有料記事/百鬼夜行の国際政治

第24回

『七人の侍』と『ムーラン』

映画「七人の侍」のポスター画像(videopass.jp)映画「七人の侍」のポスター画像(videopass.jp)

 「今度もまた、負け戦だったな。勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない」──日本を代表する名画「七人の侍」(黒澤明監督、1954年)の終幕、平和が戻った村で農民たちが楽しく歌って田植えするのを見やりながら、侍を率いて戦った勘兵衛(志村喬)は傍らの七郎次(加東大介)にこう語りかけ、ともに村を去る。何度見てもいい情景だと思う。

 『七人の侍』の舞台は、戦国時代の貧しい山村。村に“雇われた”七人の侍と、騎馬の野盗集団との戦いの話である。武を頼む侍と常に弱者だった村人との心理的葛藤、七人の侍の際立った個性の鮮やかな描き分け、土砂降りの雨の中で泥水のしぶきを上げて村内を駆け回る騎馬の野伏せりと、これに立ち向かう侍や村人との戦いなど、名場面の連続だ。七人の侍のうち四人は戦いに倒れ、土饅頭の墓には、卒塔婆に見立てた大刀が天を突き、戦いの非情さを象徴する。この映画の壮絶な戦闘の場面を見るたびに、私はユーラシア大陸の大地で繰り広げられた騎馬・狩猟民族と、農耕民族とのはてしない攻防の歴史に思いをはせる。農耕民族は、よほどのことがない限り騎馬民族にはかなわない。

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コラムニスト
竜口英幸
ジャーナリスト・米中外交史研究家・西日本新聞TNC文化サークル講師。1951年 福岡県生まれ。鹿児島大学法文学部卒(西洋哲学専攻)。75年、西日本新聞社入社。人事部次長、国際部次長、台北特派員、熊本総局長などを務めた。歴史や文化に技術史の視点からアプローチ。「ジャーナリストは通訳」をモットーに「技術史と国際標準」、「企業発展戦略としての人権」、「七年戦争がもたらした軍事的革新」、「日蘭台交流400年の歴史に学ぶ」、「文化の守護者──北宋・八代皇帝徽宗と足利八代将軍義政」、「中国人民解放軍の実力を探る」などの演題で講演・執筆活動を続けている。著書に「海と空の軍略100年史──ライト兄弟から最新極東情勢まで」(集広舎、2018年)、『グッバイ、チャイナドリーム──米国が中国への夢から覚めるとき 日本は今尚その夢にまどろむのか』(集広舎、2022年)など。
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