パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第41回

「意識高い系」の若者に向けて
──社会的連帯経済に関心のある「意識高い系」の若者向けのアドバイス

行動と考察を繰り返すことで連帯経済を構築してゆくことを示した、民衆教育と連帯経済の関係についての動画のワンシーン行動と考察を繰り返すことで連帯経済を構築してゆくことを示した、民衆教育と連帯経済の関係についての動画のワンシーン

 最近の日本では、社会や環境をよくしたいという意欲が強い若者を指す表現として、「意識高い系」がよく使われるようになりました。まだまだ「意識高い系」の皆さんの間では社会的連帯経済について知名度は低いものの、社会的連帯経済の理念とある程度親和性があるように思える一方で、社会観においてちょっとした違いがあるような気もします。今回は、「意識高い系」と呼ばれる皆さんが社会的連帯経済に取り組む場合に知っておいてほしいことを、いくつか書き出したいと思います。

 まず、社会をよくしようという意欲を持つこと自体は素晴らしいことです。確かに今の日本社会では、多くの人がお金を稼ぐことに追われてそれ以上の目標を持てなくなったり、社会的に地位がある人でも威張り散らかすだけで本当に社会のためになることを行っていなかったりするケースが少なくありませんが、そのような状況に満足せず、あくまでもよりよい社会を目指したい皆さんの気持ちはかけがえのないものです。現在の日本社会はかなり冷笑的で、そのような皆さんの努力をバカにする人が少なくありませんが、そういう人たちは相手にするだけ時間の無駄なので、徹底的に無視しましょう。また、日本語だけでは特に情報が限られる世界ですので、できれば後述するように諸外国の人たちと交流することで世界の幅広い見識を持つことも大切です。

 その一方、「意識高い系」の皆さんが社会問題に取り組む場合、往々にして社会的企業を立ち上げ、自分自身が社会的起業家になり社会的な承認を得たいという意欲が強いように感じられます。確かに社会をよくすることへの情熱は評価したいと思いますが、その一方社会的起業家の場合にはあくまでも経営者として、トップダウン型で社会の改善に努めることになります。このような方法では階層型社会が温存されてしまうため、経済の民主化を目指す社会的連帯経済とは方向性がちょっと違うと言わざるを得ません。

 「意識高い系」の皆さんにお伝えしたい事例の一つとして、ブラジルなど南米諸国にある協同組合インキュベーターがあります。この協同組合インキュベーターは、貧困層が自分たちの協同組合を運営して生活できるようにすることを目的として主に大学内に設置されるのですが、大学生や院生自身が起業家になって貧困層に良質の雇用を届けるのではなく、貧困層に生産技術や会計などを教えて、最終的には彼らが自立して協同組合を自分たちだけで運営できるようにするお手伝いをすることを目的としています。知識の豊富な大学生自身が起業家になると上下関係ができてしまうので、そうではなく貧困層の手助けという裏方に回り、彼らだけでやってゆけるようにするのです。このようなインキュベーターの運営の背景には、世界的に著名な同国の教育学者パウロ・フレイレ(1921~1997)が始めた民衆教育がありますが、自分たちで事業を運営させることで自立させ、連帯経済により生活の向上を目指すわけです。

民衆教育と連帯経済の関係について(日本語字幕版)

 個人的に皆さんにお勧めしたいのは、2008年に南米ウルグアイの首都モンテビデオで制定された大陸間社会的連帯経済推進者ネットワーク(RIPESS)憲章の和訳文を読んだうえで、その内容について仲間や地域の大人、場合によっては大学の先生などと議論することです。民主主義については先ほどコメントしましたが、それ以外にも連帯や諸国民の統合など、あまり日本で使われない用語を中心としてその意味について掘り下げた議論を行うと、社会的連帯経済の本質について理解が深まるはずです。また、かなり古くなってしまいましたが、2006年にやはりブラジルで制作された連帯経済を紹介する動画(12分)をご覧になると、そのあたりの意識がわかりやすくなると思います。

