有料記事/百鬼夜行の国際政治

第14回

移民が移民を排斥する時

軌道にレールを据える労働者たち(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』より。IMD6 Photo Gallery)軌道にレールを据える労働者たち(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』より。IMD6 Photo Gallery)

 私が最も好きな映画作品の一つに、セルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト(昔、西部で)」がある。1968年12月封切りのイタリア映画だが、51年を経ても映画館で繰り返し上映されている名作である。学生時代に大学近くの名画座で連続2回観たのを皮切りに半世紀近く。今なお見るたびに新鮮な感慨が沸く。

 大陸横断鉄道の建設が進むアリゾナ州。鉄道を太平洋まで延伸することを悲願にしている余命短い鉄道王と彼を取り巻く3人のガンマン、さらに鉄道敷設予定地に隣接する農場主の再婚相手の元高級娼婦が絡み合う。封切り当初は「スパゲッティ・ウエスタン」と揶揄されたようだが、名声は直ぐに不動のものとなった。ガンマンたちが戦いを繰り返すなかで一人また一人と姿を消して行くのに反して鉄道敷設の槌音は高まり、ラストシーンは、鉄道建設の工事場面が大写しになって終わる。音楽劇のように全編にエンリオ・モリコーネの音楽が流れる。この映画は鉄道による新時代の夜明けを迎えた西部の発展を予感させつつ、かつてのワイルド・ウエスト、西部開拓時代へ別れを告げる挽歌なのである。

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コラムニスト
竜口英幸
ジャーナリスト・米中外交史研究家・西日本新聞TNC文化サークル講師。1951年 福岡県生まれ。鹿児島大学法文学部卒(西洋哲学専攻)。75年、西日本新聞社入社。人事部次長、国際部次長、台北特派員、熊本総局長などを務めた。歴史や文化に技術史の視点からアプローチ。「ジャーナリストは通訳」をモットーに「技術史と国際標準」、「企業発展戦略としての人権」、「七年戦争がもたらした軍事的革新」、「日蘭台交流400年の歴史に学ぶ」、「文化の守護者──北宋・八代皇帝徽宗と足利八代将軍義政」、「中国人民解放軍の実力を探る」などの演題で講演・執筆活動を続けている。著書に「海と空の軍略100年史──ライト兄弟から最新極東情勢まで」(集広舎、2018年)、『グッバイ、チャイナドリーム──米国が中国への夢から覚めるとき 日本は今尚その夢にまどろむのか』(集広舎、2022年)など。
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