BOOKレビュー

書評/宇宙大観著『中国人権英雄画伝』

中国人権英雄画伝

書名:中国人権英雄画伝
副題:在日水墨画家による詩書画で讃えた一一六名の自由義士
著者:宇宙大観(絵と文)
訳者:麻生晴一郎
発行:集広舎/B5変/244ページ/並製PUR
価格:本体3,000円+税
発売予定日:2023年10月08日
ISBN:978-4-86735-049-2 C0031
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現代版『靖献遺言』を広く世界に

 本書のページをめくりながら、ふと、思い出したのは浅見絅斎の『靖献遺言』だった。実在の中国の志士、屈原、諸葛亮、陶潜、顔真卿、文天祥、謝枋得、劉因、方孝孺という8人の物語だが、梅田雲浜が長州萩の吉田松陰に推奨。安政5年(1858)の「安政の大獄」を経て幕末の志士の聖典となり、維新を迎えた。
本書の水墨画に描かれる116人も、幕末維新の志士と同じだ。志士それぞれの風貌を描いた水墨画に「蔵頭詩」という賛歌が述べられる。それらの中で、68頁に劉暁波を見つけた。あの1989年の天安門事件では民主化を求める学生たちのリーダー的存在だった。非暴力で民主化を求め、従来の中国共産党による暴力革命に正面から立ち向かった人だ。
 評者にとっても、劉暁波は思い入れがある。2010年、劉暁波は獄中でノーベル平和賞を受賞した。しかし、中国共産党は劉暁波を解放するどころか、無視を続けた。この時、世界は中国共産党が卑劣な非民主国家であると強く認識したのだった。その劉暁波も2017年7月に没する。翌年、ベルリン、ニューヨーク、フクオカ(福岡)で追悼集会が同時開催された。この時、評者はパネラーとして「中国革命の故郷・福岡」と題して壇上にあった。取材に訪れたメディアによって追悼集会は台湾に中継され、民主化を成し遂げた李登輝元総統が「中国革命の故郷フクオカ」と反応を示したのだった。
 なぜ、ベルリン、ニューヨーク、トーキョーではなく、フクオカなのか。それは、孫文の革命を支援した自由民権運動団体・玄洋社の故地だったからに他ならない。世界の多くの人々は、この事実を知らない。大東亜戦争(太平洋戦争)後、GHQ(連合国軍総司令部)の言論弾圧によって事実が隠蔽されてきたからだ。
 吉田松陰は「獄中この書(『靖献遺言』)を誦読し傍らに人なきがごとし」と言わしめた。同じく、この116名の義士伝である本書も、後世の志士に読み継がれ、やがて、維新の時を迎える。孫文も「明治維新は中国革命の第一歩」と言い切った。しからば、『靖献遺言』の8名の英雄譚から明治維新に至ったのなら、この116名の英雄譚が民主化という革命をなし遂げられないはずがない。
 中国共産党による一党独裁、暴力、人権弾圧を打破するバイブルが本書だ。自由のために身も心も捧げた116名の志は、広く、世界に周知されなければならない。

令和6年(2024)1月27日:浦辺 登

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