BOOKレビュー

仏教タイムズ読書案内『チベットの主張』

書名:チベットの主張
副題:チベットが中国の一部という歴史的根拠はない
編著:チベット亡命政権
訳者:亀田浩史
監修:ダライ・ラマ法王日本代表部事務所
発行:集広舎
発行日:2020年7月6日
判型:A5判/並製/272ページ
価格:本体1818円+税

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歴史を明示して中国に反論

 中国による軍事侵攻、その後の占領政策によって、文化・宗教・アイデンティティを破壊する文化的ジェノサイドが情報統制の中で続いているチベット。中国の軍事的・経済的なプレゼンスが増し、中国政府が作り出した「事実」が既成化しようとする中、チベット側から中国政府の主張への反論やチベット問題の真実を語った書籍が刊行された。
 本書は、チベットにおける焼身抗議、歴史、文化的ジェノサイド、環境、経済開発、都市化などについて過去のチベット亡命政権の著作物、諸外国政府・民間組織・専門家の情報をまとめたもの。ダライ・ラマ法王が掲げる仏教に根差した中道政策も紹介し、チベットの過去・現在・未来の視点を提供する。
 事実を平易に説明し、抽象的な記述をなくすように努めており、全編で漢字にふり仮名をつける総ルビ仕様にするなど、誰もがチベット問題の経緯を知ることができるように工夫されている。
 中国がチベットの所有権を主張する上で拠り所とする元や清の時代でのチベットの歴史なども明解に解説、中国政府のプロパガンダでは、時のチベット国王、ソンツェン・ガンポが唐の文成公主と結婚したことを根拠としているが、第一夫人はネパール王妃だった。
 仏教徒として特に気になるダライ・ラマ法王の転生に関しても、法王を「人間の顔と獣の心を持った袈裟を着た狼」を呼びながら、一方で法王の転生を行おうとする中国。論理的に破綻したその行動の裏には、政治的意図が透けて見える。
 中国はチベットを支配してもチベット人の心までは支配できない。これは彼らチベット人の非暴力に貫かれた焼身抗議を見ても明らかだろう。言語を含める本来の文化を受け継ぐチベット人が消し去られようとしている今、我々はもう一度、同じ仏教徒として、この問題を知ることから始めたい。監修はダライ・ラマ法王日本代表部事務所。日本語訳は亀田浩史氏。

仏教タイムズ – 読書案内 2020年(令和2年)7月23日

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