廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第34回

知的所有権・著作物関連の動き

 さて、今回は知的著作権や著作物の分野で、社会的連帯経済の精神と調和した形で起きている動きについてご紹介したいと思います。実際には、社会的連帯経済の運動とは関係ない形でそれぞれの実践者は各運動を進めていますが、社会的連帯経済の思想と親和性が高いため、以下いくつか注目してゆきたいと思います。

 まずは、フリーソフト(オープンソースと呼ばれることもある)について考えたいと思います。今や誰もがパソコンやスマートフォンを所有し使いこなす時代になりましたが、これらデバイスを活用するためにはソフトウェアが必要なことは言うまでもありません。しかし、たとえばOS(オペレーティング・システムあるいは「基本ソフト」)についてはマイクロソフト社のウインドウズがほぼ独占しており、パソコンを買うたびにこのOSの使用料金を支払わなければなりません(パソコン本体の価格に含まれているので、このことに気づかない人も多いですが)。ウインドウズに次ぐシェアを占めるのはアップル社のマッキントッシュで、一部に熱烈な支持層を抱えていますが、それでも民間企業がOSのライセンス付与を通じて世界中のパソコンユーザから莫大な使用料を徴収している事実には変わりありません。また、その改良や更新についてはマイクロソフトやアップルが独占的に行なっており、部外者が参加することはできません。

 このような状況を変えたのが、フリーソフトです。ご存知の通り、英語のフリー(free)という単語には「無料」と「自由」という2つの意味がありますが、以下に示すフリーソフトウェア財団による定義では、「自由」に主軸が置かれているものの、「無料」についても配慮されています。

  • いかなる目的に対しても、プログラムを実行する自由(第零の自由)。
  • プログラムがどのように動作しているか研究し、必要に応じて改造する自由(第一の自由)。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。
  • 身近な人を助けられるよう、コピーを再配布する自由(第二の自由)。
  • 改変した版を他に配布する自由(第三の自由)。これにより、変更がコミュニティ全体にとって利益となる機会を提供できます。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。

 第零の自由は、プログラムの実施においていかなる制約も課されないことを意味していますが、これには当然ながら、そのプログラムの実施においていかなる対価の支払いも必要としないことも含まれており、その意味で「無料」の部分もカバーされています。また、単にプログラムを改造するだけではなく、その改造プログラムを公開してさらに別の人に使ってもらえるようにする自由も含まれています。これにより、特定の権利者の利害に左右されない形で、不特定多数のプログラマの手でソフトウェアの改良が進んでゆくわけです。

 このようなフリーソフトとして有名なものは、OSとしてのリナックスやそれを改良した Ubuntu が挙げられます。また、文書作成や表計算ソフト、そしてプレゼンテーションソフトというと、マイクロソフト社のオフィス(ワード、エクセルおよびパワーポイント)が有名ですが、この分野でもオープンオフィス(Writer、Calc、Impress)が同様の機能を提供しており、マイクロソフト社にライセンス料を払わなくても同等のソフトウェアを使うことができるようになっています。

リナックスのマスコットキャラクターのペンギン

◀リナックスのマスコットキャラクターのペンギン

 次に、青空文庫について紹介したいと思います。日本では現在、著作権の保護期間は著者の死後50年(正確には著者の死後50年が経過した年の12月31日まで。たとえば、1970年11月22日に死去した三島由紀夫の著作権は2020年12月31日まで有効。なお、訳書の場合には翻訳にも著作権が発生するため、原作者と翻訳者の両方の死去50年を待たないと公開できない)ですが、この保護期間が終了すると著作権が消滅し、誰でもその作品を無料で使用することができます。このため、著作権がすでに切れた作家の作品をボランティアの手で入力・公開し、パソコン上で無料に読めるようにしようというのがこの青空文庫の思想です。2014年現在においては、1963年までに亡くなった作家の作品が著作権フリーになっていますが、これにより夏目漱石(1916年没)や森鴎外(1922年没)、芥川龍之介(1927年没)、宮沢賢治(1933年没)や太宰治(1948年没)など数多くの作家の作品が無料で公開されています。欧米では同様のプロジェクトとしてプロジェクト・グーテンベルクが有名で、これにより多くの古典が自宅から無料でアクセスできるようになっています。

 パソコンやインターネットといった情報インフラのない時代は、作家の著作権が切れても本という形でその作品を買うしかなく、本を発行するには印刷や製本、そして流通などの手間がかかるため、それにふさわしい対価を払う必要がありました。しかしインターネットが普及し、誰でも無料でウェブサイトにアクセスできるのが当たり前になった現在、著作権切れの作家の作品も無料で閲覧できるようにすることはパブリック・ドメインの精神からしてむしろ適切なことだと言えます。

 次に、クリエイティブ・コモンズにご紹介したいと思います。これは、著作物(文章、写真、イラストなど)の二次使用を著作権者が許可する運動で、これによりさらなる創作活動を促進することになります。とはいっても著作権者としては一部の権利を留保したいと考えることもあることから、著作権者は以下の6パターンのうちどれかを選択して、それに合ったマークを著作物の中に含めることになります。

license CC

 ご覧の通り、左上ほど著作物の自由な二次使用が認められることになります。なお、全ての図に共通しているBYは著作権表示であり、これさえも放棄した場合には完全にパブリック・ドメインになることになります。

 最後に、オープンソースエコロジー(英語)というサイトをご紹介したいと思います。このサイトでは、前述したオープンソースのアイデアを普通の科学技術に応用し、さまざまな製品の作り方を紹介しています。特許料がかからないことから非常に安く機械を生産することが可能で、3Dプリンタの場合は通常4449ドルかかるところを1765ドルで、ブルドーザーの場合は13万7772ドルのところを2万3061ドルで、オープンソースカーの場合は2万3000ドルのところを1万1061ドルで、そして風力タービンの場合には16万2397ドルのところを9061ドルで、という形で、格安で作ることができます。なお、前回お届けしたカタルーニャ総合協同組合でも、このオープンソースエコロジーを活用しています。

 フリーソフト、青空文庫、クリエイティブコモンズ、そしてオープンソースエコロジーはそれぞれ別の運動ですが、これらは全て知的創造物の私的独占所有およびそれを通じた資本主義的利益の最大化を拒否し、あくまでも公共の利益のためにこれらのものを再利用するという点で共通しています。フリーソフトの場合、資本主義企業の利益追求活動とは無縁の形で一般市民の便宜に供するソフトウェアが開発されるますが、これは単にソフトウェアのライセンス使用料を節約するのではなく、資本主義企業の、資本主義企業による、資本主義企業のためのソフトウェア開発という枠組みに対する有効なオルターナティブとして機能しているためです。青空文庫は特に非資本主義的な運動ではありませんが、すでにパブリック・ドメインになったものを無料で読めるようにしようという動きであり、その精神を最大に活かしたものだと言えます。クリエイティブコモンズは、著作権者が一定範囲内で権利を放棄することで二次使用を促し、新しい創造活動を推進することができます。そしてオープンソースエコロジーでは、特許や実用新案などの産業所有権と無縁な形で技術を提供することにより、この技術を必要とする人たちが安価に各種機械を自分たちで作れるようにすることができるのです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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