BOOKレビュー

蓮坊公爾氏・書評『アジア図像探検』

アジア図像探検書名:アジア図像探検
著者:杉原たく哉
監修:武田雅哉
編者:杉原篤子
発行:集広舎
発行日:2020年5月31日
判型:A5判/並製/288ページ
価格:本体2200円+税
ISBN 978-4-904213-92-6 C0070

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文芸評論家・書評家の蓮坊公爾さんのご許可を得て、蓮坊さんのメールマガジン『熟読玩味』から、小社刊『アジア図像探検』の書評をここに転載します。

書評『アジア図像探検』

蓮坊公爾

 本書は、「図像學」(イコノグラフィ)を短文にまとめ、愉しく読みやすい知識の宝庫である。
 『月刊書道界』に連載されたが、筆者病死の為──未完だが其の重要性に慧眼された武田雅哉氏(監修者)と杉原篤子夫人に感謝致す。
 本来、イコンはギリシャ・ロシアの東方教会為るキリスト、聖母や殉教者の画像が発端だ。其の伝統は、ベロネーゼ、アンジェリコやアングル他の画家作品に端的に継承されて居る。
 聖母や国王・貴族・令嬢は画かれたが、当時は風景画など対象外。此のイコンをアジア(支那)へのオマージュ分野に拡げ杉原氏は語る…。
 支那の年画・白象は「しあわせ」の象徴。猿は「出世」、仏手柑なる柑橘類は「福・富」を表す。何とコウモリは「幸せの天使」──大きな鶏の絵は「大吉」。詳細を解りやすく説明してくれた。
 かな文字(日本語)の語源の意味を掲示、雷神や天狗についても解説。──多数の図像入り──。
 『水滸伝』『三國志』等を載せ、「義」に生きる男逹や女もつらい「義」の世界。人間関係における〈義の役割〉も分析してをる。
 毛沢東のイメージのエッセイでは、國民の父なる〈表の顔〉と権力闘争の亡者〈裏の顔〉を見分け、毛沢東絶讚する学者の俗物をも批判している。
 織田信長を取り上げ、フロイスに感銘を与えた安土城は、フランスの「モン・サン=ミッシェル」が、其のモデルだそうだ。其れを、権力と美術の章で…。
 アジアに造詣が深い陶芸家・バーナード・リーチの漢代画像も良かった。アジアに寄せるリーチの心意気は生半端ではないんだ。
 「杉原氏の文章は、なにやら、すっとぼけていて、毎回一度はお笑いいただこうとのサービス精神にみちている」(武田)。
 最後に「論文選」なる五点を載せて居る。
 取っ付きにくい「図像」の世界に入り込み、何時しかイコンワールドのとりこに相成った。其れも此れもだ、芸術家・杉原たく哉の技のさえ(文章の味わい)だと云うこと。
 追伸。名著を与えてくださった武田雅哉氏に、宜しく御伝え下されば有り難し。拝きみちか

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