燕のたより

第47回

命の価値はどれほどの日々を生きたのではなく、どのように生きたのかによる

命の価値はどれほどの日々を生きたのではなく
どのように生きたのかによる

◇◇ 一寸の虫にも五分の魂 ◇◇

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1.二人の林氏

 二人の林氏に心から敬服します。
 銅鑼湾書店の林栄基氏は、タバコを3本吸ってからようやく勇気を奮って真相を語り始めました。氏は香港の詩人の舒巷城の詩句を引用し、自分の気持ちを表しました。
 「ぼくはひざまずく本棚を見たことはない。しかし、ぼくはひざまずく読書人を見たことがある」
 烏坎村の林祖恋氏のお姿は、NHK特集番組で何回も見ました。林氏は村の土地の不当な収用のため村人とともに、理性的合法的民主的に抗議しました。また民主的な選挙を実施しました。その強靭なまなざしは脳裏に焼きついています。
 6月21日、彼がテレビで罪を認めさせられる画面を見て驚きました。彼はどれ程の苦痛を受けたのでしょうか? SNSでは、林氏の唯一の孫で脅されたとのことです。どなたか確認できたら教えてください。
 テレビで「公開自白」をさせることは、憲法に合いません。そこから、私は「冤罪の農民」の謝民が「天の神よ、これは共産党の天なのでしょうか?」と法廷で天を仰ぎ長嘆したことを思い起こしました(拙訳『中国低層訪談録』集広舎、p.327)。合わせてこれをお読みくだされば、状況がより深く理解できます。

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2.世の光として

 日本ではまもなく参議院選挙の投票です。今回、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられました。イギリスでは国民投票でEU離脱が決定されました。
 この時ますます、私は烏坎村の林祖恋氏のことへの思いを募らせます。2012年、NHK特集番組で烏坎村の若者が熱心に村委員会の選挙に参加したことを見ました。
 しかし、問題が解決しないため、烏坎村の村民が合法的に抗議しました。6月23日、メディア(主に香港のメディアやNGO)は烏坎村から退去させられました。
 村人は必死にみんなを守ろうとしました。
 その状況下で林氏は弁護士に依頼せずに文を書き残しました。林氏はおそらく法律に絶望していたのでしょう。そもそも良知ある弁護士は受難する時代です。
 また、林氏は「葬式改革誓約」に次のように書きました。
 「命の価値はどれほどの日々を生きたのではなく、どのように生きたのかによる」
 これはソクラテスの「大切にしなければならないのは、ただ生きるということではなく、よく生きるということなのだ。」(プラトン『クリトン』より)に通じるものです。
 今日の世界は、目をくらませる強烈な発光体となっていると言えます。また交響楽にも喩えられるでしょう。強烈な光は人々の眼を刺し抜き、大音響は耳を聾します。でも、声なき民の勇者を忘れないで……。
 林祖恋氏や村人、香港の林栄基氏たちは、日本で想像する以上に困難な状況下で必死に頑張っています。まさにお一人お一人は目くるめく発光体を凌駕する世の光なのでしょう。

  敬重兩位林先生。香港銅鑼玩書店的林榮基先生。林先生抽了三根煙之後,終於鼓起勇氣說出被綁架的真相。他引用香港詩人舒巷城的詩歌表達了自己的心情:我沒見過/屈膝的書檯/雖然我見過/屈膝的讀書人。
  廣東烏坎村的林祖戀先生。NHK專題節目,關於烏坎村人為不當土地徵收,村人的理性合法民主抗爭和選舉節目,看了很多次。林祖戀先生堅忍的眼神,烙印於腦。
  今天看到他在電視上「認罪」,想,承受了多大的痛與苦!有人在網上說,他唯一的孫子被綁架了(求證)。请停止电视“公审”,不符合宪法的。

  日本即將進行參議院選舉投票。選舉權年齡從二十歲降到十八歲。英國國民投票,通過脫離歐盟。越發掛念烏坎村的林祖戀老先生。NHK專題節目中看到了烏坎村年輕人民主競選村委會。(2012年的節目,)但本月6月23日,媒體(港媒多),NGO幾乎都撤離了烏坎村。村民拼死保護媒體人。林先生囑咐不請律師,老人家對法律絕望了嗎? 確實當今良知律師受難的時代。看到老人家簽名的(「殯改共約」),
  「生命的價值不在於活多少天,而在我們如何使用這些日子」。林先生的話,令我記起蘇格拉底的名言:追求善好的生活,遠過於活著。(出典:柏拉圖「克力同」
  世界,巨大的交響樂,發光體。強光,刺眼,強音,襲耳。別忘這些默默無聞的勇者。他們(她們),塵世之微光。

付注
 2011年、広東省烏坎村では地元政府の腐敗汚職に抗議し、40年も居座り続けた村の共産党書記を追放し、自治組織を設立し、2012年2月11日、初の村民代表会議(村議会)選挙を実施し、有権者の八割を超す約6500人が投票し、候補者150人の中から109人の代表を決めた。香港メディアなどは「政府が初めて認めた権利擁護的民間選出の村組織」と賞賛した。しかし、今年の6月、村の代表の林祖恋氏は拘束された。
 次に、香港では中国体制に批判的な書籍を取り扱う銅鑼湾書店の関係者が、昨年、中国当局により次々に拘束された。店長の林栄基氏は10月に拘束され、今年の6月14日に釈放され香港に戻った。

コラムニスト
劉 燕子
中国湖南省長沙の人。1991年、留学生として来日し、大阪市立大学大学院(教育学専攻)、関西大学大学院(文学専攻)を経て、現在は関西の複数の大学で中国語を教えるかたわら中国語と日本語で執筆活動に取り組む。編著に『天安門事件から「〇八憲章」へ』(藤原書店)、邦訳書に『黄翔の詩と詩想』(思潮社)、『温故一九四二』(中国書店)、『中国低層訪談録:インタビューどん底の世界』(集広舎)、『殺劫:チベットの文化大革命』(集広舎、共訳)、『ケータイ』(桜美林大学北東アジア総合研究所)、『私の西域、君の東トルキスタン』(集広舎、監修・解説)、中国語共訳書に『家永三郎自伝』(香港商務印書館)などあり、中国語著書に『這条河、流過誰的前生与后世?』など多数。
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