ブラジルの連帯経済(2006年制作、日本語字幕付き)

 また、昨年オンライン会議として変革型経済の世界社会フォーラムを運営したバルセロナが州都のカタルーニャでは、市民社会をベースにし、市民社会自体が主役となって社会をよくしてゆくことを目的として連帯経済が行われていますが、ここでは自分たちが起業家になって他の人を雇ってあげるのではなく、関係者全員が基本的に平等な組合員として協同組合を起こしてゆこうという姿勢が重視されています。もちろん専門知識などについてコンサルという形でアドバイスをすることはありますが、基本的に協同組合を通じて各種商品やサービスの生産や消費などを行うことにより自分たちが目指す世界を構築してゆくことが、社会的連帯経済の存在意義だといえます。

ドキュメンタリー「バルセロナの連帯経済」(2019年秋取材、日本語版)

 昨年末に労働者協同組合法が成立したことで日本でも協同組合のことが少しは話題になり始めているようです。協同組合については以前の記事で紹介しましたが、まだまだその認知度が低いように思われますので大切な点を書くと、1995年に英国・マンチェスターで開催された国際協同組合同盟(ICA)で以下7つの協同組合原則が定められており、経済活動を通じてこれらを実現することを目的にしている法人の総称だと言えます。

  1. 自発的で開かれた組合員制: 参加および脱退は各個人の自由に任されており、誰にも強制されない
  2. 組合員による民主的管理: 誰か経営者に任せるのではなく、基本的に組合員全体で民主的に運営を行う(実際には組合が成長するとどうしても直接民主的運営は難しくなるが)
  3. 組合員の経済的参加: 組合員は労働者や消費者などとしてのみならず、資本面でも参加する(例: 大学生協や消費者生協に入る際の出資金)
  4. 自治と自立: 行政や外部資本家などの干渉を受けず、あくまでも自主運営を行う
  5. 教育、研修および広報: 組合員に対してきちんとした情報などを提供する
  6. 協同組合間の協同: 自分たちの組合の中だけで団結するのではなく、同じ協同組合運動の仲間として他の協同組合とも積極的に協力関係を築いてゆく
  7. 地域社会(コミュニティ)への関与: と同じことを地域社会に対してもしてゆく

 また、社会的連帯経済に関わるうえで忘れてはならないことは、ラテン世界を中心として全世界に広がる運動であるという観点です。日本を一歩離れると日本語は通じず、英語も公用語になっているとはいえラテン系、特にスペイン語系の人(スペイン語が母語の人に加え、外国語としてスペイン語をマスターした人)が多い世界になりますので、できれば英語やスペイン語を勉強して、こういった会議に参加して海外の関係者と友好を深めて学び合える関係を作ったり、世界各地の情報を取ってきたりできるようになることが大切です。また、日本語で読める社会的連帯経済関係の情報は限られていますので、世界の情報を積極的に獲得するにはそれなりの語学力が必要です。

 社会的連帯経済関係の語学学習については以前の記事で取り上げていますが、大学入試時点でそれほど英語が苦手でなかった人なら、毎日1時間から1時間半ほど英語学習に割くと1年ほどで英語に自信が持てるようになるはずです。また、スペイン語などをゼロから始める場合でも、1年から1年半ぐらい頑張れば日常会話には苦労しなくなり、それからさらに半年から1年ほど頑張れば社会的連帯経済関係のウェビナーに参加したり、各種資料を理解したりできるようになるはずです(これを機会に本気で語学を勉強しようという方がいる場合、私のほうでコーチングしたいと思いますので、ぜひご連絡ください)。

 意識が高いこと自体は問題ありませんが、社会的連帯経済の目指す理念とは多少ずれているところもありますので、そこについては方向修正をしてゆく必要があります。この記事が、社会的連帯経済を目指す若い皆さんにとって何らかのご参考になれば幸いです。

コラムニスト
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廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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