燕のたより

第21回

王丹と陳光誠

 昨日、激しい風雨がずっと続き、めっきり秋らしくなりましたが、いかがお過ごしでしょうか。さて、二つほど、中国の民主化、公民運動に関わることをお知らせいたします。

1.

 一九八九年の天安門民主化運動の学生リーダーであった王丹さんからメールが届きました。当時、彼は北京大学歴史系の学生で、六月四日の天安門事件の後、政府転覆の陰謀を企てたとして十一年の判決を下され、服役していましたが、一九九八年に病気治療を理由に仮釈放され、米国に出国し、ハーバード大学で歴史学博士の学位を取得し、現在では台湾の大学で中国近代史を教えています。
 彼からのメールの内容は、次のとおりです。

 ①今年の九月に、世界の華人を対象にして、民主化をテーマにしたネット講座「華人民主書院」を開講した。ツイッター、フェイスブックなどのニュー・メディアを通して中国大陸の「八〇後(一九八〇年代生まれ)」や「九〇後」たちを中心に、民主、憲政、共和などを辛亥革命百周年記念に関連させて熱い議論を交わしている。
 ②「中国の民主と自由の発展を推進するという鮮明な価値観」を表明する季刊誌『公共知識分子(公共知識人)』を一〇月に発刊した。王丹と王軍濤が編集している。

 『公共知識人』編集長の王軍濤さんは、天安門民主化運動では、当局から「黒幕」と見なされて投獄され、一九九四年に病気治療を理由に仮釈放されて米国に出国しました。コロンビア大学で政治学博士号を取得し、現在はニューヨークに在住し、中国民主党の共同主席です。
 『公共知識人』の「発刊の辞」の冒頭では「民主と自由は、人類社会が正常に動く制度や枠組みだけでなく、まさに人間の尊厳の基礎である」と訴え、中国が直面する問題を研究し、公共空間において議論することを呼びかけています。
 そして「本誌の創刊は、一つの発信基地を提供し、『求同存異(共通点を求めるが、異なる点は共存する)』を原則とし、公共知識人が、中国の現実的問題における最大公約数や、未来に向けた第一歩となるような建設的意見を提出することを望む」と提起しています。
 また、「公共知識人」については、次のように定義しています。
 「いわゆる公共知識人とは、社会の公共的な課題について自分の意見や立場を公に表明するプロフェッショナルである。その特徴は、第一、常に主流や体制の対極に立つ批判性、第二、為しえぬことを認識した上でなお身をもって為すという理想性、第三、参加するという行動性、第四、議論の建設性、第五、社会的弱者に注目する草の根の視点である。」
 そして「中国は巨大な転換期に直面している。いつ、そして、どのようなかたちで転換が始まるのか、我々はまだ分からないが、このキーポイントとなる転換期において、少数だが公共知識人がキーパースンの役割を果たさなければならない。これは歴史が現代の公共知識人に与えた使命であり、回避できない時代の課題である」と訴えています。

 この創刊号は一六七頁で、寄稿者にはコロンビア大学の政治学者、アンドリュー・ジェイムズ・ナタンをはじめ、胡平、王軍濤、陳子明など錚々たる顔ぶれです。そして、日本の良識、良知のある知識人の積極的な寄稿も期待されています。
 また、日本から購読する場合は、購読費と送料でおよそ年間四〇ドルだそうです。
 ◎住所:臺灣臺北市新生南路一段165巷14號2樓  華人民主書院  王丹
 表に Dan Wang と書いてくださればはっきりと分かるといいます。
 もしくは、台湾の元大銀行の次の口座に入金してください。
 ◎20972700044253
 問い合わせのメール・アドレスは、以下です。
 ◎wangdan[at]gmail.com
 ※クリックするとメーラーが立ち上がります。
 ※スパム防止のためアットマーク [@] を [at] に置き換えています。

