パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第42回

中南米やスペイン・ポルトガルの地域通貨の現状
──オンライン国際会議の報告をもとにして

 4月9日(金)から11日(日)にかけて、イベロアメリカ(スペイン・ポルトガルと中南米をまとめた表現で、毎年1回関係諸国の首脳が集まる会議が持ち回りで開催されている)を対象とした地域通貨のオンライン会議が開催され、さまざまなテーマで議論が行われました。その中でも圧巻は、イベロアメリカ各地にある約40もの事例の紹介で、時間の制約はあったものの、これまでイベロアメリカ域内の関係者の中でもあまり知られていなかった全貌がかなり明らかになりました。今回は、そのオンライン会議での発表内容をもとにして、今回の会議では発表されなかったものの私が把握している情報を含めたうえで、イベロアメリカ全体の地域通貨の状況について紹介したいと思います。

 イベロアメリカでの地域通貨にとっては、Covid-19によるオンライン会議の普及が、事例間の交流や実践例の改善などに非常に役に立ったということが挙げられます。スペイン語は現在、スペインの他メキシコ以南の中南米18か国と米領プエルトリコ、そしてアフリカの赤道ギニアで公用語になっており、これらの地域ではほとんどの人たちが母語や日常語として使っていますが、米国でもラテン系移民とその子孫を中心としてスペイン語話者が増えており、最近はフランスやドイツなど欧州諸国でも第2外国語としての人気を増しています。さらに、ブラジルやポルトガルなどで使われているポルトガル語とも非常に似ており、ブラジルやポルトガルなどとの意思疎通もそれほど難しくありません(例えていうならタイ語とラオ語、またはインドネシア語とマレー語のような関係)。これら諸国は非常に遠く離れており、仮にCovid-19がなかったとしても、特に草の根の市民運動家にとって国際会議への参加は費用面でも時間面でも困難でしたが、その一方で中南米諸国でもインターネットのインフラがかなり改善し、大都市のみならず地方都市でもZoomなどのオンライン会議に参加可能な人が増えており、旅行しなくても自宅から会議に参加できるようになっています(スペイン語圏の東西の時差は最大で9時間なので、一番東にあるスペインの夕方から夜にかけてオンライン会議を行えば、スペイン語圏全体の人が参加可能)。これにより、スペインや中南米各地の現場で日ごろ取り組みを行っている人たちが自分たちの事例を発表し、国を超えて気軽に交流できるようになっているのです。

スペイン語圏(赤)とポルトガル語圏(青)- 出典: Wikipediaのテンプレートをもとに筆者作成スペイン語圏(赤)とポルトガル語圏(青)- 出典: Wikipediaのテンプレートをもとに筆者作成

 まず、特定の国に限定されない動きが2つあるので、それについて紹介したいと思います。時間銀行についてはヨーロッパでは、EUの補助金により最初の時間銀行がスペインやポルトガルで1990年代に立ち上がり、その運動が今でも続いていますが、最近ではカナリア諸島のテネリフェ島のように、サービスだけではなく食料品や中古品の取引も始まっています。エクアドルではエスケル財団が時間銀行の推進に取り組んでおる一方、チリでは後述の通り、社会変革の道具として時間銀行が推進されており、その他アルゼンチン、コロンビアやメキシコなどに事例が存在しています。そんな中、2019年10月にアルゼンチン、エクアドル、スペインとポルトガルの専門家が集まってイベロアメリカ時間銀行協会が立ち上がり、スペイン語圏・ポルトガル語圏全体向けに新規事例の設立などの支援を行っており、日本や香港、中国本土や台湾などとも関係を構築し始めており、こちらでもアルゼンチンやエクアドルなどで時間銀行での物品の取引を始めています。

イベロアメリカ各地の地域通貨の事例を紹介したセッション
(スペイン語・一部ポルトガル語)

 次に、アルゼンチンで始まり、その他南米諸国に広がっている、暗号通貨の技術を応用した相互信用型の地域通貨です。アルゼンチンではかつて地域通貨建てで取引を行う交換市が存在しており、2001年末から2002年にかけての経済危機の際に栄え、最盛期には数百万人もの人たちが食いつないでいましたが、通貨管理の杜撰さなどにより地域通貨経済でハイパーインフレが発生し、また公式経済が回復したこともあり、これら交換市は衰退してしまいました。この当時地域通貨の推進役として活躍し、アルゼンチンのみならず中南米や欧米各地で知られるようになったエロイサ・プリマベーラが中心となり、当時の成功体験を活用し失敗による教訓を取り入れ、パル通貨という暗号通貨が導入され、ブエノスアイレス首都圏のみならず各地で実践されるようになりました。具体的には、以下の通りです。

