パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第46回

バルセロナで行われた社会的連帯経済推進関連の公共政策の総括

 スペイン第2の都市バルセロナでは、2015年の市議選により社会的連帯経済の推進に積極的な議員が市の行政に入ったことから、各種推進政策が行われましたが、この関係で2019年までの政策についてまとめた論文(英語)が、国連系のシンクタンクである国連社会開発研究所のサイトで公表されましたので、今回はこの内容について紹介したいと思います。なお、バルセロナや、バルセロナを州都とするカタルーニャについて、公共政策を含む過去記事については、以下をご覧ください。

ドキュメンタリーバルセロナの連帯経済(日本語版)

 バルセロナというと、2020年6月に変革型経済社会フォーラム(COVIDの蔓延によりオンライン開催)を開催した都市として世界的に知られていますが、その一方で2015年までは市役所は社会的連帯経済に無関心に、推進政策はそれほど存在していませんでした。しかし、前述の市議選により進歩派諸政党による連立政権が発足し(スペインでは州知事や市長も議院内閣制。選挙としては州議選や市議選しかなく、議員の中から州知事や市長が選出される方式)、住宅ローンの延滞により自宅を追い出される人を守る運動PAHの共同創設者だったアダ・クラウが市長に就任すると、アダ・コラウの政党バルセロナ・アン・コムー(ポデモス系)に連帯経済出身の議員ジョルディ・ビアがいたことから、連帯経済への各種公共政策が取り組まれるようになりました。世界的に見るとバルセロナには非常に興味深い事例が多い一方、バルセロナの一般市民や市役所の中では連帯経済に対する認知度が低かったため、従来の民間資本主義一本槍の経済政策に代わるものとして、そして民主主義のさらなる発展の一助として、前述の社会的連帯経済推進政策(詳細は上記リンク参照)がまとめられたのです。なお、同政策とは別個にまとめられた市役所地域社会計画やバルセロナ起業支援局開発計画でも、社会的連帯経済に関連した政策がまとめられています。

 この論文では、社会的連帯経済について関係者間で共通した展望や認識が共有されていなかったことから、それを作り出すことから始める必要があったことが書かれています。この目的で何度も会合を重ねることで、単に展望や認識を共有するだけではなく、社会的連帯経済部門の運営構造を築くうえでも役に立ちました。こうして社会的連帯経済の実践団体、シェアリング経済関係者、市民イニシアチブと市役所側の四者からの代表が政策づくりを行い、また市役所の中にも協同組合・社会的連帯経済局が設立され、市役所が選んだ連帯経済の活動家がこの委員長に就任したのです。以下、6分野で実際に行われた政策を具体的に紹介します。

  1. 金銭的支援:2018年までに320万ユーロの補助金を409のプロジェクトに提供。また、既存の倫理銀行やクラウドファンディングと協力して、社会的連帯経済事業体の資金へのアクセスを改善。
  2. 認知支援:社会的連帯経済の実業家や各種団体、特に女性や貧困層(2018年までに1516名)、そして若者(367名)を対象と各種研修を実施したり、カタルーニャ連帯経済ネットワークが毎年行う連帯経済見本市などの運営支援を行ったり、連帯経済各分野のイベントを開催したり、社会的連帯経済関連の資料を作成したり、連帯経済部門の広報能力研修を行ったり、バルセロナ市内の連帯経済の調査研究を行ったりなど。
  3. 技術支援:認知支援で取り上げた各種研修などの参加者に向けて、各種技術の習得においても支援を提供。
  4. 公共入札への参入支援:バルセロナ市役所による入札の一部を社会的連帯経済の企業に開放など。
  5. 独自支援:①から④に属さない事例。具体的には、地域通貨RECの導入や、ミュニシパリズムと社会的連帯経済との関連イベント、市役所レベルでの社会的経済のネットワークC.I.T.I.E.Sへの参加、昔の工場跡を社会的連帯経済団体に貸し出しての事業開始。
  6. 協同労働や平等参加の支援:社会的連帯経済の各種連合会への資金的支援。
社会的連帯経済推進政策について紹介する
バルセロナ市役所の動画(カタルーニャ語)