 私は、二〇一〇年一二月に、台北で王丹さんとお会いして、長時間お話ししました。その内容を、ここで紹介します。
 ①情報統制を突破するソフトを使い自分のツイッターにフォローする中国大陸の「八〇後」、「九〇後」に希望を寄せている。自分が二〇代のとき理想に燃えていたことを彷彿とさせる。そのため、亡命しているが、常に生の声を聞くことができ、現場の状況が把握できる。
 ②中国の民衆は、一九八九年の天安門事件以後、「脱政治化」し、空虚感、絶望感に陥ったというイメージがあるが、銃弾に倒れたというのではなく、しゃがんでいるだけだ。いつか、自らの政治的権利に目覚め、立ち上がることを信じている。
 民衆は、政治改革に反対するのではなく、改革をしないという状態で、いつか改革に踏み出す。
 ③かつて多くの日本人が孫文の辛亥革命を支援した。同じように、現在でも中国の民主化に支援してくれることを期待する。そして、アジアで民主主義の歴史が長い日本に訪問し、研究することも願っている。

2.

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 今日(一〇月一五日)は、国際盲人デーです。現在、中国の良心的知識人は、国内国外を問わず、「自由光誠」という運動を密かに展開しています。これは、盲目の人権派弁護士の陳光誠さんを支援する運動です。
 彼は山東省臨沂の人で、盲学校で学び、弁護士になると目の不自由な人をはじめ障害のある人たちへの差別に立ち向かい、また国策である「一人っ子政策」による強制妊娠中絶に反対しました。そのため、繰り返し弾圧され、二〇〇六年には、大衆を集め交通を妨害したという罪で四年三ヶ月の刑を言い渡されました。
 しかし、国際社会は陳光誠さんを評価し、二〇〇六年に『タイム』誌によりその年の「世界で最も影響力のある100人のリスト」に選ばれました。そして、二〇〇七年にはマグサイサイ賞を受賞しました。
 ところが、刑期を終えて出獄しても、陳光誠さんと家族の三人は一年以上も軟禁状態にあります。子供は小学校に入学することさえできません。これに対して、国内の良心的ネット・ユーザーや人権活動家たちは、安否を知ろうと彼の家を訪ねましたが(二〇数回に及ぶ)、みな地元の党幹部に雇われた者に暴力をふるわれました。それでも、ウェイボー(中国のミニブログ)で、陳光誠の家を訪ねようという呼びかけが続いています。

 海外でも、スウェーデンの茉莉をはじめ、香港、ドイツ、アメリカ、日本などの良知ある知識人が、地元の国保、盲人会、省や市の政府などへ、法律の遵守を求める電話をかけています。国保の個人にも良心と良識を覚醒させようと訴えています。
 また、本土では、作家の章詒和はじめとする著名人や人権活動家の胡佳(二〇〇八年サハロフ賞受賞)が、公民の権利を尊重し、ヒューマニズムの対処を求める呼びかけをウェイボーで広げています。このため、ウェイボーの規制がさらに強められています。
 これに関しては、以下のサイトを参考にしてください。
 ◎关于“自由光城”About Free Guangcheng
 ◎中国网友百人世界盲人节探望陈光诚

 これは極めて困難な状況下で地道に進められている公民運動の一環です。是非とも注目してください。

2011年10月15日 劉燕子

コラムニスト
劉 燕子
中国湖南省長沙の人。1991年、留学生として来日し、大阪市立大学大学院(教育学専攻)、関西大学大学院(文学専攻)を経て、現在は関西の複数の大学で中国語を教えるかたわら中国語と日本語で執筆活動に取り組む。編著に『天安門事件から「〇八憲章」へ』(藤原書店)、邦訳書に『黄翔の詩と詩想』(思潮社)、『温故一九四二』(中国書店)、『中国低層訪談録:インタビューどん底の世界』(集広舎)、『殺劫:チベットの文化大革命』(集広舎、共訳)、『ケータイ』(桜美林大学北東アジア総合研究所)、『私の西域、君の東トルキスタン』(集広舎、監修・解説)、中国語共訳書に『家永三郎自伝』(香港商務印書館)などあり、中国語著書に『這条河、流過誰的前生与后世?』など多数。
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