廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第73回

日本国内で社会的連帯経済を発展させるカギ

 明けましておめでとうございます。2013年1月に始まったこの連載も、お陰様で4年目を迎えることになりました。今後も社会的連帯経済のさまざまな分野について紹介し続けたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

 さて、今回は日本国内において、社会的連帯経済を発展するにはどのような方策があるかについて考えてみたいと思います。正直なところ諸外国と比べると日本では、社会的連帯経済の推進上かなりの障害がありますが、可能な範囲で書いてみたいと思います。また、以前書いた以下の記事もご参考になるかと思います。

 前回(第72回)のモンブラン会議報告では、コスタリカ政府が自国の経済発展目標と社会的連帯経済の目標が一致していることから社会的連帯経済の推進グループに参加したことを紹介しましたが、私が知る限り現在の日本では、与野党どちらにおいても、社会的連帯経済と近い目標で活動している議員は見当たりません。もちろん、社会的連帯経済という概念自体が日本ではほぼ全く知られていないため、議員に対して働きかけを強めることで永田町における社会的連帯経済への理解度を高めることはできるかもしれませんが、少なくても社会的連帯経済の担い手側にそれだけのロビーイングを行えるだけの組織力が現在時点であるとは思えませんし、またテレビや新聞などでも社会的連帯経済が全く取り上げられていない現在、一般社会を通じて社会的連帯経済が永田町の話題になる可能性も、残念ながら皆無に等しいものです。

 国会議員に期待が持てないなら、次に考えられるのが霞ヶ関官庁です。当然ながら各官庁はそれぞれの目的をもって活動しており、その中には社会的連帯経済の目的と重なるものもありますが(実際ブラジルの場合、雇用創出を目的として連帯経済局が労働雇用省内に設置された)、特に日本の場合、官僚主導の政策はどうしても市民による自主運営という社会的連帯経済の根本理念と波長が合わず、協同組合やNPOなどが、官製政策の下請け役の座に甘んじてしまう場合も少なくありません。霞ヶ関官僚から支援を受けること自体は必ずしも悪いことではありませんが、理念を骨抜きにされる可能性があるので、その点で注意が必要です。

 国会議員や霞ヶ関官庁から無視されたり軽んじられたりする現状を改革するには、やはり社会的連帯経済という概念の下で関連団体や研究者などが集結し、資本主義ではない経済活動の重要性を日本社会一般に強く訴えてゆく必要があります。その意味においてやはり理想は、フランスのCEGES、スペインのCEPESREAS、またブラジル連帯経済フォーラムのように、全国の関係者が一同となって業界団体を創設し、それを通じて国会議員や霞ヶ関官庁にロビーイングを行っていくことです。また、分野によっては社会的連帯経済の全国組織があります(消費者生協における日本生協連全国NPOバンク連合会ワーカーズ・コレクティブ・ネットワーク・ジャパンなど)ので、このような既存の組織を活用しつつ、これら社会的連帯経済の各団体をさらに束ねる組織としてCEGESやCEPESなどのような連合組織を新たに創設することも考えたほうがよいでしょう。

日本生協連のサイト

◀日本生協連のサイト

 また、一度このようなネットワークを結成したら、全世界における連帯経済のネットワークであるRIPESS憲章については第66回記事を参照)の会議などに参加して、積極的に国外の情報を収集し、世界の一員として協力していく必要があります。この際に国際公共経済学会日本支部などを通じて同分野の研究者の協力も得たり、諸外国の動向を把握したりして、社会的連帯経済が単なる絵空事ではなく、現実として世界各地に存在していることを伝えてゆく必要が大切になります。

 さらに、特に全国ネットワークの場合は日本を代表して諸外国の会議に参加したり、諸外国の関係者の日本の事例を伝えたりする役割が期待されます。国際会議イコール英語というイメージが日本では強いですが、こと社会的連帯経済においてはラテン系諸国を中心として発展してきたこともあり、RIPESSやモンブラン会議などでは英語のみならずフランス語やスペイン語も公用語となっており、ラテン系諸言語でしか入手できない情報も少なくないので、できれば事務局に英語のみならずフランス語やスペイン語が得意な人も雇い入れて、非英語圏との情報交流(海外情報の受信のみならず、英仏西語での日本関連情報の発信も)に努めると、日本と諸外国の事例交流も促進することになるでしょう(韓国に関しては、第68回記事で紹介した通り、NPO希望の種が社会的連帯経済の分野における日韓の二国間交流に尽くしています。また、語学については第55回記事も参考になるはずです)。

 日本で現在のところ連帯経済をとりまとめている団体としてはアジア太平洋資料センター(PARC)がありますが、PARCは東京にしか事務所を持たず、全国各地を結んだネットワーク作りは難しいのが現状です。また、日本はそれほど面積の広くない国ですが、北東から南西まで非常に長い国土を擁しており、国内移動に時間も費用もかかることを考えると、東京だけではなく地方ごとに独自のネットワークを作り(できれば県単位、せめて東北や九州など地方単位)、そこでさまざまな活動を行ってゆくことが欠かせないでしょう。実際、フランスでは社会的連帯経済法で各地方の役割を規定していますし、スペインのCEPESやREAS、そしてブラジル連帯経済フォーラムも地方組織の充実に全力を尽くしています。

 地域(市町村や都道府県)における社会的連帯経済の推進については第60回記事で紹介しましたが、推進のために欠かせない各種団体の取りまとめにおいて、行政が果たす役割は小さくないものと思われます。韓国の首都ソウル市役所は、社会的経済の推進のために、社会的経済センターを創設するなどの各種政策を実施していますが、日本でも都道府県に加え、政令指定都市などある程度の人口を抱える都市では、行政側にその意思さえあれば、同様の政策を行うことは可能でしょう。実際、NPOや社会的起業の分野に関しては都道府県や政令指定都市などが各種支援政策を行っていますので、ここで社会的連帯経済という新しい視点をもたらすことで、地方発という形で社会的連帯経済を推進することができます。

ソウル市社会的経済センターのサイト

◀ソウル市社会的経済センターのサイト

 もちろん、行政の音頭取りを待つことなく、その地域内の社会的連帯経済の担い手自身が集まって地域内で社会的連帯経済のネットワークを自主的に創設し、市役所や都道府県庁などに支援を求めて訴えかけることもできます。このためには、その地域内に存在する協同組合やNPO、フェアトレード団体や社会的企業などが分野の枠を超えて集まり、社会的連帯経済という共通の目的の推進のために協力することが欠かせません。NPOや社会的企業などという分野では、前述したような形ですでに行政からの支援がある場合も多いでしょうが、そうではなく社会的連帯経済という新たな概念を行政に認知してもらった上で、その推進を働きかけるべく、あるいは一般市民に幅広く社会的連帯経済の概念を知らせて(スペイン各地で行われている連帯経済見本市はその一例)、資本主義でない経済が可能であることを伝えた上で一般市民の参加を要請すべく、さまざまな活動を展開してゆくことが大切となります。

 以上、国会議員、霞ヶ関官庁、社会的連帯経済の全国組織、都道府県庁や市役所そして社会的連帯経済の地方組織という5つの形で、社会的連帯経済を日本国内において推進する方法を紹介しました。日本国内において、以下の方法論のうちいずれかでも、ご参考になれば幸いです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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