BOOKレビュー

北海道新聞・夕刊『魚眼図』書評/アジア図像探検

北海道新聞・夕刊(2020年8月4日付け)コラム『魚眼図』にて掲載された書評を、本書の監修者でもあり評者でもある武田雅哉教授、および北海道新聞社さまのご許可を得て、ここに転載させていただきます。

アジアの図像と遊ぼう!

 数年前に病に倒れ、鬼籍に入られた研究者の遺稿集を、昨年から今年にかけて監修させていただきました。アジアの美術表現の意味・由来を研究する図像学を専門とする杉原すぎはらたく氏(1954〜2016年)です。
 奥さまの杉原篤子さんからご相談をいただき「ぜひ!」とお引き受けはしたものの、まずは本にしてくれる出版社を探すところから始まり、やっとそれが見つかると、今度は奥さまとともに構成を考えました。
 日本やアジアの図像を、いつも楽しげに、ユーモアたっぷりに解き明かしてくれた、スギタクさん(とぼくらは勝手に呼んでいました)のお書きになったものなので、そのまま出しても問題はないのですが、今回は遺稿だけでなく、一般読者の目には触れにくい初期の論文も、あわせて収録することにしました。
 たとえば、蠣崎波響の『夷酋列像』を、中国図像学の視点も取り込みながらスリリングに分析した論考などは、われわれ北海道人には一読に値しましょう。これらは学術誌に掲載したものであったため、中国語の原文そのままの引用文を、日本語に訳す必要がありました。
 そんな作業を通じて、氏の往年の論文を、何度も精読することになったわけですが、それは、とりもなおさず、杉原たく哉という明晰めいせきな頭脳が駆けぬけた思索のわだちをたどる、聖地巡礼のような旅でもありました。そんなこんなで、5月に刊行したのが『アジア図像探検』(集広舎)です。
 スギタクさんは、子供のころに飽きることなく遊んだ空き地のような「らちな遊び心を満たせる場所」こそが、氏にとっての中国図像学にほかならないと宣言しています。この壮大な遊園地に、あなたも心を遊ばせてみませんか?

(武田雅哉・北大大学院教授=中国文学)

アジア図像探検書名:アジア図像探検
著者:杉原たく哉
監修:武田雅哉
編者:杉原篤子
発行:集広舎
発行日:2020年5月31日
判型:A5判/並製/288ページ
価格:本体2200円+税
ISBN 978-4-904213-92-6 C0070

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