パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第36回

社会的連帯経済で必要な語学力の考察

 以前の連載「社会的連帯経済ウォッチ」をご覧の方はおわかりと思いますが、国際的な連携が欠かせない社会的連帯経済の分野で活躍するには、語学力が大きなカギになります。ここでは、具体的に何語をどの水準まで勉強すればよいのかについて、以前の記事からさらに深めて書きたいと思います。なお、以前の記事もぜひお読みいただければと思います。

 2013年の記事で詳細を書いたのでここでは繰り返しませんが、社会的連帯経済の分野で重要となる語学は、英語よりもむしろラテン系(特にフランス語やスペイン語)、そして韓国語です。ラテン系言語は全て、2000年前のローマ帝国で使われていたラテン語に由来する言葉なので、程度の差こそあれ、今でも類似点が少なくありません。特にフランス語やスペイン語は、社会的連帯経済分野での各種国際会議(最近はウェビナーも含む)で公用語として幅広く使われていますので、フランス語やスペイン語ができるようになると活躍の幅がぐんと広がることになります(同じラテン系でもイタリア語の場合、イタリアだけになってしまう。ポルトガル語はブラジルで使われており、スペイン語に非常に似ていて相互理解可能だが、国際会議での公用語はあくまでもスペイン語)。

 また、韓国語については、韓国が社会的経済の分野で非常に存在感が大きいこと、日本語と似ており日本人にとっては比較的習得しやすい外国語であり、そして日本のすぐ近くにあり頻繁に現地訪問が可能であることが、韓国語学習の大きな魅力です。とはいえ、2013年にソウル市が発足したグローバル社会的経済フォーラム(GSEF、ジーセフ)以外では韓国語が使われる国際会議はないため、あくまでも日韓交流に特化した言語だといえるでしょう。

ラテン系諸語が使われている国・地域(ウィキペディアより)ラテン系諸語が使われている国・地域(ウィキペディアより)

 さて、これらの言語ですが、どれだけの実力をつけたらよいのでしょうか。まずは日本で最も有名な語学検定である英検や、国際的に通用する資格として有名なTOEIC(990点満点の試験で、聴解と読解に分かれる)、そして欧州各国語の語学試験で最近使われるようになったヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)の基準を比べてみることにしましょう。なお、これはあくまでもかなり大雑把な比較であり、実際には各種検定の間にはかなりの差があります。

英検 TOEIC CEFR 英語力の目安
(これまで)
英語力の目安
(今後)
必要な単語数の目安
(出典)
3級 120 A2 中卒程度 中学中級程度 1650
準2級 225 B1 高校中級程度 中卒程度 3000
2級 550 B2 高卒程度 高校中級程度 5100
準1級 785 C1 大学中級程度 高卒程度 8900
1級 945 C2 大卒程度 大卒程度 14400

 以下、CEFRをもとに各段階の語学力を解説してゆきたいと思います。

 A1からA2にかけては、基本的に初級レベルとみなされており、正直なところ専門的な仕事で使えるレベルではありません。海外旅行の際に最低限の会話をしたり(A1)、基本的に工場やウェイター、雑貨屋の店員など話す内容が限定される職場で会話をしたり(A2)することができるレベルです。農作業など単純作業でよいから、とにかく海外でインターンを体験したい人ならA2程度でもどうにかなるかもしれませんが、現地の人と深いコミュニケーションを取るのは難しいでしょう。

 B1やB2は中級のレベルとされていますが、現在の日本ではB2もあれば、英語がそれなりに得意だとみなされるのではないでしょうか。B1レベルだと日常生活に加えて自分の専門分野であればある程度理解できるようになり(企業の駐在員で最低必要なレベル)、B2レベルだと自分の専門関係の国際会議に参加しても会議の内容がかなり理解できるようになります(もちろん専門関係の用語をマスターする必要はありますが)。また、大学で英語以外の言語を専攻した人の卒業時点での語学レベルは、B1からB2相当と言われています。

 C1やC2は上級のレベルとされており、特に英語以外の外国語を学ぶ場合、ここまで到達するのは至難の業です。C1は大学や大学院に留学する場合に求められる水準ですが、実際にはB2でも受け入れてくれるケースは少なくないように思います(特に非英語圏の大学の場合)。C2はノンネイティブとしては合格が不可能ではないものの、さらに語彙力を高めたり複雑な文章を日ごろから読んだりして語学力を高める必要があることから、通訳など語学そのもののプロとして働く人、またはC1合格後にもっと自分を高めたいと思ってる人でない限り、必要ではないでしょう。

 英語以外の外国語の場合、海外旅行を楽しむだけならA2レベルで十分ですが、フィールド調査や会議など、仕事や研究で使おうと思うなら最低でもB1、できればB2は欲しいところです。B2まで行けば、ノンネイティブの割にはかなり高い語学力を持っていることになり、実際現地に行ってもそれほどことばの面で困らなくなるはずです。C1はかなり高い水準で、留学せずにこのレベルに到達するのは難しいですが、このレベルまで行けば国際会議でもほとんど言葉の壁を感じなくなるはずです。

 韓国語の場合、CEFRに対応した語学試験はまだ存在しませんが、韓国教育財団が実施している韓国語能力試験(TOPIK)のサイトを見ると、4級がB1に、そして6級がC1に近いと思われます(級数が上がるほど語学力が高い)。また、韓国語能力評価院が行っている別の語学試験である韓国語能力評価試験(KLAT)の場合には、3級がB1、4級がB2、5級がC1そして6級がC2に相当するようです。確かにハングル文字のせいでとっつきにくいと思われるかもしれませんが、日本語の知識を応用して単語力を増やせるという特性があるため、英語が苦手な方でも勉強してみる価値はあるでしょう。

