パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第51回

社会的連帯経済と資本主義との関係について

 私の連載では社会的連帯経済について頻繁に取り上げていますが、それ以外の従来の経済、具体的には資本主義経済との関係については今までそれほど考察してきませんでした。今回は、この点に焦点をあてて考察を行いたいと思います。

 今回の記事を始めるにあたって触れておくべき大切な点としては、社会的連帯経済に類似した概念が数多くあり、それぞれの守備範囲が異なっているということです。具体的には以下の通りとなります。

  • 社会的経済(欧州): 非資本主義的かつ公営企業でない経済活動の総称(伝統的には協同組合、NPO、財団、共済組合だが、それ以外の団体でも認められることも)
  • 社会的経済(韓国): 韓国社会の中で生まれてきた各種事例を事後的にまとめたもの。具体的には自活企業、マウル企業、社会的企業、協同組合(特に社会的協同組合)など
  • 連帯経済: 環境保護や各種人権の保護といった社会変革運動の手段としての経済活動
  • 社会的連帯経済: 社会的経済と連帯経済を合わせたもの
  • 非営利セクター: レスター・サラモンがその著書「台頭する非営利セクター」(邦訳はダイヤモンド社より)で取り上げた概念で、利益の追求を経営の目的としない事業体の総称
  • 社会的企業: 利益よりも社会的目的(特に貧困層や障碍者など向けの雇用や格安サービスの提供)の実現を重視した経営
  • 社会的包摂企業: 社会的企業に似ているが、基本的に一時的な研修生として雇用して、別の企業に再就職させることが最終目的
動画: ソウルの社会的経済(筆者制作)

 このような定義により、各コンセプトに含まれる事例についても大きな違いがあります。以下の表では、そのあたりの分類を簡単に示しています。

  社会的経済/欧州 社会的経済/韓国 連帯経済   社会的連帯経済 社会的企業 非営利セクター 社会的包摂企業
協同組合
×
NPO
財団
×
×/△
私立学校・病院
×
×
×
×
×
×
慈善団体
×
×
フェアトレード
×
×
倫理銀行・地域通貨
×
×
社会的企業
有機農業
×
社協・赤十字
×
×
×
×
自営業・家族企業
×
×
×
×
×
自活企業・マウル企業
×
×
×

表: 各概念の守備範囲(筆者作成)

 社会的経済は、当初の定義からかなり拡大しており、現在では私立学校や病院、そして自営業や家族企業を除いたものであれば、上記の表の事例が全て該当する可能性があります。その一方で、社会的経済から発展して生まれた連帯経済は、環境保護や反貧困など各種社会運動と密接な関連があり、その目的の達成のために行われる経済活動であるため、基本的に社会的経済と比べると基準が厳し目ですが、有機農業や自営業・家族企業に対しては基準が甘くなる傾向にあります。なお、韓国の場合は、フランスなどラテン系欧州諸国とは異なった形で独自の発展を遂げてきたため、具体的に含まれる事例がかなり異なることになります。

 社会的企業と社会的包摂企業については、確かに似たような概念ですが、前述したような目的の違いがあるため、たとえばフェアトレードはその性質上社会的企業に自動的に入る一方、社会的包摂企業に含めるには一定の条件をクリアしなければなりません。また、社会的企業自体が社会的包摂企業に入るかについては、基本的に長期失業者やドロップアウトなど普通の就職が難しいとされる層を受け入れる土壌が難しい人を研修して他の職場でも就職できるようにしていればOKですが、そうでない場合は難しいと言わざるを得ません。

 その一方で非営利セクターには、利益追求を行わず、かつ公営企業でない団体であればすべてが含まれ、特に他の概念では取り扱われない私立学校や私立病院が含まれますが、逆にいうと利益が出そうな分野は、どれだけ公益性があっても排除されます(協同組合や有機農業など)。

 さて、上記のように各概念への所属事例を確定したうえで、従来型資本主義との関係について詳しく見てゆくことにしましょう。
 非営利セクターや社会的企業、そして社会的包摂企業は、基本的に今の資本主義は資本主義なりの役割を果たしていると認識したうえで、利益が出ないため資本主義企業があまり取り組もうとしない社会的ニーズについては、非資本主義的な経済活動で満たしてゆこうという立場です。そしてその社会的意義を強調したうえで、場合によってはその資本主義企業によるCSRや同企業グループに属する財団、またはこれら企業を保有・経営する大富豪個人から金銭面などの各種支援を得て、資本主義との共存共栄を模索していると言えます。

