BOOKレビュー

書評:小滝透著『中国から独立せよ』

中国から独立せよ

書名:中国から独立せよ
副題:帝國日本と蒙(モンゴル)・蔵(チベット)・回(ウイグル)
著者:小滝 透
解説:久野 潤
発行:集広舎/四六判/並製/344頁
価格:本体2,000円+税
発売予定日:2021年12月25日
ISBN:978-4-86735-020-1 C0021
⇩お好みのオンラインストアにてご予約できます
版元ドットコムで購入

対中政策に必読の一書

 本書は、現今日本の対中国政策への提言である。とはいえ、多くの日本人は戦後教育によって、中国を「侵略」したと教えられてきたため、中国共産党に対し反発もしなければ反論もしない。近年、海洋進出を強める中国だが、尖閣諸島での海上保安庁の取締りも警告に留まるのがせいぜい。日本が、この体たらくに至った原因は、かつての大陸政策での詳細が明らかにされず、大陸での民族戦、歴史戦が伝わっていないからに他ならない。
 著者は築山力、小村不二男という実在の人物を描くことで、大陸での政策、歴史を述べていく。その始まりは、築山力が蒙古善隣協会の教育機関「興亜義塾」での体験談だ。文献や地図上での知識しか持ちえない者にとって、遊牧民との接触、ラマ教(チベット仏教)寺院での生活体験は、実に貴重な記録だ。異文化理解に苦しむが、現代日本が対中政策において乗り越えなければならない必須の知識だ。
 中国共産党によるチベット、ウイグル、内モンゴルにおける民族弾圧は、苛烈を極めている。そのことに対し、日本の知識人は発言をしない。目に見えない力で言論を封じられているのではなく、前提となる歴史認識が大きく欠如しているからに他ならない。本書は、広く、深く、その事々を気づかせてくれる。従前の大本教の出口王仁三郎、日露戦争時での横川省三、沖禎介、ソ連の侵攻に向けて武装解除をしなかった根本博の話は知っていても、その根幹に「興亜義塾」の精神があったことを知らなければならない。
 仮に、著者の意図するところを早急に理解しようとすれば、最終第六章の十一節、もしくは、巻末の久野潤氏の解説を読了するのが良い。大東亜戦争(アジア・太平洋戦争)を巡って、左右両派の知識人が対立する中、第三の論点、視点が欠如していることを著者はものの見事に喝破している。久野潤氏は簡潔に現代日本の歴史認識の問題を提起している。
 今、大量に安く、メイドイン・チャイナの衣料品、電気製品などが日本市場に流入しているが、それは中国共産党の圧力に苦しむチベット、ウイグル、内モンゴルの人々の血と汗と涙の結晶であると、日本人は知らねばならない。安易に、「安い」という資本主義の価値観を受容してはならない。いずれ、共産主義体制の中国は崩壊する。その時に備え、何をなすべきか。本書を参考に考えておかねばならない。日本の為政者も、日本国民も、必読の一書だ。
 蛇足ながら、巻頭の写真、文中に登場するクルバンガリーというタタール人の名前が気になってしかたなかった。記憶の糸を紐解き『頭山満写真集』において頭山満と共に映っているクルバンガリーを発見。玄洋社はアジア主義を標榜したが、「興亜義塾」とも深い結びつきがあったことに感銘を覚えた。

浦辺 登
令和4年(2022)2月7日

関連記事