ソウル市役所が創設したグローバル社会的経済フォーラム(GSEF)の様子ソウル市役所が創設したグローバル社会的経済フォーラム(GSEF)の様子

 以上を踏まえて、特に英語以外の外国語具体的な勉強の道筋を紹介したいと思います。なお、先ほど紹介した記事「語学力をつけるには」もご参考にしてください。また、語学学習では継続が力になりますので、語学学習中はできるだけ毎日1時間以上、学習に専念する時間を作るようにしてください。

 初級と言えるA2レベルまでであれば、市販の教科書や会話表現集などを数冊と初心者向けの辞書を買って、その内容をしっかり自習すれば、比較的簡単に到達することができます。まだまだ仕事で使えるレベルではありませんが、簡単な表現なら通じるということで、今後さらに語学の勉強を頑張ろうという励みになるはずです。なお、英語であれば中学英語や高校英語の簡単な内容を復習すれば到達可能なレベルです。人にもよりますが、1日1時間~1時間半ほど勉強する時間が取れる場合、これらの教科書の内容を丹念に勉強すれば、半年程度で達成できることでしょう(ゼロからA2までの学習時間の目安は200時間程度)。

 A2レベルに達し、中級(B1やB2レベル)になると、英語ならともかく、それ以外の外国語を学習する場合には教材が非常に限られるようになりますので、自分で工夫する必要が出てきます。現地のサイトや放送を活用して読解力や聴解力を高めたり、また日本語訳のある専門書を原書とともに買って対照しながら読解し、単語や文法などをしっかり解析して理解したりといった作業が必要となります。外国語で本を読むのは確かに大変な作業ですが、専門書であれば1冊読み終える頃には、B2レベルの実力がつくことでしょう。1日の勉強時間が1時間~1時間半の場合、A2からB2レベルに達するには1年ぐらいかかるかと思います(A2からB2レベルまでに必要な学習時間は400時間程度)。

 その中でもお勧めの教材は、世界人権宣言(英語版フランス語版スペイン語版中国語版日本語仮訳)や、社会的連帯経済と関連の深い、持続可能な開発目標に関する国連決議文です(英語版フランス語版スペイン語版中国語版日本語仮訳)。社会的連帯経済の分野で頻出する単語がたくさん出てくる割にはわかりやすい文章ですので、初級文法が終わった人はぜひともこの決議文に挑戦してもらい、中級の語学力を養ってもらいたいと思います。これを読み終えた後に外国語で書かれた新聞記事などに目を通すと、以前よりもかなり簡単に読解できる=語学力が付いてきたことが実感できるはずです。

 上級の場合、さらに教材が限られることから、自分で教材を工夫することが欠かせませんが、このレベルであれば日本在住でも現地の人と日頃から交流して最新の情報を得たり、外国語で書かれた難しい小説や論説文などを読みこなしたり、また論文などさまざまな文章を書いたりすることができるようになります(ぎこちない表現があるので、ネイティブチェックは不可欠ですが)ので、基本的に社会的連帯経済分野やその他興味のある分野の論文を読んで実力を高めることになります。また、前述のようにC2はノンネイティブとして到達するのは非常に難しいため、語学そのものが本当に大好きでネイティブ並みの語学力をつけたいという人でない限り、C1を取得すればそれ以上勉強する必要はないでしょう。B2取得者がC1の実力をつけるには、やはり半年から1年ほどの時間がかかるかと思います(学習時間200時間程度)。

 また、逆に日本語を学習している外国人向けには、国際交流基金と日本国際教育支援協会が運営している日本語能力試験(JLPT)があります。これはN5(一番簡単)からN1(一番難しい)まで5段階ありますが、N4までは本当に限られた日常会話である一方、N2以上になると日本語で大抵の仕事を任せられるレベルになります。日本の協同組合やNPOの現場で簡単な仕事をさせるだけならN4で十分でしょうが、ワードで日本語の文章を作成したり、複雑な日本語の文章を読んでもらったりするにはN2以上(できればN1)を取得する必要があるでしょう(なお、日本語で授業を行う大学に留学するには、N1の取得が望ましいとされていますが、実際にはN2レベルで入学する人も多いようです)。なお、CEFRや英検と比較すると、大まかに以下のようなことが言えます。

英検 CEFR JLPT 日本語力の目安(JLPTのサイトより筆者作成)
4級 A1 N5 初歩的な日常会話ができる。
3級 A2 N4 ふつうの日常会話ができる。日本への観光旅行ならこの程度で十分。
準2級 B1 N3 介護現場で仕事を行うには、最低限このレベルの実力が必要。
2級 B2 N2 専門学校への留学はこのレベルが必要。特に難しいものでない限り、たいていの文章を読解可能。
準1級 C1 N1 新聞や雑誌の込み入った記事や小説が理解可能。日本語で授業が行われる大学に留学するならこのレベルが必要(実際にはN2でも留学生を受け入れる大学はあるが)。

 なお、スペイン語を学習される方向けに、私のほうでも以下の資料を公開しています。ご参考になれば幸いです。

 私たちは日常生活で「あの人は~語が上手」といった表現をよく使いますが、社会的連帯経済での国際交流の現場で使う場合、どの程度の能力があるかしっかり把握して、語学力が足りない場合は目標とするレベルに到達できるよう、自分で必要な教材を探し出す必要があります。以上、ご参考になれば幸いです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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