有料記事/百鬼夜行の国際政治

第09回

米建国神話の明暗とクーリー

ジェームスタウンの植民地(history.com)ジェームスタウンの植民地(history.com)

 多様性を尊重する「移民大国」をアイデンティテイとして自負してきたアメリカは、共和党のドナルド・トランプが大統領に就任して以来国論が真二つに分断され、トランプは最近、憎悪を込めた口調で「もう移民はいらない」とまで広言している。この大統領には、白人至上主義の陰が色濃く付きまとう。

 徳川幕府がヨーロッパ船の来航を平戸と長崎に制限した同じころの1620年11月、北米東海岸のコッド岬に3本マストの商船「メイフラワー号」が到着した。イギリス南西部のプリマスを出港して大西洋横断の65日間の航海だ。上陸した約100人の乗員中35人は自らを「セイント(聖徒)」と呼ぶ宗派のキリスト教信者、いわゆる清教徒であり、彼らは信仰の自由を実現する暮らしを求めてやってきた。清教徒に象徴される「自由な新天地を目指した移住」というアメリカ建国像は、世界に広く深く浸透している。アメリカにとってみれば誠に美しい伝説ではあるが、実は彼らは最初の移住者ではないし、自由な移住を希望した人々はむしろ少数派であった。

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コラムニスト
竜口英幸
ジャーナリスト・米中外交史研究家・西日本新聞TNC文化サークル講師。1951年 福岡県生まれ。鹿児島大学法文学部卒(西洋哲学専攻)。75年、西日本新聞社入社。人事部次長、国際部次長、台北特派員、熊本総局長などを務めた。歴史や文化に技術史の視点からアプローチ。「ジャーナリストは通訳」をモットーに「技術史と国際標準」、「企業発展戦略としての人権」、「七年戦争がもたらした軍事的革新」、「日蘭台交流400年の歴史に学ぶ」、「文化の守護者──北宋・八代皇帝徽宗と足利八代将軍義政」、「中国人民解放軍の実力を探る」などの演題で講演・執筆活動を続けている。著書に「海と空の軍略100年史──ライト兄弟から最新極東情勢まで」(集広舎、2018年)、『グッバイ、チャイナドリーム──米国が中国への夢から覚めるとき 日本は今尚その夢にまどろむのか』(集広舎、2022年)など。
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