廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第21回

第5回RIPESS会議(マニラ)報告

 今回は、10月15日(火)から18日(金)までフィリピンはマニラ首都圏ケソン市で開催されたRIPESS会議について報告したいと思います。
 以前も書きましたが、RIPESS(リペスと発音)は「社会的連帯経済推進大陸間ネットワーク」(Réseau Intercontinental de Promotion de l’Économie Sociale et Solidaire)のフランス語の頭文字を取ったもので、社会的連帯経済の実践者による世界規模のネットワークです。1997年より4年に1回世界規模の会議を開催しており(第1回は1997年に中南米ペルーのリマ市で、第2回は2001年に北米はカナダのケベック市で、第3回は2005年にアフリカはセネガルのダカール市で、第4回は2009年に欧州はルクセンブルク国内各地で)、今回は社会的連帯経済の歴史上初めてアジアで世界規模の会議が、フィリピンはマニラ首都圏ケソン市内のフィリピン大学構内で開催されました。なお、アジア、アフリカ、中南米そして欧州では、大陸規模のイベントも開催されています。

RIPESSマニラ会議のロゴ

◀RIPESSマニラ会議のロゴ

 初日(10月15日火曜日)は全体会議が行われました。開会のあいさつの後、カナダ・コミュニティ刷新センターのマイケル・ルイス氏が、2001年RIPESS会議のスローガン「Resist and Build」(抵抗して建設せよ)を持ち出した上で、社会的連帯経済においても陰陽のバランスを取ることが大切であると力説し、特に3つの基本的な需要(食料、エネルギー、住宅)を社会的連帯経済の3つの主要なツール(金融、共有財、所有権の民主化および地元管理)と結びつけた上で、バンクーバー市内で実現した安価な住宅供給、日本で1970年代より行われている産直提携(Teikeiという名称で英語でも幅広く普及している)、そしてピークオイル(石油産出量がピークを迎え、今後は徐々に減ってゆくという予測理論)が紹介されました。次にパウル・シンジェル・ブラジル連帯経済局長が、連帯経済は人類の歴史とともに世界どこにでも存在しており、ブラジルでは特に先住民コミュニティやアフリカ系コミュニティで強固であると語った上で、ブータン政府が推進している「人間幸福指数」と連帯経済を関連付けました。

 その次に壇上に上ったのは、去る5月にスイスはジュネーブ市内で社会的連帯経済に関する国際会議を開催した国連社会開発研究所(UNRISD)のピーター・ウッティング氏で、貧困やジェンダー間の不平等、価値観の危機や個人の孤立などの問題を生み出している従来型の開発の枠組みを問題視し、最近南米で話題になっている「ブエン・ビビール」(南米先住民のように、あくまでも自然と調和した形で心身両面で満たされた生活を追及すること)を強調しました。最後にカナダ・ケベック州社会的経済ワークショップのナンシー・ニートマン女史は、資本主義も共産主義も貧困撲滅という点では機能していない点を指摘した上で、草の根組織による資源の自主管理の大切さを話しました。

 午後には各大陸の現状が報告されました。まずダニエル・チジェルRIPESS事務局長が、RIPESSウェブサイトのリニューアル(ビデオセクションや社会的連帯経済関連の他のサイトとの連携)に加え、国連や各国政府による社会的連帯経済の推進のための諸政策を紹介し、他の社会運動との連携強化の必要性を訴えました。次にアブデルジャリル・シェルカウィ氏(モロッコ)が多様なアフリカの現状を語り、ビザが下りなかったために多数のアフリカ代表が会議に参加できなかったことを悔やんだ上で、大陸別ネットワークとは別に存在する地中海ネットワーク(南欧諸国と北アフリカ諸国のネットワーク)の強化を力説しました。この会議の主要運営者でもあるベンジャミン・キニョネス氏(フィリピン)が、自主運営型組織と貧困層向け組織の2つからアジアの社会的連帯経済が構成されている現状を指摘した上で、先進国型の社会的企業モデルの継続か、それとも中南米型連帯経済との連携強化のどちらをアジアは選ぶべきかという問いかけを行いました。

 続いてジェイソン・ナルディ氏(イタリア)が、RIPESS欧州の現状を語りました。伝統的に西欧や南欧(特にラテン諸国)において社会的連帯経済は広く受け入れられている傾向にありますが、北欧や東欧諸国に向けてネットワークが広がっていることや、新自由主義への反発のみならずオルターナティブとして倫理銀行や地域通貨、連帯観光などさまざまな事例が生まれていることが紹介されました。ルイス・エドゥアルド・サルセド氏(コロンビア)は中南米における法制度面での進展(特にドミニカ共和国やエクアドルなど)を話した上で、自由貿易協定や資源収奪型経済開発が障害として立ちはだかっている現状を指摘しました。エミリー・カワノ女史(米国)は北米地域におけるさまざまな協同組合の例を紹介しました。そして最後にデイヴィッド・トンプソン氏(ニュージーランド)が、新自由主義の没落によりオセアニア地域でもさまざまな事例が勃興していると話しました。

