パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第59回

OECDによる社会的連帯経済の勧告文


 社会的連帯経済に関わる国際機関というと、国連やその関連団体、具体的には国際労働機関(ILO)国連社会開発研究所(UNRISD)といったイメージが強いですが、今回は経済協力開発機構(OECD)が最近発表した勧告文を紹介したいと思います。

 この勧告文では、前文でさまざまな状況を勘案していることが述べられますが、その中には以下のものが含まれます。

  • 公共調達および投資、公共ガバナンス、税制、企業ガバナンス、責任のある業務行動、起業および中小企業向け政策、ジェンダーの平等、若者および地域開発の分野においてOECDが策定した基準
  • 包摂的な社会や強化された地域社会の構築、経済成長への貢献、より持続可能な産業への道の開拓、よりグリーン、デジタルかつ循環型の経済への移行における社会的経済の重要性
  • フェアトレードや倫理金融、循環型経済やプラットフォーム協同組合などソーシャル・イノベーションの推進役としての社会的経済
  • 社会的経済の潜在能力を発揮させる制度的・法的枠組み、政策や措置を各国が模索中

 他にもさまざまな状況が述べられていますが、ここでわかることは、OECDといえども社会的経済の意義を無視できず、そのために適切な法制度などの整備が必要であることを認めたことです。OECDには先進国を中心として現在日本を含む38か国が加盟しており、その大半はあまり社会的連帯経済に積極的に取り組んでいるとは言えない国ですが、それでもフランス、スペイン、ポルトガル、ベルギー、カナダ(特にケベック州)、韓国、メキシコやコロンビアなどは社会的連帯経済の面で活発な国として知られています。今回OECDとしてこのような認知を行うことで、今まで社会的連帯経済にそれほど関心がなかったそれ以外の国でも、政策立案において社会的連帯経済の存在を意識する機会が増えるものと期待されます。

OECD加盟国(藍色は1961年の発足当時の加盟国、薄い青はその後の加盟国。出典:Wikipedia)OECD加盟国(藍色は1961年の発足当時の加盟国、薄い青はその後の加盟国。出典:Wikipedia)

 その後、社会的経済(連帯経済や社会的連帯経済などとも呼ばれる)や社会的経済組織、社会的企業やソーシャル・イノベーションを定義してから、以下の9つの行動を推奨しています。

  1. 社会的経済の文化を促進: 社会的経済を通じた社会的目的の達成の機会について一般の認識を向上、ネットワーク形成の促進、各種教育における社会的経済関連の活動の取り込みなど。
  2. 制度的支援の枠組みを策定: 社会的経済における政府各機関の役割を明確化、社会的経済関係の行政支援について一か所で対応できる「ワン・ストップ・ショップ」の開設、公共政策において社会的経済が各国社会の主流派に知られるように推進、グリーン経済やデジタル経済への移行における社会的経済の貢献を活用など。
  3. 社会的経済を実現する法的および規制面での枠組みを設計: 既存の法制度で社会的経済の組織にとって不利な部分を特定、特に社会的企業など新しい形の担い手を含む社会的経済組織のさまざまな法的枠組みを認定、社会的企業の定義を一致させる努力を推進など。
  4. 融資や資金へのアクセスをサポート: 包括的な公的資金提供戦略の策定と追及、従来の金融機関における障害の特定、倫理銀行やクラウドファンディングなど画期的かつオルタナティブな融資メカニズムの促進など。
  5. 公共市場や民間市場へのアクセスを実現: 公共調達での入札を促進(明確な調達戦略や法制度を通じて)、民間企業と社会的経済団体との提携関係促進、オンラインマーケットプレースへの参入支援など。
  6. 社会的経済内でのスキルや事業の発展サポートを強化: 既存の教育機関とともに社会的経済の教育研修プログラムの提供、コーチングなどの提供など。
  7. インパクトの計測やモニタリングを促進: 公共政策やプログラムにおける経済的および社会的インパクトの計測指標や基準の策定、補助をもらう社会的経済団体に社会的インパクトの計算を促進など。
  8. データの作成をサポート: 社会的経済において国際比較や地域間比較が可能な統計情報の収集や作成を推進、既存の統計やサテライト勘定に基づいて社会的経済の証拠を収集など。
  9. ソーシャル・イノベーションを促進: ソーシャル・イノベーションへの関心向上、評価のためのポリシーを策定、インキュベーターや研修センターなどを通じたソーシャル・イノベーションの促進、貧困地域を含む各地の地域開発におけるソーシャル・イノベーションの潜在能力に投資など。

