「今度もまた、負け戦だったな。勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない」──日本を代表する名画「七人の侍」(黒澤明監督、1954年)の終幕、平和が戻った村で農民たちが楽しく歌って田植えするのを見やりながら、侍を率いて戦った勘兵衛(志村喬)は傍らの七郎次(加東大介)にこう語りかけ、ともに村を去る。何度見てもいい情景だと思う。
『七人の侍』の舞台は、戦国時代の貧しい山村。村に“雇われた”七人の侍と、騎馬の野盗集団との戦いの話である。武を頼む侍と常に弱者だった村人との心理的葛藤、七人の侍の際立った個性の鮮やかな描き分け、土砂降りの雨の中で泥水のしぶきを上げて村内を駆け回る騎馬の野伏せりと、これに立ち向かう侍や村人との戦いなど、名場面の連続だ。七人の侍のうち四人は戦いに倒れ、土饅頭の墓には、卒塔婆に見立てた大刀が天を突き、戦いの非情さを象徴する。この映画の壮絶な戦闘の場面を見るたびに、私はユーラシア大陸の大地で繰り広げられた騎馬・狩猟民族と、農耕民族とのはてしない攻防の歴史に思いをはせる。農耕民族は、よほどのことがない限り騎馬民族にはかなわない。
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コラムニスト