廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第15回

連帯経済向けの金融機関について

 資本主義経済と同様、社会的連帯経済の枠組みにおいても金融は不可欠な役割を果たしています。今回はその中でも、最近の連帯経済の枠組みの中で盛んになっている金融の取り組み例についていくつかご紹介したいと思います。

 社会的経済の枠組みでも、信用組合や労働金庫などに相当する金融機関が世界各地に存在しますが、社会的経済自体が成熟期を迎え、成立時のような社会的使命の色合いが以前ほどはっきりしなくなっているのも確かです。その一方で、社会的経済とは明らかに異なる種類の事業(たとえばフェアトレードや社会的企業、有機農業)が近年数多く生まれていますが、こういう事業の立ち上げにおいて社会的経済系の金融機関が必ずしも有効に機能していないという問題が存在しています。このような問題を解決するための金融機関については、「連帯金融」あるいは「倫理金融」などという表現を使うこともありますが、今回はわかりやすさを優先して「連帯経済向けの金融機関」という表現を使ってご紹介したいと思います。

 連帯経済向けの金融機関というと、何よりも忘れてはならないのはバングラデシュのグラミン銀行です。同銀行については第9回の記事ですでにご紹介していますが、基本的に通常の銀行から融資を受けられない農村の女性層を対象とした金融機関です。貧困層の生活水準の底上げという点では同銀行はかなりの役割を果たしており、マイクロクレジット(小規模金融)というジャンルを確立したという点ではパイオニア的存在で、ノーベル賞を受賞するにふさわしい成果を挙げた事例と呼んでもかまわないと思いますが、第3回の記事で紹介した協同組合の7原則の中にはグラミン銀行に適用されないものがあることがわかります。たとえば同銀行は普通の企業であり協同組合ではないため第2原則「組合員による民主的管理」は行われておらず、主な顧客である農村の女性層はグラミン銀行の経営には参加できません(その理由としては、第3原則「組合員の経済的参加」が実現されていないことが主因)。グラミン銀行の使命自体は大変すばらしいことなのですが、その従業員はあくまでも大学を卒業した都市エリートであり、利用者自身による自主運営ができる体制が整っていないため、銀行側の論理に農村の女性たちが振り回されることも少なくないのです。

 このような問題を解決するには、やはり金融機関の利用者自身による自主運営が保証されるような制度が必要となります。以下、そのような事例をいくつかご紹介したいと思います。

 最初にご紹介したいのは、イタリアで生まれてその後スペインにも広がった倫理銀行(イタリア語・英語など)です。この銀行はもともと、協同組合やNPOなどの関係者が事業への融資を普通の銀行に要請した際に断られたため、彼らが自分たち独自の銀行を作って自分たちの事業に融資できるようにならないといけないという思いから1990年代末に発足したものです。2013年5月31日現在では3万7915名の会員(そのうち個人会員は3万1915名)で8億3832万ユーロ(約1084億円)の預金残高があり、現在までに7027件のプロジェクトに対して合計で7億7842万ユーロ(約1007億円)を貸し出しています。スペインではFIARE(スペイン語など)という別団体として活動しており、2012年末現在で会員3202名が約3351万ユーロ(約43億3300万円)の預金を預けていますが、金融規制の関係上イタリアの法人との合併が行われている最中です。

倫理銀行のサイト

▲倫理銀行のサイト

 倫理銀行のような事例は、欧州各地に存在しています。その中でも特に有名なのが、オランダで発足して現在欧州5ヵ国(オランダ、ベルギー、スペイン、英国、ドイツ)で活動しているトリオドス銀行と、ドイツで発足して最近急激な成長を見せているGLS銀行(ドイツ語)、そしてデンマークで生まれてスウェーデンで発展したJAK銀行(スウェーデン語、英語など)です。トリオドス銀行は1971年に持続可能な事業に対して寄付や融資を行う財団として立ち上がり、1980年にオランダの銀行として認可されます。1990年には環境ファンド事業を開始し、その後オランダ国外でも事業を開始します。2012年には45万4927件の口座において80億4500億ユーロ(約1兆0470億円)もの資産を管理しており、2万4082件の融資案件に対して総額32億8500万ユーロ(約4274億円)を融資しています。また、GLS銀行は当初はシュタイナー学校の設立のための資金獲得のために創設されたものですが、その後農業や風力発電など各種事業への融資も始めました。2012年末現在では約23億5400万ユーロ(約3063億円)の預金総額を誇り、約14億1700万ユーロ(約1844億円)を融資しています。

 しかし、銀行の仕組み自体については、JAK銀行が最も特徴的と言うことができるでしょう。JAKとは「土地(Jord)、労働(Arbete)、資本(Kapital)」を意味するスウェーデン語の単語の頭文字を組み合わせたものですが、JAK銀行の特徴的な点としては、金利が存在しないという点が挙げられます。会員になれば誰でもJAK銀行に預金することができますが、金利はもらえないかわりにポイントが手に入ります。そして、預金者自身がお金を借りる必要に迫られた場合(特に住宅ローンや教育ローン)、今度はそのポイントに応じて、無利子でお金を借りることができるのです。

▲動画:JAK銀行での預金や融資について紹介したビデオ(英語)

 実際にはJAK銀行の運営においてはそれなりの経費がかかることから、JAK銀行からお金を借りると元金に加えて金利ならぬ手数料を支払う必要がありますが、この手数料自体がJAK銀行の経費をカバーするのに必要な額に抑えられることから、最終的にはこの預金者は、普通の銀行のサービスを利用する場合よりも金融費用を抑えることができるのです。金利という考え方を否定して運営されている同銀行のモデルは最近各地で注目を浴びており、実際イタリアでも最近同銀行が立ち上がっています(JAKイタリアのサイト(イタリア語))。

 連帯経済系金融機関としては、日本のNPOバンクも忘れるわけにはいきません。日本ではどちらかというと、ムダなハコモノプロジェクトや社会的・環境的に問題のある事業への融資を厭わない都市銀行や郵便貯金(現在のゆうちょバンク)の運営に疑問を抱いた人たちが、市民が本当に必要としている事業に資金が回るようにしようとして各地で設立したものですが、法的には貸金業法の枠組みで取り扱われることから、出資者=預金者は1円たりとも利息を受け取ることができない(言い換えればハイリスク・ノーリターン)という、他国の類似事例と比べると非常に厳しい規制の下に置かれています。さらに、貸金業法の改正によりNPOバンク自体が法的に禁止されかねない事態に追い込まれたため、全国各地に存在した事例の関係者が結集して金融庁と折衝して、とりあえずNPOバンクについては存続の認可を勝ち取らざるを得ないような状況です。2013年7月現在では12団体が正会員として認められており、2012年3月末現在では約5億6800万円の出資金=預金総額で、これまでに約25億円ほを融資しています(詳細はこちら)。

 また、お隣韓国には社会的投資支援財団(韓国語)が存在しており、社会的経済を金融面で支援しています。2007年に発足した同財団は、具体的にはコミュニティビジネス支援(詳細はこちら)や社会的企業向けのコンサル事業(詳細はこちら)、市民参加型まちづくり(詳細はこちら)などさまざまな事業を行っていますが、金融面では地域金融パートナーシップ(地域内で地元の事業に融資するような体制作りの支援、詳細はこちら)やマイクロクレジットの専門家養成(詳細はこちら)など、金融業務そのものよりも、その支援の活動を行っています。

社会的投資支援財団のサイト

▲社会的投資支援財団のサイト

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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