BOOKレビュー

浦辺登のブックレビュー『うどん屋おやじの冒険』

書名:うどん屋おやじの冒険
副題:いのち、地域、木、森、川の話
語り:青木宣人
著者:宮原勝彦
発行:集広舎/四六判/並製/288頁
価格:本体1,818円+税
発売予定日:2023年01月10日
ISBN:978-4-86735-041-6 C0036
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人の存在意義は共同体が教えてくれる

 本書は福岡県嘉麻市でうどん屋を営む青木宣人さんの語りを宮原勝彦さんがまとめたもの。しかし、うどん屋の経営書ではない。平たくいえば、地域おこしコンサルタントが生業としてうどん屋を営んでいるのだ。宮原勝彦さんが、週に一度、青木さんのうどん店を訪ねては、生い立ちから遠賀川のサケ放流までを楽しくまとめてくれた。

 聞き書きとはいえ、通常、一章、二章と章立てにするのが本の形態。しかし、青木さんは現在進行形の人であり、これから新たに何をやり始めるか分からない。一応、12の項目を立て、280ページ余で構成している。青木さん同様、枠にはまらない、枠にとらわれない一書とでも言った方がよい。

 まず、最初の「これからを生きる人たちへ」が、今を生きる私たちに「人とは何か」を示してくれる。少子化が問題とされる昨今だが、毎年3万人近い人の自殺は問題だ。少子化対策の前にうつべき策は自殺防止。イジメ、虐待もしかり。更には、生きるための農産物の自給率もだ。安く食料を輸入すれば良いという発想は捨てるべきであり、食糧輸出国の食物を略奪していることを知るべきだ。

 次に、日本の地方都市が抱える「限界集落」の話に移るが、「地域おこし」の関係者は、自身の足下を見ず、体裁の良さ、見栄えの良いもの、外国人ウケを狙う。しかし、これがいかに自身の首を締めあげる行為であるかを自覚していない。大量生産大量消費ではなく、少量多品種が地方の「売り」であることを認識しなければならない。

 ところで、この青木さんは遠賀川(福岡県)でサケの放流をおこなっている。サケは北海道、オホーツク近海の魚と思っている方がほとんど。しかし、九州の北部に位置する遠賀川にもサケは遡上してくる。そのサケを放流することが「地域おこし」になっている。ここでしかできない意外性があるから、他所から人が集まってくるのだ。そして、そのサケの遡上に欠かせない河川の整備、森林保護が、また更に人を集める。いわば、日本人の原点、先祖から受け継いできたDNAの再確認作業が無意識に「地域おこし」になっているのだ。人間も動物である。実に、この動物の本能を青木さんは、くすぐっている。

 この青木さんの本能をキャッチする能力は、いったい、どこから……と思うが、青春時時代の海外放浪で身に着けたものだった。一所に命を懸ける日本人と異なり、移動する民族の特性を知る事で、青木さんは原始人の本能を自身に蘇らせたといって良い。中途に挟まれる漫才コラムも含め、面白おかしく読み進みながら、要は対面することで共同体を構築することが大事なことなのだと分かって来る。その人と人の繋がりの重厚さは、巻末の交友録が代弁してくれる。

 およそ150年前、西洋近代化の道を選択した日本だったが、これからは自然と共生する地域共同体の在り方を西洋に伝える役目が日本にはある。そのモデルとなる人が青木さんである。じわじわ、噛みしめながら、その真髄を読み解いていっていただきたい。

令和5年(2023)7月15日:浦辺 登

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