廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第55回

語学力をつけるには

 社会的連帯経済が、主にラテン系諸国を中心として、それ以外の国にも広がっている国際的なネットワークであることはこの連載で何度も紹介してきましたが、その関係上、特にCIRIECRIPESS、そしてモンブラン会議などの場所で語学力が必要となる機会が少なくなりません。英語よりもフランス語やスペイン語などのラテン系言語が重要になる話はすでに書きましたが(こちら参照)、「英語でさえ苦労しているのに、フランス語やスペイン語なんて…」と思われる方のために、各国語力をつけるコツについて少し書きたいと思います。

世界のフランス語圏

▲世界のフランス語圏

 語学の習得に必要なのは、読解力、聴解力、口頭表現力、文章表現力、そして単語・文法力の5つです。とりあえず以下、英語の場合を例として説明しますが、それ以外の言語の場合にもこの考え方を応用してみてください。

  • 読解力: とにかく英文を読みまくり、わからない単語については辞書を引いて意味を調べる。そして、一通り文章を読んだあとで音読し、全体的な流れを理解する。また、英語と日本語訳の対訳を活用して勉強するのもよい。
  • 聴解力: インターネットを活用して英語のテレビやラジオ放送を見たり聞いたりする(最低1日30分)。アルジャジーラ英語版France 24 英語版、それにドイチェ・ヴェレ英語版はインターネット放送を行っており、これによりパソコン上で無料視聴できるので、これを使うとよい。
  • 口頭表現力: 読解力のところで音読について書いているが、これは口頭表現力をつける上で大切。音読を習慣づけることにより「英語脳」が少しずつできてきて、自然に英語で発想できるようになる。また、ネット上の友人とスカイプを利用してオンラインで無料通話したり、あるいはオンラインの格安英会話口座を利用し、毎月2000円~5000円程度でひんぱんに会話したりするよう努める(ネットで「英会話 オンライン」で検索するといろいろな業者が出てくる)。
  • 文章表現力: ツイッターやFacebookで、日本語のみならず英語でもつぶやくようにする。そして英語圏などの友人ができたら、彼らとチャットしたりメールを交換したりする。
  • 単語力・文法力: 単語力は確かに必要だが、社会的連帯経済の分野に限れば3000~5000語程度覚えればそれほど問題なくなる。文法は確かに面倒くさいが、文章の意味を正確に読み取るためには不可欠。

 このため、英語やフランス語、スペイン語などを習得する場合には、これら5つのスキルを向上させるべく、学習計画を立てる必要があります。

世界のスペイン語圏(黄色)とポルトガル語圏(青)

▲世界のスペイン語圏(黄色)とポルトガル語圏(青)

