臓器狩り──中国・民衆法廷

第6回

日本への呼びかけ

ジェイコヴ・ラヴィー医師──イスラエル

 2018年12月8日の中国・民衆法廷第1回公聴会で証言したラヴィー医師は、臓器収奪問題を世界に認識させる動きの先駆者であり、現在も論文発表などを通して休みなく各方面にはたらきかけている。2018年1月の訪日の際は、多くの種を日本に撒いてもらったと思う。今回のコラムでは、ラヴィー氏の証言に留まらずに訪日に関しても紹介したい。

イスラエル臓器移植法の導入

 ラヴィー医師は、イスラエルのシバ医療センター心臓移植科の主任である。2005年のある日、自分の患者が中国で2週間のうちに心臓移植を受けると言ってきた。2つある腎臓の1つを摘出するわけではなく、事前に日程を決めて心臓を移植するということは、その日に誰かが死ぬことを意味する。どうやって中国では事前に心臓移植を予約できるのだろうか、と調べ始める。当時ラヴィー医師が参考にしたのは、2001年の王国斎Wang Guoqi医師による米国下院の「国際事業と人権に関する小委員会」での証言だった。(参照:『中国・民衆法廷 裁定』Appendix 3, item44 p.13-15)。1990~1995年の期間に人民解放軍附属病院の医師として囚人から臓器と皮膚を摘出したという内容だ。また、ラヴィー医師は、中国での移植手術は1984年にさかのぼり、中国では死刑囚から臓器を摘出して他者に移植することを可能にする法律が制定されていたことも学ぶ。

 2006年10月、調査結果を『イスラエル医師会雑誌』に掲載。当時、イスラエルでは保険会社が患者の渡航移植費を全額支給していた。これでは、おぞましい臓器移植犯罪をイスラエルが倫理的で合法的とみなしていることに等しい、と保険会社による支給を全面禁止するように政府に要請。中国の残忍な行為へのイスラエルによる関与をすべて告発するように呼びかけた。

 そして、2008年3月に新しい『イスラエル臓器移植法』が議会で採択。臓器売買・移植ツーリズムの禁止を採択したイスタンブール宣言(2008年4月30日~5月1日)に先駆けての動きである。移植法導入のイニシアチブをとったのはラヴィー医師だ。ドキュメンタリー『知られざる事実』*の中で自分の動機を次のように語っている。「私の父はナチスの強制収容所から逃れました。父の収容中に行われなかったことを私が行う必要性を感じました。あそこで何が起こっていたかを世界が知っていたら、善良な人の助けにより、歴史が変わっていたかもしれません」。

 新法の導入後、自費で患者が個人的に中国に移植を受けに行くことも可能だったが、イスラエルから中国への渡航移植者は完全に止まった。

* ドキュメンタリー映画『知られざる事実』(上映時間56:23、Swoop Films 2015年)はコロナウイルス禍の期間、本文のリンクから特別に無料配信しています。通常の有料サイトはこちらです。

ラヴィー医師の訪日

 ジェイコヴ・ラヴィー医師は現役の心臓移植医であり、イスラエル国内の移植・医療関連の肩書に加え、イスタンブール宣言評議会員(DICG)、国際移植学会倫理委員会の元委員、強制臓器摘出に反対する医師団(DAFOH)国際顧問委員でもある。これらを単なる肩書に終わらせることなく、臓器収奪停止に向けて精力的に働きかけている。

 ラヴィー医師は、2018年1月20日~25日にかけて、「中国における臓器移植を考える会」(別称SMGネットワーク – Stop Medical Genocideの頭文字)の発足式を支援するために、人権弁護士のデービッド・マタス氏と元カナダの国務大臣デービッド・キルガー氏と共に訪日している。5日間の滞在後、「三人の意見記事」(邦訳)を日本に残してくれた。

日本からの渡航移植

 日本から中国への渡航移植に関しては、2005年、厚生労働科学研究費補助金の特別研究事業として日本移植学会の各分野の権威の移植医が「渡航移植者の実情と術後の状況に関する調査研究」(2006年3月に発表)を行っている。国内の病院を対象としたアンケート調査を通して渡航移植患者の実態を調査したもので、日本国民に渡航移植に伴う危険性を警告し、日本国民を守っていく上で欠かせない調査だ。しかしそれ以来、同様の公的な調査は行われていない。なぜ定期的な調査が行われないのか腑に落ちない。

 ラヴィー医師の来日時点では、日本から中国への渡航移植問題の実態を証明できた唯一の新聞公表は、診療拒否をされた中国からの渡航患者が浜松医大を訴えていることだった(2018年12月に地方裁、2019年5月に東京高等裁判所で、患者は敗訴)。この訴訟を通して渡航移植にかかる費用などが公的に記録されることとなり、少なくとも「日本からの渡航患者なんていないでしょ」という無責任なコメントは誰も出せなくなった。

