去る7月21日にフランスで社会的連帯経済法が可決され、国としてはスペイン、エクアドル、メキシコそしてポルトガルについて、社会的連帯経済分野の法律を制定した5つ目の国となりました。今回は、この法律について紹介したいと思います(スペイン法、メキシコ法およびポルトガル法についての日本語での詳細については、それぞれのリンクを参照)。
まず、同法第1条では社会的連帯経済について、利益共有以外の目的追求、民主的ガバナンス、利益の大半を組織の維持・発展に使用および義務的準備金の保持といった条件を満たす人たちによる経済活動と定義されており、具体的には協同組合、共済組合、財団、アソシアシオン(日本の特定非営利活動法人に相当)に加え、前述の条件を満たし、社会的効用を追求し、さらに利益の一定額以上を準備金に回す一般企業(有限会社など)も社会的連帯経済の団体と認められます。また、社会的効用については、以下の3つのうち少なくとも1つを追求することが必要となります(第2条)。
- 経済的、社会的および健康面で脆弱な状態にある人を支援する活動を目的とする。
- 民衆教育や社会的つながり、および地域づくりを通じて、社会的疎外や各種不平等の克服を目的とする。
- エネルギーの移行(注:再生可能エネルギーへの移行)や国際的連帯を通じて、1あるいは2と関連した持続的な開発を目的とする。
第3条では社会的連帯経済上級審議会の役割として、ガバナンス、経営戦略、経済活動や雇用と地元との結びつき、給与方針、利用者との関係そして男女平等の観点から、良好な事例を紹介するガイドの作成を挙げています。第4条では同審議会の役割として、関連法制の整備における諮問に加え、3年ごとに社会的連帯経済関連の報告書、その発展のための国家戦略書および男女平等に関する報告書の刊行が挙げられ、その委員として国会議員や別の審議会委員、社会的連帯経済団体の代表、同団体の被雇用者代表、協同組合や共済組合、財団やアソシアシオンの専門家そして公共政策担当者などが選ばれることになります。
第5条では、同国内における社会的連帯経済の業界団体として、フランス政府に対して業界を代表する社会的連帯経済フランス協議会の設立が規定されています。また第6条では同様に、各地域政府(フランスには現在、本土に22、そして海外領土に5つの合計27の地域圏があり、各地域に政府がある)に対して地元の業界を代表する社会的連帯経済地域協議会の設定も制定されています。また、各地域は市町村や県と共同で社会的連帯経済の地域戦略を策定し(第7条)、国の出先機関と地域の共催で最低でも2年に1回は社会的連帯経済の地域会議を開催し(第8条)、さらに経済協力地域極と呼ばれる地域経済発展のための協議会も設置されます(第9条)。
◉フランスの22の地域圏
また、社会的連帯経済分野での金融活動については、統計を管轄するフランス銀行(フランスの中央銀行、今では欧州中央銀行のフランス支店的存在)などの関連機関に対し、今後別途統計を取るよう指示されています(第12条)。さらに、社会的に責任のある製品を推進したり(第13条:具体的にはフェアトレードや社会的企業の製品など)、民間経済や行政では従来満たされなかった社会的需要に対処したり、画期的な労働組織方法でその需要に対処する企業が社会的イノベーションを行っているとみなされ、公的資金の援助が受けられるようにしたり(第15条)、社会的連帯経済関係者による地域通貨の発行を認めたり(第16条)、回復企業(倒産した企業の元従業員が、その工場など生産手段を買い取って協同組合として自主操業を始めるもの)を認めたり(第18条〜第22条)しています。
この他、協同組合による協同組合発展基金の創設を認めたり(第23条)、フランス政府に対して社会的連帯経済の異なる担い手(協同組合、アソシアシオン、財団、共済組合、そして第2条で掲げられた諸原則を守る諸企業)の間での連合を築くための法整備をフランス政府に促したり(第26条)、アソシアシオンの財政、機能および業務に関する高等評議会を設立したり(第63条)、ボランティア休暇に関する法整備をフランス政府に促したり(第67条)、アソシアシオン発展のための各種基金を発足したり(第68条、第77条、第79条)、フランスの海外県など(ニューカレドニア、仏領ポリネシアやカリブ海諸島など)での特別措置の整備をフランス政府に促したり(第96条)、労働法の一定の規定に合致する企業が「社会的効用連帯企業」の認定を受けたり(第97条)することなどが定められています。
