廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第72回

第7回モンブラン会議報告

 11月26日(木)から28日(土)にかけて、フランスのシャモニー・モンブラン町で第7回モンブラン会議が開催されました。前回(第6回)に引き続いて今回も参加することができたため、第7回会議の内容をこちらで紹介したいと思います。

 モンブラン会議は最近、国連や各国政府と協力して社会的連帯経済関連の公共政策の推進に力を入れていますが(例: 2014年9月22日にニューヨークの国連本部で行われた会議についての私の日本語での記事)、今回の会議もその色合いが強い内容となりました。前回の会議ではモロッコからの参加者が多く注目されましたが、今年の会議では昨年(2014年)に新大統領が就任して以降社会的連帯経済の推進が活発な中米のコスタリカから、大統領夫人や経済通産相、そして国会議員といったVIPが数多く参加していました。また、11月30日(月)より気候変動枠組条約第21回締約国会議がパリで開催されることもあり、それを意識して、気候変動に対処する上で社会的連帯経済が果たす役割についても議論されました。

会議の行われたシャモニーの風景

▲会議の行われたシャモニーの風景

 ティエリ・ジャンテ議長らによる開会のあいさつに続いて、ヨム・ヨンスク・ソウル市役所経済振興本部職場企画団長が、ソウル市における社会的経済の推進政策として、同市役所が過去2回主催したグローバル社会的経済フォーラム(2013年2014年)に加え、社会的価値に対して投資する社会投資ファンドや、同市城東区聖水洞に建設中の社会的経済特区、さらには低所得者層向けの住宅提供プロジェクトなどが紹介されました。次に2016年の社会的経済フォーラムを開催するカナダ・モントリオール市のモニック・ヴァレー実行委員長が、文化的統合およびソーシャル・イノベーションとしての社会的経済、具体的には貧困対策事業への補助金、芸術家や市民教育への資金提供者との提携による生活の質の改善、低価格の住宅提供や食の安全などの戦略などの事業を紹介しました。そしてNGO「共同開発のためのフランス・アフリカ提携」のポリーヌ・エファ代表(カメルーン)が、同国などアフリカ諸国で貧困から多くの人が農村から都市へと移住している現状を踏まえた上で、行政によるトップダウン型の従来型地域開発モデルを批判し、地域社会の人たちを巻き込み、その人たちの潜在能力を活用した形の地域発展を提唱してから、能力育成や資金面での支援の必要性を訴えました。

 次に、モンブラン会議による社会的連帯経済国際推進グループの紹介が行われました。まず、フランス外務省のオリヴィエ・ブロシュナン氏が社会的連帯経済への同国の取り組みとして、モンブラン会議との協力関係を語った上で、持続可能な開発の計画目標に社会的連帯経済が沿っていることを強調しつつも、その社会的連帯経済の担い手自身がその計画目標を意識する必要があると述べ、同国のフランソワ・オランド大統領も社会的連帯経済を支援していると締め括りました。続いて、コスタリカのメルセデス・ペニャス大統領夫人が、フランスなど各地で多発しているテロによる犠牲者の追悼後、同国の開発目標と社会的連帯経済が一致することから同国がこのグループに参加したことを述べ、貧困や貧富の格差の削減のための戦略として社会的連帯経済やその金融をみなしていることが語られました。

モンブラン会議で発表するメルセデス・ペニャス女史(コスタリカ大統領夫人)

▲モンブラン会議で発表するメルセデス・ペニャス女史(コスタリカ大統領夫人)

 その次に、2016年10月17日~20日の予定でエクアドルの首都キト市内で行われる住宅および持続可能な都市開発に関する国連会議(Habitat III)に関連した分野で、3つ発表が行われました。まず、国連を代表してマンスール・タル氏(セネガル)が、来年行われる会議が1976年にカナダ・バンクーバー市で行われたHabitat Iや1996年にトルコ・イスタンブール市で開催されたHabitat IIに続くものであり、特に第2回会議においては開発の推進役としての都市の役割や市民参加の意義が強調され、Habitat IIIでは公共政策を各地域の事情に合わせる必要がある旨が語られました。連携経済開発研究所のニコラス・クルス・ティネオ氏(ドミニカ共和国)は、ハイチ国境に近い同国南西部において、貧困に加えてゴミ廃棄など環境汚染の問題も深刻化している状況を取り上げた上で、地元の人たちに地域自治や起業のための能力開発を行い、地元の人たちが地域づくりに参加したり、各種企業活動が生まれ始めたりしている状況を語りました。フィリピン・ケソン市のメルヴィン・リリョ氏は、地域社会が組織されると行政との対話によりその状況が改善することを話しました。

