臓器狩り──中国・民衆法廷

第19回

国家犯罪を示す電話録音

 おとりの電話調査も証拠に含まれています。一部は、衛生大臣より上のランクの者も含む、中国政府の最高レベルの人物との会話です。臓器収奪に最高権力が関わっていることを示しています。多くの電話では、ヒトの臓器がオンデマンドで入手できることを示しています。この意味を考えると背筋が寒くなります。

ノースオーバー女史(元国際開発省政務次官)
2020年10月28日 貴族院での『医薬品と医療機器に関する法』修正案の委員会審議で

貴族院議会で民衆法廷の裁定を読み上げるノースオーバー女史(2020年10月24日の香港に関する討議で)貴族院議会で民衆法廷の裁定を読み上げるノースオーバー女史(2020年10月24日の香港に関する討議で)

 英国貴族院での法の修正案の討議(参照:連載コラム第17回)では、中国の臓器収奪の証拠の1つとして電話調査も挙げられた。調査員が患者や家族、政府高官を装った電話調査は、様々な側面を実証している。医師、医療機関が、健康で新鮮な臓器を確約しているだけでなく、政府の「最高権力」の関わりも示されている。

汪志遠医師の調査

 汪志遠医師(証言者番号30&42)が率いるWOIPFG(法輪功への迫害を追跡調査する国際組織)は、2006年以来、地道に広域にわたる臓器収奪問題に関する調査を重ねてきた。その調査内容は実に膨大だ(英語サイト)。汪医師の講義を録画した『臓器移植 動かぬ証拠』(日本語吹き替え版)/1時間34分/2016年)では、中国での臓器収奪の実例が詳細に取り上げられ、医学論文の分析(参照:連載コラム第16回)だけでなく、電話調査、王立軍の研究開発(参照:連載コラム第14回)などの内容が、実に包括的に提示されている。WOIPFGは、証拠の焦点に電話調査を絞ったドキュメンタリー『臓器狩り 十年の調査』(日本語字幕版/1時間/2017年)も制作している。

 『中国・民衆法廷 – 裁定』(以下、『裁定』)では、間接証拠として、WOIPFGが提出した電話録音について1項目割かれている。2006年3月より14年近く調査しており、録音された電話の数は2000件以上に及ぶ。調査対象は、中央政治局常務委員会のメンバー、610弁公室(法輪功迫害のために設置された機関)、警察、軍病院、医師、病院スタッフ、移植ブローカーなどに及んでいる(『裁定』311段落より)。調査は今も続いており、民衆法廷の聴取後に行われた電話調査の一部(英訳版)が、英語版ETACサイトの Most Recent Evidence に掲載されている。

通達に従った行動

 電話調査は中国の医師・病院から始まったが、医師たちが、臓器は刑務所や裁判所、610弁公室、政法委員会、軍隊からもらったと証言していたため、WOIPFGは共産党高官の秘書や国家安全局、中央紀律検査委員会の職員と名乗って調査を行った。中国共産党の幹部を対象とした調査は、『十年の調査』の35分28秒から収録されている。

臓器狩り 十年の調査(35分28秒から49分30秒までが政府関連を対象とした調査)臓器狩り 十年の調査(35分28秒から49分30秒までが政府関連を対象とした調査)
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 『裁定』では28本の電話録音が年代順に要約されているが、ここではそのうちの1本をWOIPFGの「民衆法廷」への提出書類 “The Final Harvest” Chapter 2 “A State Crime”1.1から紹介する。

 2014年9月30日に、WOIPFGの調査者が、人民解放軍の総合後勤部(後方の勤務つまり「兵站」を一元管理する機関)の衛生部長をかつて務めた白書忠に電話を入れた。(『10年調査』43:07から)

調査者:あなたが総合後勤部衛生部長を務めていた時、法輪功学習者の臓器を摘出して移植手術に使うことは当時の総合後勤部・王克部長の命令だったのですか? それとも軍事委員会が直接下した命令だったのですか?
白書忠:当時は江主席が下した命令です。当時1つの通達があって、通達の内容はつまり、そのことを展開するという通達です。臓器移植のことです。その後、江主席は、聞くところによると、通達を出しました。つまり腎臓を売ったり手術をしたりするなど。腎臓移植を展開したのは軍だけではありません。
調査者:情報を得たのですが、当時、連合後勤部では数多くの法輪功を、臓器ドナーとして拘束した。そうですか?
白書忠:当時のことですね。少なくともこのように覚えています。江主席が通達を出した後、法輪功の人々に対して多くのことをしました。
調査者:あなた方(人民解放軍の総合後勤部)と連合後勤部第1分部と第2分部(第40分部も含む)が、軍病院の担当でしたね。彼らを直接監視する立場にありましたか?
白書忠:軍病院は我々が直接管理しました。総合後勤部の直属だからです。何度も注文がありました。当時、江はこのことに非常に注意を払い、とても重視していましたから。
調査者:誰がこの問題をとても重視していたのですか?
白書忠:江です。当時、在位していましたから。この問題に多大な注意を払っていました。書面による通達がありました。
調査者:1998年から2004年にかけて…
白書忠:そうです。1998年から2004年にかけて私は総合後勤部衛生部長でした。
調査者:分かりました。これで終わりにしましょう。
白書忠:今後何かありましたら、私に尋ねてください。問題ありません。
調査者:分かりました。ありがとうございました。失礼します。
白書忠:失礼します。

