護衛艦「かが」のスピーチ会場に向かう日米首脳(防衛省)

護衛艦「かが」のスピーチ会場に向かう日米首脳(防衛省)

 元号が「令和」に代わったばかりの5月下旬、「令和」時代最初の国賓としてトランプ米大統領が日本を訪問し、四日間にわたり安倍首相と濃密な首脳会談を繰り広げた。

 外交に秘密は付き物だし、秘密合意もあるかもしれないが、今回両首脳が世界に発したメッセージは極めて明確で、かつまた強烈だった。佐世保を母港とする米艦「ワスプ」と呉を母港とする海上自衛隊の護衛艦「かが」とを、在日米海軍司令部と海自の司令部がある横須賀に来航させ、艦上で両首脳が日米安保への揺るぎない決意を語ったのだ。しかもこれから導入する最新鋭ステルス機F-35Bを搭載できるよう「かが」と先行艦の「いずも」ともども改修することで、日本が中国を凌駕する海軍力の整備へと向かう方針が、これ以上ないほどの華々しい舞台装置の上で発信された。劇的なプレゼンテーションは中国、さらには北朝鮮やロシアに向けられているのは明らかで、とりわけ「自己過信」に酔っている中国海軍に衝撃が走ったであろうことは容易に想像できる。ロッキード・マーティン社のF-35BライトニングⅡ戦闘機は日米安保の要へと急浮上し、「接近させず領域に立ち入らせない(A2・AD戦略)」を掲げて膨張し続ける中国軍を、日米で押し戻す戦略をこれから遂行することになるだろう。

米海軍の多目的攻撃鑑ワスプ(US NAVY)

米海軍の多目的攻撃鑑ワスプ(US NAVY)

 アメリカの海兵隊は、海軍と行動を共にしながら敵地に上陸し戦闘する攻撃部隊である。迅速で機動的な展開力の確保を目指して誕生したのが「アンフィビアス(多目的)艦」と名付けられた艦船であり、これには「多目的攻撃艦(AAS)」と「多目的輸送艦(ATD)」の二種がある。多目的艦は従来の単機能艦より使い勝手が良く、機動力とコスト・パフォーマンスに優れている。「ワスプ」は1989年7月に就役した多目的攻撃艦シリーズの一番艦であり、長さ260メートル、幅32メートルで排水量約41000トン。乗組員1200人で輸送兵員約1700人を乗艦させることができる。日本では「強襲揚陸艦」と訳されている。艦橋を側面に寄せて配置し、船尾から船首まで平に伸びた全通甲板を備えた空母であると同時に兵員や戦車、上陸用車両を輸送し、災害発生時には救助艦として避難民を収容する機能を持つ。これまで垂直離着陸機であるAV-8B ハリアーⅡ機とヘリコプターを搭載して運用してきたが、現在は「短距離離陸・垂直着陸機(STOVL機)」の最新鋭ステルス戦闘機F-35Bを12機搭載し、ヘリコプターに代わって速度、航続距離、兵員輸送力が飛躍的に向上したMV22オスプレイを搭載、戦闘能力は極めて強力だ。また、輸送艦もヘリコプターとMV22オスプレイを搭載している。

F-35ライトニングⅡの3機種。左から空母用、海兵隊用、空軍用(codeonemagazine.com)

F-35ライトニングⅡの3機種。左から空母用、海兵隊用、空軍用(codeonemagazine.com)

 一方、2017年3月に就役した海自の最新護衛艦「かが」は、ワスプと同様に多目的攻撃鑑の設計思想で建造されており、船体はワスプより12メートル短いが、幅は6メートル広い。排水量は2万6千トンと1万5千トン小さく、乗員約470人と「便乗者」約500人という仕様になっている。ヘリコプターを最大14機搭載できる。アメリカ海軍はその攻撃力から「かが」を「ヘリコプター駆逐艦」と呼んでおり、F-35B戦闘機を搭載しても「護衛艦」という名称に拘り続けるのは民を欺くものである。米のワスプ級艦船は8隻あるが、最新の多目的攻撃鑑である「アメリカ級」の一番艦「アメリカ」が、近くワスプに代わって佐世保を母港とすることに決まっている。同艦はワスプ同様F-35B戦闘機を12機搭載している。

フィリピン海での夜間訓練でワスプに着陸するF-35B。エンジンの噴射ガスを甲板に垂直に当てゆっくり降下する(US NAVY,June 6,2019)

フィリピン海での夜間訓練でワスプに着陸するF-35B。エンジンの噴射ガスを甲板に垂直に当てゆっくり降下する(US NAVY,June 6,2019)