 その一方、社会的経済は、そもそも利益の出る活動全てを資本主義が担う必要はなく、場合によっては資本主義企業と、協同組合やNPOなど社会的経済の団体が、同じ土俵でしのぎを削るべきだという考え方です。以前このような記事を書きましたが、小売や公共交通、教育や医療、そして金融などさまざまな分野で、資本主義企業と公営企業、そして協同組合など社会的経済の担い手が存在し、競争しているケースは少なくありません。ここで大切な考え方は、私たちが生活で使う財やサービスの提供者が、資本主義企業である必要はないというものです。資本主義企業の場合、確かに利益につながる部分では商品の品質やサービスの改善を行う一方、利益にならない事業は簡単に切り捨ててしまうことが少なくありませんが、協同組合であれば消費者として参加して、自分たちが必要とする商品やサービスの生産などを管理することができます。資本主義のみならず公営企業(フランス国鉄)の論理でも切り捨てられてしまったリヨンとボルドーを結ぶ路線で、旅客列車の運行再開を目指しているRailcoopについては以前の記事で紹介しましたが、社会的経済的な視点ではこのようなことも可能になるのです。

動画: フランスで年末の旅客列車の運行開始に向けて準備中の
協同組合Railcoopの紹介動画(フランス語)

 連帯経済の場合、さすがに既存の資本主義企業を全部非資本主義化しろとまでは主張しませんが(連帯経済は共産主義を目指すものではないので: 詳細はこちらで)、前述の社会的経済に比べると、より資本主義に対して挑戦的であると言えるでしょう。どこの国でも大企業による従来の資本主義経済は何らかの問題を抱えていますが、その問題を解決し、社会面や環境面での正義を追求する経済活動が、連帯経済についての最大公約数的な定義だと言えるでしょう。具体的には、以下のような感じです(もちろん、これ以外の例もありますが)。

  • 消費者生協: 資本主義企業に食の安全を任せられないことに気づいた主婦などが、食の安全を求めて創設したもの
  • フェアトレード: 主に途上国で生産される商品(特にコーヒー)において、消費者が生産者と連帯し、生産者が真っ当な生活を送れるだけの収入など保証する運動
  • 再生可能エネルギー協同組合: 既存の大手電力会社による寡占体制や原発建設・運営などに反対し、市民社会による電力管理を目指す
  • 倫理銀行: 既存の大銀行による投資活動(特に軍事関連企業や地球環境に悪影響を及ぼしている大企業への投資、またスペインの場合、住宅ローンを払えなくなった人たちを無慈悲にも退去させている実態)を批判し、あくまでも自分たちの預金が確実に、社会や地球のためになる事業に投資されることを保証するためのもの。日本ではNPOバンクがこれに相当。また、コーランの規定により利息の徴収が禁止されているイスラム教諸国では、この教えを守る金融機関としてイスラム銀行が勃興(利息の徴収の禁止は旧約聖書に書かれているので、本来ならキリスト教徒やユダヤ教徒も守るべき義務ではあるが)
  • 住宅協同組合: 大都市では不動産投機のせいで一般市民にとって手頃な価格の住宅が入手し辛くなっているが、資本投機の論理と無縁な住宅協同組合により、比較的安価で良質な住宅を組合員に提供
  • 民衆協同組合インキュベーター: ブラジルなど中南米諸国に多い。貧困層向けの雇用創出を目的としている点では社会的企業と活動内容が重なるが、貧困層の生活水準の底上げのために経営者が身を粉にする社会的企業と異なり、インキュベーターではあくまでも彼ら自身で労働者協同組合を設立・運営させるべく、大学生など職員が経営のノウハウや技術的支援などを行う点が違う
  • 土地なし農民運動(ブラジル): 戦前の日本のように大地主が農村を支配し、小作農は彼らにこき使われるしかない構造のある同国において、大地主が無責任に耕作放棄している土地を農民らが占拠し、その土地の利用権を主張するもの。この主張が認められた場合、農民らが協同組合を組織して、耕作から流通までを担当
動画: バルセロナの連帯経済(筆者制作、日本語字幕版)

 上記のような理由があるため、連帯経済の商品やサービスは、資本主義に批判的な消費者を顧客として取り込みやすい一方で、そのような社会運動としての側面だけに力点を置くと、商品やサービスによっては特に価格面で競争力のない(資本主義企業よりもやたらと高い)ものになり、その成長が阻害されてしまうという問題も抱えています。ビジネスとしての競争力と、社会運動としてのアイデンティティの間でバランスを取らなければならないという非常に難しい舵取りを迫られているのです。

 そのような中、社会的連帯経済という表現は、そのような社会的経済と連帯経済、そして場合によっては非営利セクターをも含んだ、最大公約数的なものになり、資本主義との関係においても、共存共栄的な関係を目指すNPOなどと、資本主義との対決姿勢を崩さない連帯経済との間で、かなり態度が違うことになります。社会的連帯経済、または英語の略称SSEでひとまとめにされることが多いですが、こと資本主義に対しての態度については、ここまで大きな違いがあることに留意する必要があります。

 資本主義と社会的連帯経済についての私の論考が、読者の皆さんのご参考になれば幸いです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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