 次に、言語ごとの勉強の仕方について、ご説明したいと思います。

  • 英語: 教材や会話教室などに事欠くことがなく、日本では中学・高校で一通り勉強している言語。社会的連帯経済の国際会議や学会でもそれなりに重要性が高いが、英米との交流よりも、むしろ英語を共通語とした非英語圏諸国(ラテン系諸国およびアジア諸国)との交流の道具として使うことが多い。NHKラジオや英語学習者向け週刊新聞(週刊STAsahi Weekly)、オンライン英会話(フィリピン人が講師のことが多いが、連帯経済関係ではアジア英語が使われることが多いため、むしろぴったり)などさまざまな手段を活用すれば、半年から1年で国際会議でもそれなりに困らない語学力がつくはず。
  • フランス語: 特に学会関係やアフリカ関係で重要となる言語。大学の第2外国語として比較的ポピュラーな言語だが、未学習者にとっては特に発音(特に発音規則の複雑さ、鼻母音やRの発音)や文法(英語にはない男性名詞や女性名詞があり、動詞の活用を覚えるのが大変)の点で戸惑いを覚えるはず。とはいえ、専門用語になればなるほど英語と似た形の単語になる確率が高くなるため、まずは日常会話の習得を目指し(フランス語についても、チュニジアやモロッコなどフランス語圏アフリカの人を講師にした格安オンライン会話講座が存在するので、近くにフランス語圏の人がいない人はこれを活用するのもよい)、日常会話をマスターしたらフランス語のニュース(France 24 フランス語版ラジオ・フランス・インターナショナルなど)に接したり、Facebookなどで社会的連帯経済関係の団体のサイトを探したりして、積極的にフランス語を使うようにすること。また、「連帯経済」(ジャンルイ・ラヴィル著)が邦訳されているため(日本語版はこちらで)、原文と訳文を比較しながら精読・音読することで、仏語力が向上する。また、英語ができる人であれば、前回の連載で紹介した報告書「世界における社会的連帯経済のビジョン」という報告書(英語フランス語)やRIPESS憲章(英語フランス語)の対訳も、語学教材としては適切。
  • スペイン語: スペインのみならず、中南米の共通語(ブラジルはポルトガル語だが、スペイン語がわかればポルトガル語はかなり理解できる)であり、特にスペインや中南米の事例を研究する上で欠かせない言語。スペイン本国と中南米の間で、そして中南米諸国間でも発音や単語に多少違いがあるが、イギリス英語とアメリカ英語のようなもので慣れれば問題なし。フランス語と違い発音規則は非常に簡単で(1時間もあればマスター可能。ただ、巻き舌のRには苦労するかも)、男性名詞・女性名詞はあるものの語尾で識別できる場合が多く(o, ajeなどで終わる単語は男性名詞、a, ción, dadなどで終わる単語は女性名詞)、基本的に動詞の活用さえマスターすれば他の文法事項はそれほど難しくない。フランス語同様、スペイン語も専門用語になればなるほど英語と似てくるため、とにかく日常会話をマスターしてから、スペイン語のニュース(スペイン国営放送のニュースチャンネルベネズエラのテレスルなど)に接したり、フランス語のときと同様にFacebookで社会的連帯経済関係の団体のサイトを探したりして、積極的にスペイン語を使うようにすること。また、日本には南米出身者が相当数住んでいるため、南米出身者の多い地域(特に東海地方、群馬県や栃木県など)では彼らと交流する機会を持つことも大切。また、私自身が邦訳を手伝った本なので手前味噌ではあるが、「もうひとつの道はある」を原書(スペイン語。PDF版が無料公開)邦訳をあわせて購入し、原文と訳文を比較しながら精読・音読することで、スペイン語力が向上する。また、英語ができる人であれば、前回の連載で紹介した報告書「世界における社会的連帯経済のビジョン」という報告書(英語スペイン語)やRIPESS憲章(英語スペイン語)の対訳も、語学教材としては適切。
  • ポルトガル語: 連帯経済が世界でも最も盛んといえるブラジルの言語であり、ブラジルに焦点を当てて研究をする人や、ブラジルとの2国間交流に携わる人には不可欠。言語的にはスペイン語に似ているが、細かい面で違いがあるので要注意(スペイン語とは性が違う単語や、スペイン語にはない接続法未来の存在など)。発音面ではスペイン語にない鼻母音がある。ポルトガルとブラジルの発音はかなり違うが、日本国内で市販されているポルトガル語の教科書はほとんど全てブラジルのポルトガル語を対象にしているので問題なし。ブラジルのテレビ局はあまりインターネット放送に積極的ではないが、公営放送のBrasil TVがネット放送をしているので、リスニングの練習にはよいかも(ただ、視聴率は非常に低い局なので、一般ブラジル人がこの番組を見ているとは思わないこと)。あと、国際会議ではポルトガル語ではなくスペイン語のほうが使われる機会が多いので、ポルトガル語をメインで勉強する場合でもスペイン語も勉強して、少なくてもスペイン語が理解できるようになることが大切。ポルトガル語から日本語に和訳された文章は少ないが、ブックレット「連帯経済: いのちのための経済が生まれている」は拙訳があるので(原文日本語訳)、これを対訳教材として活用するとよい。また、ポルトガル語の推進・普及活動も活動の一環としているポルトガル語諸国共同体には日本も2014年よりオブザーバー参加しているため、もしかしたら日本でも今後ポルトガル語の教育体制が充実するかもしれない。
  • 韓国語: 外国語の中で最も日本語に似ている言語。文字こそハングルで日本語や中国語と全然違うものだが、日本語の文法や単語の知識が役に立つので、日本人にはかなり勉強しやすい言語。とはいえ発音はかなり異なるので、正確な発音や聞き取りの練習に力点を注ぐことが大切(韓国のニュース専門チャンネル YTN のサイトの活用が便利)。また、ネット上にあるオンライン翻訳ではかなり正確な韓国語<>日本語翻訳が提供されているため、メールでの連絡や新聞記事の読解などであればオンライン翻訳の活用で十分。また、社会的連帯経済の文脈では韓国語は基本的に韓国でしか使われていないことから(北朝鮮は当然ながら国際ネットワークに参加していないので除外)、韓国の専門家になることはできるが、世界あるいはアジア全体のネットワークの会議では韓国語は使われないことから、最低でも英語、できればフランス語やスペイン語も習得したい。

 この他、もし時間的かつ資金的に可能であれば、日常会話に困らなくなったレベルで語学留学に出て磨きをかけるのも1つの手です。英語・フランス語・スペイン語ともに先進国(欧米)と途上国(アジア・アフリカ・中南米)の両方で使われており、特に長期間語学留学に出たいのであれば途上国(英語ならフィリピンやマレーシアなど、フランス語ならモロッコやチュニジアなど、スペイン語ならグアテマラやエクアドルなど)に滞在することで、比較的少なめの予算で語学をマスターすることができます。途上国といってもこれらの国では英語やフランス語、スペイン語が生活の中できちんと使われており、これらの国でことばをマスターすれば他の国でも問題なく通用しますし、可能であれば現地の社会的連帯経済関係者と交流を行うことで、語学のみならず現地の実例も学べるようになります。

 世界的な観点から日本を見た場合、特に消費者生協の分野では目覚ましい発展を遂げており、世界各国がその動向に注視している一方、それ以外の分野では日本よりも先進的な事例が各地に存在していますが、これら事例同士の国際交流を行ったり、これら事例の関係者が集まる会議に参加したりする場合には、語学力が欠かせません。世界中に広がる社会的連帯経済のネットワークの一員として日本がその存在感を増すべく、国際ネットワークで広く使われる言語(特に英語、フランス語、スペイン語)を操る人材が今後増えることを期待したいと思います。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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