 さて、F-35戦闘機については、誕生の経緯やそのずば抜けた能力について詳しい説明が必要だろう。F-35には「ジョイント・ストライク・ファイター(JSF)」というプログラム名が付いている。米国はクリントン政権時代に、海軍、海兵隊、空軍のそれぞれが主力機の更新時期を迎えていた。3軍が別々に新機種を開発するとなると膨大な予算が必要となり、連邦議会の同意は難しい状況だった。そこで基本形となる統一モデル機を作り、海軍、海兵隊、空軍のそれぞれが求める仕様に合わせて3種の応用型戦闘機を開発した。これが「JSF」だ。相手のレーダーに捉えられないステルス性、音速を越えるスピードでの巡航飛行、エレクトロニクスを駆使した高度な飛行能力を共通性能とした。ロッキード・マーティン社の公表資料によると、陸上基地に配備する空軍のF-35Aが基本モデルに近く、海兵隊モデルは短距離離陸・垂直着陸機(STOVL)のため積載可能燃料は6.1トンとF-35Aより2トン強少なく抑え、搭載可能な武器・弾薬の重量も1.3トン少ない。短距離で離陸するため軽量化を優先したわけだ。航空母艦に搭載するF-35Cは、折り畳み翼で格納しやすく、揚力を高めるため両翼の長さがA.Bより2.4メートル長く、翼の総面積も20平方メートル広い。さらに航続距離を稼ぐため、燃料搭載量もAより0.7トン多い。

 共通機種名の「ライトニングⅡ」は、第二次世界大戦中に戦闘機・偵察機として大活躍したロッキード社の「P-38ライトニング」と、東西冷戦期に世界で初めて音速の壁を突破してマッハ2で巡航飛行したイギリスのイングリッシュ・エレクトリック社製戦闘機「ライトニング」にちなみ、米空軍が命名した。こうした経緯から、海軍関係者はF-35Bを搭載したワスプやアメリカを「ライトニング空母」と呼び、同時に「ライト(軽)空母ではない」と付け加える。アメリカが誇る10万トン級巨大原子力空母はF-35Cへの移行に着手し始めているが、ライトニング空母は巨大空母並みの攻撃力があるという意味だ。

空母「遼寧」上で離陸準備するJ-15戦闘機(央視新聞)

空母「遼寧」上で離陸準備するJ-15戦闘機(央視新聞)

 アメリカは世界の同盟国にF-35戦闘機の採用を働きかけ、イギリスはF-35Bを138機、オーストラリアはF-35Aを72機、日本はF-35Aを42機、韓国はF-35Aを40機、ベルギーはF-35Aを35機導入することを決めていた。ところが日本は昨年12月18日の国家安全保障会議でF-35Bの導入を決め、閣議で了解された。発表文は「F-35Aの取得数42機を147機とし(中略)新たな取得数のうち、42機については、短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機の整備に替え得るものとする」と、何とも回りくどいが、F-35Aのみの従来路線をF-35A105機とF-35B42機との併存路線へと戦略の大転換を宣言したわけだ。「新たに105機導入」の語句ばかりが独り歩きしているが、この戦略転換を見落としてはならない。また、同日付の「防衛計画の大綱」で「いずも」型護衛艦については現有艦艇から短距離離陸・垂直着陸機の運用を可能とする措置を講じることも決まっており、まず「かが」の改修とF-35Bの搭載に着手することになった。

 日本はF-35戦闘機の導入機数で米の同盟国のトップに立ち、しかも米海兵隊仕様のF-35Bを42機も導入することになったのである。私は、日本のように東西の幅が狭い島国が陸上基地型のF-35Aを導入するのは戦略的な誤りだと、昨年四月に出版した拙著「海と空の軍略100年史」で指摘しておいた。滑走路が200メートル程度あれば離陸できるF-35Bは艦載機としてはもとより、離島でも機動的に飛行できるからだ。イギリスが138機全機をF-35Bにしたのは、さすがに戦略国家だといえる。もし、滑走路が短ければ、滑走路にスキージャンプ台を設置すれば問題なく離陸できるはずだ。

 世界で初めて実戦配備されたステルス戦闘機はロッキード・マーティン社のF-22ラプターだ。敵のレーダー波を驚異的な精度で捉える「パッシブ・レーダー」により、「敵を先に見つけ・気づかれないうちに攻撃・破壊する」能力は、F-35に受け継がれている。F-35Bの導入を始めている英空軍VMFAT-501部隊のスコット・ウィリアムズ指揮官は、航空雑誌「Hush-Kit」のパイロツト・インタビューで、F-35Bを「ゲーム・チェインジャー」と称え、こう付け加えている。
「ボクシングの試合でこちらはリング内で構えているのに、相手はこちらがリング内にいることにさえ気づかないのだ」と。

E-2D早期警戒管制機(Northrop Grumman Corporation)

E-2D早期警戒管制機
(Northrop Grumman Corporation)

 導入機数42機のうち「いずも」級の艦船2隻にはF-35Bをそれぞれ12機ずつ計24機搭載するとみられ、練習機に3機を当てると仮定すると、残る15機をどう運用するのか。将来のいずも級の3番艦に搭載するのか、あるいは陸上基地に配備するのだろうか、その帰趨が注目される。ちなみに、世界で初めてF-35Bが実戦配備されたのは日本の岩国基地であり、2017年1月から海兵隊の10機が駐屯している。米国でのパイロット・専任整備士の養成や、着陸時の垂直な排気ガスの噴射を受ける艦船甲板の耐熱化、機体を格納したり甲板にあげたりするエレベーターの改修などに2~3年の歳月が必要となろうが、F-35Bで海軍力が増強され、さらにF-35Aが合計105機になると、日本は最新鋭ステルス機でハリネズミのように武装することになる。ステルス機の数では中国を圧倒し、抑止力が格段に向上する意義は極めて大きい。

