有料記事/百鬼夜行の国際政治

第12回

「独立宣言」の伝道者

リンカーン記念堂上空を編隊飛行する海軍のブルーエンジェルズ(US Navy photo ,July 4, 2019)リンカーン記念堂上空を編隊飛行する海軍のブルーエンジェルズ(US Navy photo ,July 4, 2019)

 アメリカの首都ワシントンで7月4日に行われた今年の独立記念日の祝賀式典は、航空ショーと見まがうばかりの異様なものだった。リンカーン記念堂から連邦議事堂に至る東西約3キロメートルのナショナル・モールを埋めた人々の上空を、大統領専用機エアフォース・ワンを手始めに、海兵隊のVH-92オスプレイ、海軍のブルー・エンジェルス・チーム、空軍のB-2スピリット・ステルス爆撃機とF-22ラプター・ステルス戦闘機、沿岸警備隊のC-130輸送機、陸軍のAH-64アパッチ・ヘリコプターが次々に飛行したのだ。しかも大統領が演説するリンカーン記念堂前には、陸軍のアブラハム戦車とブラッドリー戦闘車両(軽戦車)を配するという念の入れようだ。第45代大統領ドナルド・トランプは「米国に敬礼を(サリュート・トゥー・アメリカ)」と題したスピーチで軍を讃えご満悦の表情だった。

 しかし、独立記念日の主役は「独立宣言」である。この祝日に、歴代大統領は独立宣言に敬意を表し、記念式典などには顔を出さないか、控えめに参加するだけにとどめるのが慣例だった。1951年、例外的に独立記念日にスピーチをした第33代大統領ハリー・S・トルーマンは、リンカーン記念堂の真向かいに立つワシントン記念塔を会場に選んだ。朝鮮戦争の戦況を報告し「朝鮮戦争で亡くなった兵士たちはアメリカ市民戦争(独立戦争)の死者と同様に、人民の人民による人民の政府のために戦い倒れたのだ」と語り「この国の民衆は独立以来175年にわたり、自由のために共に立ち上がってきたのだ」と共産主義との戦いの意義を強調したのだった。

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コラムニスト
竜口英幸
ジャーナリスト・米中外交史研究家・西日本新聞TNC文化サークル講師。1951年 福岡県生まれ。鹿児島大学法文学部卒(西洋哲学専攻)。75年、西日本新聞社入社。人事部次長、国際部次長、台北特派員、熊本総局長などを務めた。歴史や文化に技術史の視点からアプローチ。「ジャーナリストは通訳」をモットーに「技術史と国際標準」、「企業発展戦略としての人権」、「七年戦争がもたらした軍事的革新」、「日蘭台交流400年の歴史に学ぶ」、「文化の守護者──北宋・八代皇帝徽宗と足利八代将軍義政」、「中国人民解放軍の実力を探る」などの演題で講演・執筆活動を続けている。著書に「海と空の軍略100年史──ライト兄弟から最新極東情勢まで」(集広舎、2018年)、『グッバイ、チャイナドリーム──米国が中国への夢から覚めるとき 日本は今尚その夢にまどろむのか』(集広舎、2022年)など。
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