パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第28回

文化活動における社会的連帯経済の役割──バルセロナから学ぶ

 これまで私の連載では詳しく取り上げてきませんでしたが、社会的連帯経済関係者の中では文化活動に対する関心も非常に高く、それに関連した活動も少なからず存在します(最近私が公開したドキュメンタリー「バルセロナの連帯経済」の中でも、サーカスを中心とした活動を行っているアタネウ・ププラー・ノウ・バリスを紹介しています)。そんな中で、バルセロナで協同組合が行う文化活動について紹介した報告書が最近公開されましたので、今回はこの報告書をもとに、文化活動において協同組合が果たす役割について考えてみたいと思います。

 この報告書は、文化活動が都市生活の魅力を高め、地元民のみならず観光客をも楽しませるというプラスの面がある一方で、その分野で働く人たちが経済的に不安定であることの指摘から始まっています。しかしその一方で、バルセロナでは19世紀以降、労働者アテネウや消費者協同組合などさまざまな形で労働者が文化活動に参加しており、1925年には演劇や音楽、コーラス、言語習得やスポーツ、ハイキングなどを実践していた各種団体により協同組合文化連合が結成されています。また、1960年代以降、かつて各種協同組合として使われていた建物がダンスホールや劇場、図書館などに転用されるようになり、そのような形でも協同組合と文化活動がつながっていることがわかります(運営主体としてはNPOなど別の法人格の場合もありますが)。

かつての消費者協同組合ラ・フロー・ダ・マッチで運営されている同名の文化センターの紹介動画

  そんなバルセロナ市内における文化活動の事例は、さまざまな分野に分類することができます。以下、ジャンル別に主な事例をいくつかご紹介しましょう。

 また、協同組合の中にもいろんな種別がありますが、法人格上の分類としては、主に以下の3つが存在します。

  • 労働者協同組合: 労働者自体が協同組合を結成し経済活動を行うもので、協同組合の中でも最もオーソドックスなもの。たとえばメトロムステーの場合、映像制作関係者が集まって協同組合を結成し、自主運営という形で事業を行っている。ちなみに日本では、2020年3月現在労働者協同組合という法人格は存在せず(法人格に向けた立法の取り組みはあるが)、NPOや社団法人など別の法人格で実質上運営しているケースが多い。
  • 消費者協同組合: 商品やサービスの入手を望む消費者が集まって協同組合を作り、その調達のために経済活動を行う。消費者生協は日本各地に存在するので、他の法人格よりも比較的日本では広く知られた存在。アバクスの場合、学用品の入手を希望した父兄らにより発足し、子育て中の家族向けに書籍や学用品、おもちゃなどを販売している。また、同様の方法で利用者が集まれば、劇場やライブハウス、映画館なども消費者協同組合として運営することは(少なくとも理論的には)可能。
  • サービス協同組合: 自営業者や商店などが集まって協同組合という法人格を作って活動。経理や営業などの事務作業を組合に任せて自営業者自身は自分の本業に専念したり、組合を通じた共同購入により業務に必要な物資を安く調達したりできる。トラック運転手の組合や、金物屋や薬局による仕入協同組合などがこれに相当で、仕組みとしては農協が、個別農家単位では実現できない規模の経済を達成したり、販路を開拓したりするのと似ている。かつてはカタルーニャ各地の本屋の協同組合バスティアリが存在したが、2018年にその活動を終了した現在は、協同組合飲食店文化ネットワーク(XAREC、シャレク)が存在するのみ。日本では中小企業等協同組合の中の事業協同組合や事業協同小組合がこれに相当。

 この他、協同組合ではありませんが、社会的連帯経済という枠組みで見た場合、前述のアタネウ・ププラー・ノウ・バリスはNPO(スペイン語ではアソシアシオン)という法人形態で、行政の支援も受けつつ基本的に民間が運営している形になります。

アタネウ・ププラー・ノウ・バリスの紹介動画

 文化活動が日本においても社会的連帯経済の一部とみなされることは、NPOを統括する法律として1998年に制定された「特定非営利活動促進法」で定義されている特定非営利活動の6番目「学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」に該当することからも明らかで、2019年9月30日現在日本国内で認証を受けた5万1417法人のうち、3分の1以上に相当する1万8088団体が上記分野での活動を定款に記しています(出典はこちら(2020年3月9日閲覧)。もちろん実際には、スポーツや学術に特化した団体も数多くあると思いますが、統計上はこれ以上のことはわかりません)。書籍を営んでいる生協としては大学生協が有名で(ちなみに日本以外には同様の事例はそれほど存在しません)、大学生協では書籍を割引価格で購入できますが、こう考えると文化活動と社会的連帯経済とのつながりは、日本でもそれなりに存在していることがおわかりになるでしょう。

 また、意外かもしれませんが、テレビでお馴染みの大物俳優も多数所属する組織として日本俳優連合が存在します(永世名誉会長が故森繁久彌で、現在の理事長は西田敏行)。俳優業というと華やかなイメージがありますが、映画やテレビドラマなどで危険な撮影を行ったり、芸能界の中でも特に地位の弱い俳優が安く買い叩かれたりすることがあるので、そういう状況から所属組合員を保護すべくさまざまな活動を行っています。

 この他、日本国内にある文化関係での社会的連帯経済の重要な事例としては、青空文庫を挙げることができます。これは、主に著作権の保護期間が切れた文学作品をオンラインで公開しているサイトで、1967年以前に亡くなった日本の作家の作品が多数公開されています。このサイト自体は無料でアクセスできることもあり、金銭の動きを伴う経済活動を行っているわけではありませんが、広い意味での経済を考えるうえで忘れることができません。

 カタルーニャとは話がずれますが、文化関係の社会的連帯経済の事例として忘れられない事例がありますので、この場を借りて紹介したいと思います。私は2015年に、会議参加のために南米ペルーの首都リマを訪問しましたが、その際にNPOとしてペルー舞踊、特に首都リマなどの伝統舞踊であるマリネーラや、アンデス山地でティティカカ湖近くのプノ県あたりの各種舞踊を紹介するNPOブリサス・デル・ティティカカの公演を目にする機会がありました。主に外国人観光客向けにその国の文化を紹介する場合、国立舞踊団を設立したり、民間企業が運営したりするケースが多いかと思いますが、このNPOは4時間以上に及ぶ充実したショーをNPOとして行っており、社会的連帯経済の事例としても非常に興味深いものがあります。

ブリサス・デル・ティティカカの公演の様子

 文化活動は私たちの生活の質を充実するものですが、その文化の運営を行政や企業に任せるのではなく、自分たちで組合やNPOを設立して自主運営することにより、お仕着せではない自分たちの文化を守ることができます。このような観点から、日本でも文化活動の担い手として、社会的連帯経済にもうちょっと注目してもよいのではないでしょうか。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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