電話録音の信憑性 – 民衆法廷の結論

 この電話録音に関しては、「中国・民衆法廷」は、(a)英訳の確認、(b)内容の確認(Translation tested.)、(c)音声の確認の三段階の検証を行っている。

 電話調査全般に対して「中国・民衆法廷」は、身元を偽って電話を入れる際に、相手は本当のことを話すだろうか、質問が誘導的ではないだろうか(段落328&329)などの留意点を挙げている。しかし、中華人民共和国または中国共産党の高官による答えは、国家権力の歯車としての行為のため、彼ら自身が何も咎められないと感じていることが反映されていることを指摘している(段落329d)。結論としては、これらの電話は偽造ではなく実際にかけられたものであり、これらの録音は裁定においてかなりのウエイトを占め(段落338)、国家機関で働く者が語った言葉から、強制臓器収奪は中華人民共和国が担ったものであると確信し、これらの録音の正確性を疑う理由はないとしている(段落341)。

目撃者の告白

 WOIPFGの電話調査を取り上げたこのコラムでは、『中国・民衆法廷 – 裁定』で直接証拠として位置付けている2002年4月の出来事についても言及したい(参照:連載コラム第12回/直接証拠の年代リスト)。第1回公聴会でも法廷顧問が読み上げている。

 心臓摘出手術に立ち会った若い護衛が、WOIPFGに法輪功学習者からの麻酔なしでの心臓摘出を目撃したという衝撃的な電話録音である。2009年にWOIPFGが受けたこの告白の実録は、『十年の調査』(日本語字幕付き)の29分30秒から始まる「悪夢のような経験 – 目撃者インタビュー」のセクション(6分間)に収録されている。かなりショッキングな内容なのでこちらに書き出すことは控える。ドキュメンタリー映画『人狩り 中国の違法臓器売買』(2016年/51分/アジアン・ドキュメンタリーズ配信)で引用され、カナダのミス・ユニバースだったアナスタシア・リン主演の映画『血の刃(やいば)』(2020年/1時間28分/有料Vimeoサイト)はこの電話録音をもとに制作されている。

 『十年の調査』によると、全体の録音はもっと長いが、自分が亡くなってから全てを公開するように通報者本人に言われているため、現在は一部のみを公開しているという。

最近の報道

 この事例は、頻繁に行われていたことの一例に過ぎないことを示す別の証言が、2020年12月29日にWOIPFGによって明るみにされた。
 上海出身で米国カリフォルニア州在住の陸樹恒氏が、2016年10月2日、汪志遠医師と通話した内容が、関係者の安全を考慮して4年後に発表された。

 2002年に上海に戻った際に、兄嫁の実姉・周清氏(上海宛平医院院長)とその夫・毛叔平氏(上海労働教養所の元副局長、司法局副局長、江沢民の甥で当時の上海市政法委員会の書記・呉志明と密接な関係にあった)に、アメリカの臓器移植希望者を紹介してもらえないかと尋ねられた。その後、陸氏は、毛氏や兄嫁から、周氏の体験を徐々に聞いた。麻酔されていない新鮮な臓器を得るために、臓器の部位には麻酔薬を投与せずに摘出する。数回施術したが、周氏は恐ろしくて続けられなくなった。

 英語の紙面報道では、十数名の法輪功学習者が上海の自宅で警官から無理やりに採血されている内容の2020年9月の記事のリンクを紹介して、このニュースを締めくくっている。

 人類がこの犯罪に立ち向かわなければ、人類の文明は壊滅的な打撃を受けるのです……中国共産党が犯した反人類の罪を前にして、我々は何をなすべきでしょうか?自分の家族や友人、出会った多くの人々に、法輪功学習者の臓器が、生きたまま摘出されているという事実を伝えることができます。世界中の人々に真相を伝え、全人類が力を合わせて、中国共産党の犯行を制止するのです。

汪志遠医師
映像『臓器移植 – 動かぬ証拠』の締めくくり

 

参考リンク
◎汪志遠(証言者番号30)2018年12月8日 公聴会映像(日本語字幕入り
◎汪志遠(証言者番号30)2018年12月8日 提出文書(英語
 この他にも18の補足文書あり(公式サイトの Submissions からダウンロード可)
◎汪志遠(証言者番号42)2019年4月6日 公聴会映像(英語通訳版
◎汪志遠(証言者番号42)2019年4月6日 提出文書
 Final Harvest(英語) Southwest(英語と中国語)
(公式サイトのSubmissions -> 3.Additional submissions and documents received からダウンロード可)
◎『臓器移植 動かぬ証拠』(日本語吹き替え版/1時間34分/2016年)
◎『臓器狩り 十年の調査』(日本語字幕版/1時間/2017年)

「最近の報道」セクションの関連サイト(閲覧注意)
◎ WOIPFG 中国語サイト 2020年12月29日
◎ NTD 日本語動画報道 2021年2月13日(全4分30秒)
◎ The Epoch Times 英語紙面報道 2021年2月18日

公式サイト
◎『中国・民衆法廷』邦訳サイトマップ
◎公式英文サイト ChinaTribunal
◎『中国・民衆法廷 裁定』(英語原文

コラムニスト
鶴田ゆかり
フリーランス・ライター。1960年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学 環境学学士取得。1986年より英和翻訳業。(1998~2008年英国通訳者翻訳者協会(ITI)正会員)。2015年秋より中国での臓器移植濫用問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016年秋よりETAC(End Transplant Abuse in China:中国での臓器移植濫用停止)国際ネットワークに加わり、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。
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