  • プロシューマーの考え: 人間は生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)のどちらかだけであるということはあり得なく、両方の側面を合わせたプロシューマー(スペイン語ではプロスミドール)の考えを提示したうえで、個人レベルで生産と消費のバランスを取ることが大事だと強調。
  • 交換市は頻度が大事: 多くの国では交換市が月1回未満の頻度でしか行われていないが、これでは日常生活の道具として地域通貨を使うことはできない。やはり週1で開催し、野菜などの食品を地域通貨で買えるようにならないと、本当の意味で生活を支える道具にはならない。
  • 交換市で提供する商品やサービスは、100%地域通貨建て: 日本円と地域通貨を併用するのではなく、地域通貨だけで完結する経済を作る。
  • 交換市で以下の点を伝える: 自己紹介(連絡先)、交換市で提供しようと思っている商品やサービス、以前お金を使わずに入手に成功したことのあるもの、この見本市にあるもので今すぐ消費できるもの。基本的に地域通貨経済にどのような形で(生産者または消費者として)関われるかを発表する一方、他の人がこれに興味を持ったら手を挙げることでその意思を伝える。たとえば誰かが「私はボサノヴァを弾ける」とか「私が運営を手伝っているNPOのホームページをリニューアルしたいけど、手伝ってくれる人はいますか?」と発表し、ボサノヴァのライブをしてほしかったり、NPOのホームページ制作を手伝いたかったりする場合には手を挙げることで、地域通貨のグループ内で経済が回る可能性があることを実証する。
  • 交換市の最後に自己考察の時間を持つ: 何を学習したか、どの点で改善を達成したか、どの点で/誰に貢献したか、何を楽しんだ(しめなかった)か、この学習から何が可能か、そして今日は何に取り組むことを誓うかという6点を考察し、常に改善に努める。
  • 交換市の各種役割を、持ち回りで担う: 誰かが常に同じ役割を果たすのではなく、受付や司会、タイムキーパーなどの役割を毎回別の人が担うことで、中長期的にはみんなが担当できるようにする。
パル通貨などについて分科会で発表を行うエロイサ・プリマベーラパル通貨などについて分科会で発表を行うエロイサ・プリマベーラ

 このような哲学や運営方針をもとにして、アルゼンチンだけではなく、ウルグアイのSOL、エクアドルの首都キトのムユ、コロンビアの首都ボゴタのルナやチリ・バルパライソのペタロが同様の方式で動いています。

 次に、イベロアメリカ各国(国名は五十音順)における、2021年現在の地域通貨の概況をお伝えしたいと思います。
 アルゼンチン: 上記のパル通貨や時間銀行に加え、2015年頃より経済状況の悪化を受けて交換市が復活しているが、昔と違って地域通貨を使わず、食料品や古着などを直接物々交換する方式が一般的に。また、同国で2番目に大きな街コルドバでは(スペインのコルドバと間違わないように注意)、リサイクルした人に地域通貨ドクタを支払うシステムが導入されている。