 2015年から2019年の期間において使われた総額は2428万6442ユーロで、そのうち827万1000ユーロが投資に使われました。2016年から2018年にかけては新規協同組合の数が5.4%増加し、カタルーニャ労働者協同組合連合会への登録数が32%増えました。さらに、この時期にはバルセロナ市役所とは別に、カタルーニャ州政府も協同組合アタネウというインキュベーション支援事業を州内各地に立ち上げており、また州内で社会的連帯経済を推進する自治体のネットワークも結成され、また州法として社会的連帯経済法を可決させる取り組みも行われています。

 この論文では、これらの政策についてのアンケート調査の結果が、以下の通りまとめられています(1~10までの評価で、10が一番よい。評価の高いものから低いものへと並び替え済み)。

  • 市役所からの特定の補助金: 8.4
  • 社会的連帯経済見本市や会合: 8.2
  • 社会的連帯経済の企業や団体に対する、総合的な協同組合経営の技術支援の提供: 8
  • 社会的連帯経済に向けた設備や公共空間の割り当て: 7.6
  • 融資機関としての倫理銀行や信用金庫の推進: 7.5
  • 一般市民やマスコミへの社会的連帯経済の紹介や意識づけ: 7.4
  • 社会的連帯経済を象徴する空間の設営: 7.2
  • 社会的市場、カタログや社会的連帯経済のマッピング: 6.8
  • 認知してもらうためのリソースの開発: 6.6
  • サービスの地域管理: 6.6
  • 市町村や国際ネットワークの強化: 6.4
  • 協同組合グループや二次・三次団体の推進: 6.2
  • 社会的連帯経済における推進と研究: 6.2
  • 市役所の政策への社会的連帯経済の統合: 5.3
  • 市役所の推進団体や職員への研修: 5
  • 教育機関や大学での研修や啓発: 5
  • 公共入札へのアクセス改善: 4.7
  • 社会的連帯経済により好意的な税制の研究: 4.5

 同じ公共政策といっても、国、州と市町村においては、実現可能な政策の種類が大きく変わってきます。たとえばスペインの場合、税制は基本的に国が決め、国税庁の管轄下にある税務署が徴収事務を管轄していることから、州や市レベルで実現可能な裁量はほとんど残されていません(日本は所得税と住民税が分離しているが、スペインでは一元化されており、国税庁から地方交付税として各州や市町村に配分される形)。また、社会的連帯経済の活動は、その顧客として行政を特に想定していないものが大半であるため、公共入札へのアクセスが改善されてもあまり魅力的には感じないでしょう(フェアトレードタウンにより市役所がフェアトレードのコーヒーを使うことを決めた場合、多少影響はあるでしょうが)。

 また、意識づけや各種広報活動について高い評価が出ていますが、個人的には社会的連帯経済に対して、個人としてどのように関われるのかをもうちょっと具体的に紹介したほうがいいと思います。特に、資本主義企業の社員や公務員として働いている人に対しては、労働者として現在の仕事を辞めて労協に参加したり、新たな労協を結成したりしろとは言いづらいでしょうが、消費者としての立場を強調することで、労協や消費者生協など社会的連帯経済の団体の産品を消費することで社会的連帯経済に参加してもらえるようになります。その他、さまざまな属性の人たちの琴線に触れる形で社会的連帯経済のマーケティングを効果的に行うことが欠かせないでしょう。

 さらに、倫理銀行など連帯経済系の金融機関の重要性を強調する声も少なくないことにも、注目する必要があるでしょう。社会的連帯経済の場合、その社会性から行政からの補助金が出やすい国もある一方で、そうなると補助金目当てで事業を設立して、補助金が切れると事業をたたむケースが数多くはびこることになります。そうではなく、社会的連帯経済側が責任をもって持続可能な事業に資金を融資し、補助金に頼らず自活できる事業を増やしてゆこうという姿勢こそが、行政からの自立という点でも大切ではないでしょうか。

 日本の自治体でも、NPO支援センターや創業支援センターを運営しているところは少なくないでしょうが、これらの支援内容に労働者協同組合の設立支援を入れたり、NPO支援センターであれば社会的連帯経済支援センターに改組したりするという手もあるでしょう。社会的連帯経済支援センターにできれば、協同組合のみならずフェアトレードや倫理銀行などさまざまな事例を支援することができるようになるため、より将来性のある政策になると言えるでしょう。

 日本での労協法施行まであと1年となり、今後日本でも労協設立支援関係のさまざまな政策が打ち出されるでしょうが、そのような政策の立案の際にバルセロナの事例がご参考になれば幸いです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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