臓器狩り──中国・民衆法廷

第11回

DNA検査と臓器移植

ミタリポヴァ博士の証言

 中国新疆自治区のウイグル人、カザフ人、その他のイスラム教徒の全人民に対して、2016年から現在に至るまで、強制的に健康診断が行われ、血液サンプルが採取されていることが、信頼できる情報源から把握されている。健康診断は、新疆の漢民族に対してではなく、イスラム教徒に対してのみ実施されている。

 米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のホワイトヘッド生物医学リサーチ・インスティチュートのヒト幹細胞研究所所長マヤ・ミタリポヴァ博士が中国・民衆法廷に提出した文書の書き出しだ。

 今回のコラムでは、ウイグルで行われた身体検査、ミタリポヴァ博士が指摘するウイグル人からのDNAサンプルの採取と臓器移植との直接的な関連性、民衆法廷での捉え方を紹介したい。

ウイグルでの「人口登記プログラム」

 新疆ウイグル自治区では、12歳から65歳の全ての居住者を対象に、DNAサンプル、指紋、瞳のスキャン、血液の採取が行われた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2017年12月13日付けの記事『中国:少数民族地域で数百万人からDNAを収集』(英語原文)で報道している。以前はパスポート申請時のみに自分の身体特徴データ(指紋など)を提出するだけだったが、2016年から「年度体検」(Physicals for All)と呼ばれる毎年無料で受けられる身体検査が導入され、2017年からはDNAと血液が採取されるようになった。

 同年5月19日付のラジオ・フリー・アジアの記事『医療検査とDNA採取を強制されるウイグル人たち』(英語原文)では、この身体検査が段階的に導入され、年齢別に区分され、ECG、レントゲン、超音波を使って、心臓、血液、DNA、尿、血糖値が検査されたと、さらに詳しい。名目上は自主的に受ける身体検査だが、実質的には強制である。検査結果はその場でコンピュータに入力されていく。職場や学校を通して、全員が検査を受けさせられる。民族、宗教を明示する。検査結果が本人に知らされることはなかった。

 臓器移植とは別の話になるが、カシュガルのある農民は、女性に的を絞って検査していたことをいぶかしがっていた。この2017年の農民の疑問を裏付けるかのように、2020年7月15日に発行されたジェームズタウン基金の研究文書『不妊手術、IUD、強制的な出生予防:中共による新疆ウイグル人の出生率抑制運動』(英語原文)では、2017年から2019年にかけてウイグル人に向けての極度のバースコントロール政策が実施されたことが報告されている。

 上記のヒューマン・ライツ・ウォッチの記事によると、このバイオデータ収集の手順は「全新疆自治区に対する正確な登記と人口の実証に関するガイドライン」(人口登記プログラム)で詳細に定められており、2017年2月に新疆政府が認定。新疆全体の「年度体検」は7月に始まり10月に終わった。新華社は2017年11月1日付の記事で、1880万人が「年度体検」プログラムに参加したと発表した。

 ヒューマンライツ・ウォッチの中国担当取締役ソフィー・リチャードソン氏は「DNAを含む全人口のバイオデータを義務的に構築することは、国際的な人権の常識に大いに違反する。無料のヘルスケア・プログラムの名目で密かに行われていることは、さらに不穏だ」と語っている。

新疆ウイグル自治区バインゴリン・モンゴル自治州バグラシュ県の村で、少数民族に無料身体検査を施すXPCC 第2部隊の家族計画事務所・業務部門のメンバー。(Source: China News 2017年5月17日)(Jamestown基金の研究記事より転載)新疆ウイグル自治区バインゴリン・モンゴル自治州バグラシュ県の村で、少数民族に無料身体検査を施すXPCC 第2部隊の家族計画事務所・業務部門のメンバー。(Source: China News 2017年5月17日)(Jamestown基金の研究記事より転載)

 中共によるDNAの収集に関しては、2017年5月15日付のヒューマンライツ・ウォッチの記事『中国:プライバシーを脅かす治安当局のDNAデータベース』(英語原文)では、2000年代初頭に公安局がDNAのデータベースを構築し始め、2015年には中国政府が世界最大とする、多方面にわたる4400万のデータ項目を収集したと報じている。中国の刑事訴訟法130条では刑事捜査の過程においての生体試料の採取を定めているが、採取の異議に関しては法的なガイドラインはない。前述のヒューマンライツ・ウォッチのリチャードソン氏は、プライバシー保護や独立した司法制度のない中国で、警官がDNAを大量に収集することは濫用につながるとし、中国が全体主義的な統治を遺伝子レベルに移行させていることを強く警告している。