アルゼンチンで現在行われている物々交換市についての
地元のテレビ局の報道(スペイン語)
  • ウルグアイ: 人口350万人程度(静岡県よりちょっと少ない)の小国ということもあり、SOL以外には時間銀行の動きが多少見られるのみ。
  • エクアドル: 学術都市クエンカでベジタリアンなどが集まって2020年5月に発足したフルピが活況を呈していたが、最近はちょっとお休み気味。ただ、フルピに刺激を受けてエクアドル各地で類似の事例が生まれつつあり、今後は面白い展開になるかも。また、エスケル財団による時間銀行への支援も始まっており、同国に属するガラパゴス諸島でも地域通貨の導入に向けた準備が進んでいる。
フルピを紹介した動画(スペイン語)
  • コロンビア: 以前からいくつかの事例が細々と運営されてきたが、険しいアンデス山脈のせいで国内交通が不便なこともあり、伝統的に国内ネットワークの形成が進んでいなかった。ただ最近では同国で連帯経済一般への関心が高まっており、その一環として地域通貨においても新規事例が生まれている。昔から行われている事例としてはメデジンのセンタボ・イ・メディオやシクロが、最近の事例としては首都ボゴタ郊外のソアチャで始まったエコルス、ボゴタ都市圏で若者を取り込んだ暗号通貨eトルエケや、国内各地にある観光向けの時間銀行の事例などが存在し(いずれも基本的にLETS方式)、カリブ沿岸のサンタ・マルタ市ではリサイクルや水道関係で市役所を巻き込んだアルナの計画が進行中。
  • スペイン: 2015年時点で私が書いた記事と比べると、貧困層向け生活手当を地域通貨で支給し地域経済の活性につなげる取り組み(バルセロナ市のRECや、バルセロナ近郊のサンタ・クロマ・デ・グラマネット市のグラマなど)、プラスチックやガラス瓶などのリサイクルに協力した人に地域通貨で報酬を与えるイラティ(ナラバ州イラティ地域)、省エネや再生可能エネルギーの推進と結びついた形でバルセロナ都市圏のビラダカンス市で市役所が推進しているビラワットなどが登場。カナリア諸島のテネリフェ島では、コワーキングによる地域通貨バベルが運営されている(LETS方式)。その他、前回の記事で取り上げたラ・トゥルータも健在で、一般市民が参加するLETS方式の取り組みとして各地で小規模交換ネットワークが存在(バレンシア州中北部のラ・ビンティクアトレ、バレンシア州南部からムルシア州にかけてのオセル、バレアレス諸島のカラ(メノルカ島)やモリネット(フォルメンテラ島)など、サラマンカのエコレード、ガリシア州のア・サビアなど)。また、アンダルシア州在住のプログラマーがクリックコインというアプリを開発し、スペイン国内外で広く使われている。さらに、暗号通貨としてはカタルーニャ発の分散型通貨クロアットや、ベーシックインカムと関連してフランスで始まりスペインにも定着したĞ1も存在。
  • 中米: 2010年頃まではオランダのNGO「STRO」が中米各国でさまざまな事例を展開していたが、現在生き残っているのはエルサルバドルの企業間バーター「プント・トランスアクシオネス」のみ。以前は、バイオマスを活用した地域通貨や、農協が発行する地域通貨が存在したが、これらの事例は現在では機能していない。
  • チリ: 2019年10月にピニェラ大統領による新自由主義政策に反対する大規模デモが怒って以来、政治的に目覚めた人たち、特に若者による各種運動が盛ん。前述した時間銀行やペタロに加え、チリ第2の都市コンセプシオンで始まったラ・モチャや、バルパライソで大学関係者により創設されたバルポ、エコロジストなどが使うエコス(首都サンティアゴ市)などが有名(全てLETS方式)。
  • プエルトリコ: 米領だがスペイン語が日常語であるこの地域では、数年前にアーチストを中心とした地域通貨「バロール・イ・カンビオ」(価値と交換)が運営されたり、時間銀行が機能していたりしていたが、現在では本格的に運営されている事例は特に見当たらない。ただ地域通貨に関する潜在的な関心はあり、関係者がスペイン語圏各地の事例の研究を続けている。
  • ブラジル: コミュニティ開発銀行については2020年8月の記事で取り上げたが、それ以外にも同国南部にはアルゼンチン型の交換市の事例が存在。また、サルバドル市では廃品回収や女性向けエンパワーメントのプロジェクトの一環として、時間銀行の設立を準備中。
  • ボリビア: ヨーロッパに本部のあるNGOが一時期地域通貨の市場を開設・運営していたが、Covid-19により中止されてしまい再開の見込みなし。
  • ポルトガル: 伝統的に月1以下の頻度で開かれる見本市と時間銀行が大半だったが、2020年9月にリスボンから100kmほど離れたモンテモール・オ・ノーヴォという町で地域通貨モルが誕生。ユーロの担保つきで地元商店などの取引を活性化する方式で、少しずつ進行中。また、欧州大陸から遠く離れた大西洋上にあるアゾレス諸島でも、地域通貨のプロジェクトを準備中。
  • メキシコ: 1990年代に始まったトラロックは終焉し、その後継事例としてLETS方式のミシューカが存在しているが、その他多様な事例が存在。ベラクルス州エスピナルで生まれメキシコ国内各地に広がったフィアット型通貨トゥミン、オアハカ市内の人気喫茶店での決済の簡素化から生まれ州内各地の商店を巻き込むようになったウェルコイン(メキシコペソ担保)、子どもによるおもちゃの交換を主眼としたエル・ベルディジェーテ、メキシコ国内の中小企業向け企業間バーターのバンカソル(メキシコペソ担保)、若いエコロジストなどが集まって部ラスク州ハラパ市で生まれた交換クラブ「チピチピ」(LETS方式)、名門メキシコ国立自治大学内で流通する地域通貨ファウスト、メキシコ・ペソを担保として連帯経済関係の商店で使えるエコムン、そしてアグアスカリエンテス市では環境運動や貧困対策などに向けた地域通貨が存在。また、カンクンの近くでは、リバタリアン的な地域通貨エル・カリベも存在(LETS方式)。

 イベロアメリカ各地に存在する地域通貨の事例は多様で、これについて詳述するとそれだけで1冊の本が書けてしまうほどですが、これだけ多様な事例が存在し、国際的なネットワークを作り続けていること自体が、今後の発展において大きな手助けとなることでしょう。地域通貨に関する情報はどこでも非常に限られており、互恵ネットワークがないと各地域で孤立して失敗してしまうケースが多いですが、全国レベルのみならずスペイン語圏・ポルトガル語圏全体でこのような大きなネットワークを作り、お互いの状況を知ることで、各地の事例を改善して参加者を増やすことができるようになります。また、単に個人間の取引を行うだけではなく、リサイクルや地場商店の支援などさまざまな目的で各事例がさまざまな取り組みを行っているので、このあたりで新しい発想を得て、他の地域の成功例を導入したりしやすくなります。

 今後どのように地域通貨がイベロアメリカ各地で発展するかはまだわかりませんが、これだけの多様な事例がお互いに知って交流を始めたことから、これからの展開が非常に楽しみです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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