BOOKレビュー

書評『慰安婦と兵士 煙の中に忍ぶ恋』

慰安婦と兵士

書名:慰安婦と兵士
副題:煙の中に忍ぶ恋
著者:山田正行
発行:集広舎(2021年05月01日)
判型:四六判/並製/224ページ
価格:1,400円+税
ISBN:978-4-86735-001-0 C0021
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戦場慰安婦から、人の本質を教わる

 新聞やテレビが伝える、いわゆる「従軍慰安婦問題」とは何なのか。本書を読了して、そんな疑念が沸き起った。従前、私達が理解の範疇に納めていた慰安婦とは、大きく乖離する事々が述べられている。その違いは何なのかと考える。それは、慰安婦を問題にしたがる方々が、「人権」という正義の剣を手にして、高い位置から慰安婦を論じていることだ。著者は「地べた」、いわゆる社会の底辺に生きる人間の視点から慰安婦を説いている。そのことは、権力者によって戦場に引きずり出された兵隊と、その兵隊の相手をするために戦場に向かった慰安婦との人間関係から垣間見える。人権を前面に出した「似非正義」の言葉で慰安婦を切り刻んではいないことを痛切に感じる。

「小説でしか語れない事がある」。これは、なぜ、小説が存在するのかという問いに対する回答だが、別の意味で、市井の人々を社会の蔑視、嘲笑から護るためである。本書には、小説からの引用が多い。そのことに訝る向きもあると思う。しかし、著者は巻末に参考文献を列記し、小説の背景に潜む事実の裏付けを試みた。この誠実な対応に筆者は疑う術を持たない。むしろ、著者の真実を追求する姿勢に感銘を覚える。全ては、「地べた」に生きる人々の生きざま、弱き立場の人々を尊重しているからだ。

 全12章の中でも、第3章2節の「乳房効能」は秀逸だ。人は現世に生まれ落ちた瞬間から本能で「生きる」。その生きる術の源は乳房である。男女、洋の東西、身分差などモノともしない強さが乳房にある。人が人として生きる完全なる平等の原点が乳房だ。その原点が生死の境目である戦場にあった。それが慰安婦の乳房であった。戦場における兵隊にとって永遠の女神が慰安婦なのだ。

 更に、第4章8節の「勲章もらえますか」は、なんと悲しい話だろうか。「生命」を賭した証は、天皇陛下からいただく「勲章」しかない。兵隊と同じく、戦場に身命を投げ出す慰安婦が「勲章もらえますか」との問いかけを、誰が笑えるだろうか。本書の表題は『兵士と慰安婦』だが、根本的な人の本質を浮き彫りにしたものだ。召集令状で駆り出された兵隊と、貧困から脱却する手段として集められた慰安婦の立場に、毛一筋の違いもない。いずれも、権力者に対し拒否も反抗もできない。実名も、仮名すらも記録に残る事のない「地べた」に生きた人々には、民族や人種を越え、ただ、男と女の関係だけが真実として語り継がれる。

 翻って、党員の女子学生たちを「慰安婦」として弄ぶ権力者・毛沢東の横暴に憤りながらも、人間とは、いったい、何なのだと。そう自問自答を繰り返した。
 本書は、慰安婦を利権の対象にする風潮に一石を投じた書である。同時に、後世に伝えたい、遺したい、思想書でもある。

浦辺 登(2021年5月11日)

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