 気候変動のセッションでは、まずCNRS(科学調査全仏センター)のリュック・モロー氏が、各地の氷河の後退についてスライドで紹介し、気候変動の深刻さを伝えました。Écotech Québecのドニ・ルクレルク氏は、市民による適切な技術により富を共有して社会的包摂を促進する上で二酸化炭素の排出や再生可能エネルギーの推進の重要性を説きました。ボリビアのNGO「夢を紡ぎながら」のエリザベス・ペレド女史は、地球温暖化が世界各地に悪影響を与えている一方、それに対する解決策は各地域社会が見つける必要があると述べました。Enda Energyのセク・サール氏(セネガル)は、気候変動が同地域の農業や人間生活に悪影響を与えていることを述べた上で、地球環境保護関係の資金を活用することを提唱しました。

 次に、社会的連帯経済における金融面の重要性に関する発表が行われました。まず、Finance Watchのブノワ・ラルマン氏(ベルギー)が、現在の金融市場の崩壊により社会的連帯経済が疎外されていることを述べた上で、市民社会が管理する金融システムの重要性が述べられました。モンテピオ共済金融組合の(ポルトガル)の代表は、信用金庫としても機能しており、かつ利益については財団を通じて社会に還元する同組合の概要を紹介しました。州立協同組合銀行全インド連合のビマ・スブラマニャム常務は農村金庫の重要性について語り、その改善のためには専門性を磨いたり、最新技術を導入したりする必要があると述べました。最後に、コスタリカのベルマ―ル・ラモス・ゴンサレス経済通産相は、大企業と比べて同国の中小企業が3倍もの利息負担を余儀なくされている現状を語り、同国経済の発展政策として協同組合の創設に同国政府が取り組んでいることを明らかにし、社会的連帯経済については社会的連帯経済商工会議所の創設で対応していると語りました。

 その後、地域開発のための地域資源の活用、貧富の差の縮小における社会的起業や草の根の参加の推進方法、起業方法の変化、気候変動への取り組み、都市での包摂そして政策について分科会が行われた上で、その内容をまとめて宣言文(英語版フランス語版スペイン語版)が採択されました。以下、その要約をお届けします。

  1. 都市や地域への融資、食料主権および気候変動について: 社会的連帯経済関係の法制度化の推進、地域のニーズを満たし持続可能な食料の生産・流通そして消費のシステムの確立、多様な金融制度の推進、人権や都市と農村との関係が尊重されるような参加型地域開発モデルの推進
  2. 社会的包摂、社会・環境の正義、平等な開発政策について: 開発についての新たな経済面・社会面・環境面での指標作成、地球温暖化に対処する社会的連帯経済事業(再生可能エネルギー、カーシェアリング、有機農業など)の連携、若者や女性など疎外された人への雇用作りの支援
  3. 企業のガバナンスや変革: 文化、イノベーション、デジタル技術、公共政策について: 調査研究、特許の共有や技術移転、社会的連帯経済の入札への参加、社会的連帯経済の担い手に優しい公共政策を実現する基盤づくり、地域が参加し自ら実施する公共政策の開発

 前回と比べても、今回のモンブラン会議は国連や各国政府との連携が緊密になっており、特に気候変動や都市問題のように国連が重点的に取り組む課題と歩調を合わせた上で、その文脈で社会的連帯経済を推進しようという意向が強く感じられました。次回(2016年最初の記事)では、このようなモンブラン会議の傾向も踏まえた上で、日本における社会的連帯経済の推進において個人的な展望を述べたいと思います。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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