「かが」の改修とF-35B搭載で、戦後初めてわが国は「ライトニング空母」を持つことになる。では、日本を取り巻く軍事環境はどうか。中国・大連を母港とする空母「遼寧(5万9千トン)」が今月11日、僚艦とともに宮古海峡を通過し太平洋に入った。同艦は空母の練習艦であり、海軍力のシンボルでもある。しかし、艦載機を射出するカタパルトもなく、滑走路のスキージャンプ台を使っているにもかかわらず、艦載機J-15のエンジン推進力が弱いため、燃料と装備を半分程度に抑えないと離陸できないと言われている。「飛べないアヒル」である。重大事故で優秀なパイロットも失っており、まだ問題は解決されていないようだ。現在試験航海を続けている新空母もカタパルトを備えておらず、艦載機の課題が解決されないままでは、新装備の「かが」に太刀打ちできないだろう。

ニフカのイメージ図(U.S.Naval Institute News)

ニフカのイメージ図
(U.S.Naval Institute News)

「遼寧」は、ロシア唯一の空母「クズネツォフ」の二番艦として建造途中だった「ヴァリャーク」が元になっている。ソ連崩壊でスクラップ状態になっている艦を中国がウクライナから買い取り、空母に仕上げたことは良く知られている。ロシアの艦載機はスホイSu-33だが、中国はウクライナに頼み込んで同機を2機取得しJ-15を生産、15機を遼寧に搭載した経緯がある。

 ところが、クズネツォフは完成した空母とは言えない艦船だったのだ。1990年に就役した同艦は、伝統的に潜水艦を重視するソ連にあっては脇役に過ぎず、長らく潜水艦の護衛が主任務だった。名実ともに空母としての初舞台となった2016年秋のシリア攻撃では、艦載機はフル装備では離陸できず、しかも15機のうち2機を事故で失い、ほうほうの体で母港に帰りドック入りした。さらに昨年、ドックの大型クレーンが甲板上に崩れ落ちる重大事故が起き、復帰は絶望視されている。ソ連海軍の空母の位置づけから考えると、艦載機スホイSu-33は大量には生産されてはいないし、NATOを脅かしているスホイSu-27やスホイSu-30MKⅠほどには完成度が高くなかったのではないかと推測される。

 中国が昨年から実戦配備したステルス機J-20については、機体の長さや翼の形状から、ステルス性を幾分落として航続距離を最優先し、これに長距離ミサイルを搭載しているようだ。配備機数は公表していないが、多くはないだろう。海外の軍用機専門家は「米軍の早期警戒管制機や空中給油機など、攻撃しやすい機種を標的とする戦略ではないか」と分析している。

 最後に、世界最新鋭の早期警戒管制機E-2Dが今年5月末に日本に引き渡された。イージス艦のレーダーは水平線の彼方から飛行して来るミサイルなどの標的を補足できない。E-2Dは空飛ぶレーダー基地であり、F-35Bが捉えた超水平線下の標的情報を基地あるいはE-2Dへとデータ送信し、「ニフカ(NIFC-CA)=海軍統合対空射撃管制」と呼ばれる機能を用いて基地からミサイル発射を指示したり、イージス艦に標的攻撃指令を出すことができる。F-35BとE-2Dと基地あるいはイージス艦を結んだ面の攻撃システムが完成しているのだ。中国の「接近阻止・領域拒否」戦略に立ち向かう有効な戦略と言えるだろう。

南シナ海で米空母ロナルド・レーガン(奥)と演習する護衛艦いずも(US NAVY,June 11,2019)

南シナ海で米空母ロナルド・レーガン(奥)と演習する護衛艦いずも(US NAVY,June 11,2019)

 日本はE-2Dを合計9機導入することが決まっている。F-35Bは戦闘機であると同時に、マッハ1.6の速度で飛行する巨大センサーであり、F-35Bを複数機同時に飛行させると、収集する標的情報は飛躍的に増加する。実に頼もしくもあり、恐ろしい航空機である。安全保障の環境は激変している。日本のメディアは軍事ニュースに真剣に取り組むべきだ。国会での防衛論議も高めなければならない。国民はもっと現実の動きを知らされる必要があるし、政府には国民の合意形成に向けた丁寧な説明責任があるのだ。

 
【参考文献】

  • Japan Maritime Self-Defense Force Expanding as Tokyo Takes New Approach to Maritime Security – Tim Fish (The U.S. Naval Institute, May 29,2019)
  • The US wants to ‘push back’ on China’s new stealth fighter by sending more F-35 to the Pacific – Ryan Pickrell (The Bloomberg, May 3,2019)
  • U.S. Conventional Access Strategy: Denying China a Conventional First-Strike Capability – Sam Goldsmith (Naval War College Review, Volume72 Number 2 Spring 2019)
  • INDO-PACIFIC STRATEGY REPORT – THE DEPARTMENT OF DEFENSE,JUNE 1,2019