、理事会についてもかなりの違いがあります。日本法では常に3人以上の理事(組合員が3人の組合の場合は組合員全員が理事になってしまう)と1人以上の監事(そしてそのうち少なくとも1人が非組合員などの条件を満たすこと)を置き、理事の中から代表理事を選ぶ必要がありますが(日本法第32条)、スペインでは組合員が10人未満の場合、理事会を置かず単一管理人が理事会の機能を全部担うことができます(スペイン法第32条)。また、日本法では組合員が20人までの場合、理事以外の組合員全員による監査会が監事の職務を代行することができますが(日本法第54条)、スペイン法にはそのような規定はありません。

 さらに、あらゆる協同組合について単一の協同組合法でまとめるスペインとは異なり、日本の場合は農協や漁協、消費者生協や労協など協同組合の種別ごとに別々の法律で管轄されているため、複合協同組合(たとえば労協兼消費者生協)を設立することはできません。スペイン法ではたとえば消費者生協の従業員が労働者組合員として消費者組合員とは別の立場で参加したり、どうしても絶対数では少ないものの協同組合に頼る度合いが高くなる労働者組合員がより多くの票数を手にしたりすることができますが(スペイン法第26条第3項)、将来的には日本でも複合協同組合を認めることが大切であるように思われます。

労協という法人格が成立する前から、実質上の労協として活動していた
ワーカーズ・コレクティブを紹介した生活クラブ神奈川の動画(26分)

 いずれにしろ、今日から日本でも労協が正式に認められるようになりました(実際に法人登録が受け付けられるのは、週明けの3日からになるでしょうが)。この法律をきっかけとして、日本国内でも労協が数多く設立されることを祈ってやみません。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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