 訪日後、ラヴィー医師は、日本から中国への渡航移植者の数さえも明確に把握されていない状況を憂い、同年6月30日にマドリードで開かれたイスタンブール宣言評議会で、日本の渡航移植問題を提起した。ラヴィー医師の提起を受けて、当時の評議会の共同議長エルミ・ミュラー氏が日本移植学会理事長から「このような問題に関する知識は一切知らない」との回答があったと伝えている(『医薬経済』2018年7月15日号の記事に高橋幸春氏が詳細を記載)。

 ラヴィー医師が滞日中に厚労省の担当者と面会した際も「中国に関しては一切知りません」という回答だった。中国への渡航移植に対する公な取り組みがないために、切羽詰まった善良な患者が闇の犯罪に関わってしまう。中国やアジア諸国からの渡航移植者は日本では犯罪者扱いされてしまうので、手術が失敗に終わっても誰にも訴えられない。泣き寝入りしている日本人の家族がどれだけいるのだろうか。

「人狩り」上映会・意見交換会で語るジェイコヴ・ラヴィー医師(右)、デービッド・マタス氏(中)、デービッド・キルガー氏(左)。逗子文化プラザホールにて(2018年1月21日)「人狩り」上映会・意見交換会で語るジェイコヴ・ラヴィー医師(右)、デービッド・マタス氏(中)、デービッド・キルガー氏(左)。逗子文化プラザホールにて(2018年1月21日)

杉原千畝の墓参り

 上記三人は、2018年の訪日中に、鎌倉市議会の中沢克之・元議長のはからいで、杉原千畝ちうねの墓参りをしている。この前年6月に、逗子市議会の丸山治章・現議長がユダヤ系カナダ人であるデービッド・マタス弁護士を上映会に招いた際に、中沢氏から千畝の墓が鎌倉にあることを知らされ、心を打たれたマタス弁護士は逗子でのスピーチで、即興で千畝に触れている。

 以下、このスピーチ内でのマタス氏による千畝の説明だ。「杉原千畝は第二次世界大戦中、リトアニアのカウナスで日本総領事を務めていたが、ソ連がリトアニアを侵略し、全ての大使館の国外撤去を指示。オランダ政府はカウナスのユダヤ人難民に対し、キュラソー島とオランダ領ギアナ(現在のスリナム)への亡命許可を認めていた。そこに向かうにはソ連と日本を通過しなければならなかった。ソ連は認めたが、日本政府は杉原の要請を幾度も拒み続けた。リトアニアから退去するまでに残された数日間、杉原は目覚めている時間全てを日本へのビザの発行に費やし、6000人がホロコーストから逃れることができた。杉原はこの行為のため、戦後、外務省を退官させられ、外交官としての道は閉ざされる。杉原は最終的に神奈川県の藤沢市に落ち着き、1985年、イスラエルの『ヤド・ヴァシェム賞』を受け、翌年、鎌倉で永眠」。マタス氏は千畝を人道の手本、日本の手本として讃え、杉原千畝および鎌倉*の手本が日本国全体に広がることを願うと締めくくっている。(*鎌倉市議会は「中国政府に対して人権状況の改善を促し、日本政府と国会に対して必要な外交措置や人道的措置等を求める意見書」を2016年6月29日に提出している)。

鎌倉霊園の杉原千畝のお墓の前でスピーチするラヴィー医師(左)とマタス弁護士(右)(2018年1月21日)鎌倉霊園の杉原千畝のお墓の前でスピーチするラヴィー医師(左)とマタス弁護士(右)(2018年1月21日)

 そして奇遇なことに、ラヴィー医師の義父がリトアニアのカウナス出身であり、ナチス占領前に義父だけは戦前に国外に出て生き延びたが、家族は皆ナチス・ドイツの手に落ちてしまったという。家族を弔う意味でも、ラヴィー医師にとって重要な墓参りとなった。以下、千畝の墓の前で日本人に呼びかけるラヴィー医師の言葉だ。

 慈悲の心を他の人に向けることの大切さを日本の人々と分かちあうために、ここに集いました。自国民だけでなく他国民に対しても慈悲の心を抱いてください。世界の移植ツーリズムのための臓器摘出で犠牲となっている、日本から遠くない国の同胞に慈悲の心を抱いていただこうと、三人で訪問しています。遺憾なことに移植ツーリズムには日本からも参加があります。

 今回の訪日が杉原千畝氏を讃えることから始まることは実に象徴的です。彼が多くの生命を救ったように、今回の訪日から多くの生命が救われることを願います。

参照:
◎ジェイコヴ・ラヴィー医師(証言者番号31)報告書『中国の死刑囚の臓器利用がイスラエルの新移植法に与える影響』(『国家による臓器狩り』第8章に掲載)(邦訳)
◎口頭証言のまとめ(邦訳)
◎口頭証言の録画(日本語字幕付き)
◎「中国・民衆法廷 裁定」(英語原文)
◎公式英文サイト:ChinaTribunal
コラムニスト
鶴田ゆかり
鶴田ゆかり
フリーランス・ライター。1960年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学 環境学学士取得。1986年より英和翻訳業。(1998~2008年英国通訳者翻訳者協会(ITI)正会員)。2015年秋より中国での臓器移植濫用問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016年秋よりETAC(End Transplant Abuse in China:中国での臓器移植濫用停止)国際ネットワークに加わり、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。
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