 個人的には、社会的連帯経済や連帯経済という表現も使われている一方で、社会的経済という表現を本文中で主に使っているあたりに、OECDの保守性を感じます。確かに社会的経済のほうが国際的に受け入れられている表現ではありますが、国連や関連機関でさえも社会的連帯経済、またはその英語での略称であるSSEを使っている今日、「連帯」という単語を取り除いて社会的経済という表現にとどめているのは、多少消極的な感じが否めません。

 次に、社会的企業への言及がかなり目立っている点も話題にしたいと思います。資本主義の論理では成り立たないものの社会的必要性があるということで運営されている社会的企業は、社会的連帯経済の中でも新自由主義者からの反対が少ない事例の一つであり、OECDとしてもその推進を躊躇する理由は少ないでしょう。その一方で、社会的連帯経済の中心軸に社会的企業を据えたり、特に英語圏諸国などで浸透している非営利セクターという考え方を持ってきたりすると、協同組合やフェアトレードなど別の事例に対する理解が薄れてしまい、社会的連帯経済全体に対する間違った理解が生まれかねません。この点に関しては以前こちらの記事で詳述しましたが、資本主義に営利事業を任せてその尻拭いを社会的連帯経済に担当させようという傾向が出てきた場合には、注意する必要があると言えるでしょう。

 さらに、行政からの補助金についても、ちょっと私見をはさみたいと思います。確かに行政から社会的企業や協同組合などの設立補助金が出ると、その補助金目当てで事例が生まれるでしょうが、本当に持続可能ではない事業の場合には補助金が切れると次々と店じまいしてしまうケースが少なくありません。むしろ個人的には、信用金庫や倫理銀行など社会的連帯経済系の金融機関に行政がそのお金を預けて、そのお金で社会的連帯経済側が責任をもって将来性のある事業に投資するようにさせたほうが、長い目での社会的連帯経済の成長に資するものになるような気がします。この方式は、コミュニティバンクとして長年の実績があるブラジル・セアラ州フォルタレザ市のパルマス銀行や、バルセロナ市役所などが採用しているものですが、行政のための社会的連帯経済ではなく、あくまでも社会的連帯経済そのものの自律的な発展を促し、行政はそのための裏方に徹することが大切だと言えるでしょう。

パルマス銀行を紹介したドキュメンタリー(英語字幕版)

 他にも、民間企業と社会的経済との提携の話がありましたが、特に連帯経済から見た場合、ある程度注意する必要があります。特に大企業の場合、圧倒的な資金力やその他保持するリソースを社会的企業などに提供することにより、「人間の顔をした資本主義」を実現しようとする可能性があります。確かに経営が苦しい社会的企業にとってはこのような支援はありがたいものですが、スポンサーへの配慮により社会的連帯経済自体が本来有する批判精神が削ぎ取られてしまうことになりかねません。社会的連帯経済の自立を考える場合、少なくとも民間企業との過度な依存は避けたほうがよろしいでしょう。

 以上のような批判を行いましたが、どちらかというと新自由主義寄りと思われるOECDのような国際機関も社会的連帯経済に好意的な反応を示していること自体は注目すべきことです。この勧告を受けて、今後日本を含む加盟国の政策が変わるかどうか、楽しみにしたいと思います。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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