BOOKレビュー

書評『ウイグル人と民族自決』

ウイグル人と民族自決

書名:ウイグル人と民族自決
副題:全体主義体制下の民族浄化
著者:サウト・モハメド
発行:集広舎/A5判/並製/344頁
価格:本体2,727円+税
発売日:2022年10月01日
ISBN:978-4-86735-035-5 C0031
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中国に侵略されたウイグル人の現実は、将来の日本人の姿

 現在の中国(中華人民共和国)地図に新疆ウイグル自治区と記された箇所がある。その周辺には、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、パキスタン、アフガニスタンという国々があり、それぞれの国名の後ろに「スタン」という文字が確認できる。もともと、新疆ウイグル自治区は、東トルキスタンといって、現在の中国とは異なる民族、文化、歴史を持つ国だった。それが、なぜ、中国の領土に組み込まれているかといえば、石油などの地下資源があるからだ。地下資源のみならず、品質の良い綿花も栽培されており、潤沢で無償のウイグル人という労働力もある。更には、核実験場として、中国人からすれば都合の良い「実験動物」のウイグル人もいる。実験動物といえば、綺麗な内臓を持つと評判のウイグル人の腎臓、網膜などは、中国の輸出産品として移植を求める地域へと送られる。

 本書は、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)が、いかにして中国に侵略されたかを証明する書である。330ページ余、全6章、27節からなる本書は、家族も故郷も捨てた代償として著者が後世に遺したいとして書き上げた大部だ。平常、アメリカの動向ばかりを窺っている日本からすれば、東トルキスタンの現実は他人事かもしれない。

 日本の敗北後、占領軍はプレスコード(検閲)によって、日本の歴史のみならず、他国の歴史も歪曲して日本人に伝えた。しかも、内政不干渉というルールも設定し、人道的な忠告も不可能。その結果、巷間、私たちが教わってきた歴史からは知りえない史実が本書に綴られている。それはそのまま、中国にとって都合の悪い歴史であり、日本人には決して伝えてはならない史実でもある。

 ちなみに、独裁政治に反対する方々にも本書は必携の一書だ。なぜならば、ウイグル人の悲劇を世界に伝えた四コマ漫画の作者・清水ともみ氏(『ウイグル人という罪』(清水ともみ、福島香織、共著)も著者のサウト氏に頻繁にアドバイスを求めたほどだからだ。

 しかし、日本にとっても、本書で見逃してはならない箇所がある。それが第五章「『少数民族』弾圧の根源」の第二節「地政学上の考え」だ。今も日本と中国、韓国、ロシア(ソ連)との間では領土問題が取りざたされる。その根源が述べられているからだ。この節には、イギリス、アメリカ、ソ連(ロシア)、中国という超大国の都合によって領土分割、切り取りを決めた「ヤルタ密約」が示されている。この「ヤルタ密約」によって、日本のみならず、大国に挟まれた東トルキスタンが中国に侵略された根源があるのだ。欧州大戦こと第一次世界大戦後、ベルサイユ条約が締結された。その際、国家間の秘密外交は禁止との話し合いがなされたにも関わらず、「ヤルタ密約」のように、目の前に獲物があればルールを無視するのが大国の常。

 東トルキスタンの現実を対岸の火事と見るか、はたまた自国に降りかかる災難と予見するか。本書を熟読して考えて欲しい。

令和5年(2023)1月4日
浦辺登

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