諸外国の法律と比べるとこのフランス法は、半分以上が既存の法律(協同組合法、商法など)の条項改定に割かれていることが大きな特徴で、そのため他国の類似法と比べると非常に長いものになっています(エクアドル法はもっと長いが、これは他国では協同組合法などに相当するものも1つの法律の中に取り込まれているため)。私もフランス法の専門家ではありませんので、フランスではこのような形の立法が一般的なのかどうかはわかりませんが、少なくても社会的連帯経済法の比較という点では、この部分は無視してかまわないと言えるでしょう。
次に注目すべき点としては、中央政府に対する業界団体としての協議会(第5条)のみならず、各地域政府に対する業界団体としての評議会(第6条)の設立もうたわれていることが挙げられます。伝統的に中央集権的だったフランスでも地方分権が少しずつ行われていますが、諸外国法にはない評議会の設置については画期的であると言えます(もっとも、未だ関連法が存在しないブラジルでは、すでにブラジル連帯経済フォーラムに加えて、各州レベルでの連帯経済フォーラムが存在しており、業界団体として各州政府との政策立案などに参加していますが)。また、地域会議について最低でも2年に1回の開催が義務付けられていること(第8条)ことも、社会的連帯経済の各地域における発展において重要な意味を持つものと思われます。
また、社会的に責任のある商品の推進(第13条)も、忘れてはなりません。このような行政の動きを民間側から評価する動きとしてはフェアトレードタウンが挙げられますが、むしろこれは韓国の社会的企業育成法(日本語訳)で定められている、行政による社会的企業の商品購入に近いものと言えるでしょう。
これに加え、社会的イノベーションについて定義を行った上で、社会的連帯経済を組み合わせる条項(第15条)が登場したことも、新しい流れと言えます。社会的イノベーションについては世界各地で話題にのぼることが多いものの、具体的な定義がないためにどうしてもその範疇があいまいになってしまう傾向がありますが、この定義が生まれたことで範囲が明確化し、社会的イノベーションという立場で各種プロジェクトに取り組む企業や研究者なども社会的連帯経済に取り組みやすくなるものと思われます。
最後になりますが、アジア太平洋という観点からすると、この法律は多少なりとも日本と関係が出てくるものになります。フランスの海外県・海外準県および特別共同体のうちニューカレドニア(人口約25万人)や仏領ポリネシア(人口約27万人)、そしてウォリス・フツナ(人口約1万6000人)は太平洋上に位置しており(厳密にはこれ以外にもクリッパートン島があるが、無人島なのでここでは割愛)、特にニューカレドニアは日本からニュージーランドに向かう航路上に位置しています(成田から約9時間、ちなみにニュージーランドの最大都市オークランドまでは約11時間、仏領ポリネシアの中心都市パペーテおよびパリまでは約12時間)。当然ながらこれらの地域はフランス本国の影響を受けて今後社会的連帯経済が盛んになることから、アジア太平洋レベルでの社会的連帯経済のネットワーク構築において、小さいながらも外せない場所になること言えます。ヨーロッパのフランス本土のみならず、ニューカレドニアや仏領ポリネシアと日本などアジア諸国との間での社会的連帯経済面での交流も、今後活性化するかもしれません。
◉フランスの海外県・海外準県および特別共同体
実際には、今後どのようにこの法律が施行され、フランス中央政府のみならず各地域政府や海外領土においてどのように運用されているか未知数の部分も少なくありませんが、今後のフランス各地の動きに目が離せないと言えるでしょう。