 2日目から4日目にかけては、会議と同時並行で連帯経済見本市が開かれ、フィリピン、インドネシア、カンボジア、メキシコ、グアテマラそしてペルーの特産品が販売されました(他の国の商品もあったかもしれません)。

見本市の様子

▲見本市の様子

 2日目(10月16日(水))の午前には、12ものワークショップが同時開催されました。そのうち3つは言語別の事例紹介(英語部会ではアジア、米国およびオセアニアの事例、フランス語部会では欧州、ケベックおよびアフリカの事例、そしてスペイン語部会では中南米の事例)、そして残りの9つはそれぞれの分野別のもので、主催者によって以下のような形で要約されています。

  • 社会的・文化的・精神的価値や人権を認めない新自由主義の拡大やその失敗によりわれわれは被害を蒙ってきたが、社会的連帯経済自身はそれに対して具体的な是正措置で対抗し、先住民や伝統的社会の実践を尊重する。
  • 同時に社会的連帯経済はクリエイティビティあふれるものであり、「社会的包摂型開発の戦略」、「人間中心の経済」そして「持続可能性と回復力を保証する経済」と定義される。
  • 必要性:グローバルな金融・環境危機の文脈で社会的連帯経済をとらえたり、社会的連帯経済への投資を送信すべく金融機関との関係を構築したり、フィリピンの伝統文化の中に社会的連帯経済に関連した要素があることを実証すべく同国におけるカルチャル・スタディーを推進したり、など。
  • 提案:若者への教育や参加促進、教育カリキュラムへの社会的連帯経済の組み込み、多様な媒体を通じた社会的連帯経済についての広報、エンパワーメント、社会的連帯経済の実践例の推進、人権の枠組みや各行政機関の活用、ジェンダーの適用など。

 同日午後は4グループに分かれた上で、ケソン市内の社会的連帯経済の事例の視察が行われました。
 3日目(10月17日(木))にはワークショップが4つ開催されました。ワークショップ1(社会的連帯経済についてのグローバルビジョン)では社会的連帯経済が「社会経済システム全体を変革する」と定義され、資本主義に対抗できるだけの力をつけるためには自主運営型組織の運営を改善する必要があることや、政府からの支援を得る必要性が指摘され、より公平な富の再分配や、「ブエン・ビビール」に代表される新たな開発指標の必要性が指摘されました。ワークショップ2(各地における社会的連帯経済の実践例)では「地元での連携や連帯の強化」、「地域レベルでの民主的ガバナンスの組織」そして「オルターナティブモデルとして地域アプローチの貢献を認識」という3つの提案がなされました。ワークショップ3(社会的連帯経済のネットワーキングおよび組織)では相互学習、顔を合わせたコミュニケーション、共通の目的に向けた多様な人たちの協力、RIPESS憲章のさらなる理解そして現場の人向けへのRIPESSの資料の提供(各国語提供、およびインターネットが使えない地域向けに印刷物の作成)などが提案されました。そしてワークショップ4(コミュニケーションおよび視覚性)では、社会的連帯経済の実践例をシェアしたり、一般の人に紹介したり、社会的連帯経済団体をマッピングしたりする必要性が指摘され、マッピング、ビデオを含む形での実践例の記録およびRIPESS内部でのコミュニケーションの強化が提案されました。
 また、これに加えてジェンダー部会では、主に以下のような提案が行われました。

ジェンダー部会の報告のようす

▲ジェンダー部会の報告のようす

  • 社会的連帯経済はジェンダー、人種、性的指向、社会階層、国籍などに対するいかなる弾圧も再現してはならない。
  • 社会的連帯経済は、家庭、地域社会、組織および社会における力関係に積極的に取り組み是正しなければならない。
  • 女性は、社会的連帯経済の組織および運動において持続可能な形で、女性のリーダーシップを生み出し再定義しなければならない。
  • ジェンダーは社会的連帯経済において主要テーマである必要がある。
  • 女性は男性とともに議論を行い、社会的連帯経済におけるジェンダーの支点を発展させる必要がある。
  • 地元の状況に合わせて女性の経験を社会的連帯経済における議題にする必要がある。
  • ジェンダー問題は、RIPESSの会議およびプラットフォーム全てにおいて公式に含まれる必要がある。

 そして最終日(10月18日(金))は、主に2日目や3日目に行われたワークショップの内容報告に費やされました。
 次回のRIPESS全世界会議は2017年に中南米で行われることになっていますが、地域別会議としては2014年に東アジア(日本、時期未定)、アフリカ(モロッコ・マラケシュ市、4月)そして中南米(ニカラグア・レオン市、時期未定)で開催されることになっています。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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