大量のデータを必要とする第二世代のDNA配列決定の技術

 新華社報道による1880万人の身体情報は、何に用いられるのだろう? DNA情報の一つの用途が臓器移植と直接関係する、とミタリポヴァ博士は証言する。以下に、ミタリポヴァ博士の証言をまとめる。

 移植手術では、ドナーとレシピエントの間に遺伝的相違が存在すると、拒絶反応が生じる可能性がある。従来、この遺伝的相違による拒絶反応の主な要因は、HLA(ヒト白血球抗原)にあると考えられてきた。HLAとは白血球の血液型とされ、白血球だけでなく、ほぼ全ての細胞と体液に分布する。免疫に関わる重要な分子として作用している。臓器移植では、自分のHLA型と合わないものは全て異物と認識され、レシピエントの体内で攻撃が始まる。こうした拒絶反応を予防するために、HLAの適合性が重視されている。

 しかし、HLAが適合する兄弟移植でも、拒絶反応はある程度発生している。最近の研究では、非HLA多型が移植の結果に影響する可能性が示された。この分野ではこれまで系統的な研究は行われてこなかったが、下記のような第二世代のDNA配列決定(シークエンシング)技術により、ヒトゲノム全域の組織不和合性の原因を広範囲に特定することができるようになった。これらの技術は、拒絶反応、免疫抑制剤の有効性に影響を及ぼし、深刻な有害状況を引き起こしかねない特定の遺伝的危険因子を明らかにする潜在性を持つ。

第二世代のシークエンシング技術の例:

  • ゲノミクスにおける最近の技術的進歩:例)ゲノムワイド関連解析(GWAS)
    ヒトゲノム全体の数十万から数百万の一塩基多型(SNP)やコピー数多型(CNV)を迅速かつ効率的に解析することが可能。
  • 全エクソーム(コード領域)/全ゲノムシークエンシング(ヒトゲノム全域)
    臨床診断の分野で汎用ツールとして急速に普及。

 このようなDNAシークエンシングを行うには、10万人のサンプルが必要であり、登録ドナー数だけでは足りない。このため、中国ではウイグルのイスラム教徒を対象にシークエンシングを行なった。このDNAシークエンシングは安価ではない。臓器移植からのかなりの見返りが見込めるから、まとまった人口集団を対象にDNAサンプルを取り出しているのだろう、とミタリポヴァ博士は、口頭証言で結論付けている。

 なお、ウイグルの拘束と臓器収奪の関連性に関しては、「ハラール臓器」という概念がある。「ハラールフード」とは、イスラムの戒律で食べて良いものを指す。イスラム教ではアルコールと豚肉を食さない。富裕なアラブ人は同じイスラム教徒で豚肉を食べずに飲酒もしないウイグル人の臓器を好むと言われている。(日本語関連記事:Newsポストセブン 2019年9月15日 2ページめで言及)

『中国・民衆法廷──裁定』の記述

 さて、民衆法廷では、このDNAサンプルの採取をどのように判断しているのだろうか。2020年3月に文書により発表された完全版の裁定では、「法輪功学習者とウイグル人に対する医療検査の証拠」のセクションでDNA検査に言及している。

さらに、HLA型タイピングから様々な複雑なゲノム配列決定まで、様々な検査を網羅するDNA検査のもたらす可能性として次のように説明できる。◎従来の血清型の判定でなく、HLAをコードするDNAの検査による組織型決定。◎身元確認および親族関係確認を目的とするDNAバンクの設置[秘密保持]。◎極めて大規模な集団のゲノム・プロファイリング・マップを入手することにより事業展開(potential business development)が可能となり、医薬品、治療法の研究開発を可能にするだけでなく、効率的な遺伝子型決定の開発を加速させる力となる。これらの説明を裏付ける証拠は、中華人民共和国はこれまで一切示していない。しかし、根底に事実としてあれば、証明することは難しくはないだろう。(p.65 第213段落)

 直接証拠には欠けるので、民衆法廷ではDNA情報がドナーとレシピエントの適合に用いられていることを断定してはいない。しかし、まとまった数のDNA情報が医療界、製薬業界にもたらす新たなビジネスの可能性は明示している。

 なお、中国によるウイグル弾圧問題に対しては、ジェフリー卿を議長とする民衆法廷が、世界ウイグル会議(World Uyghur Congress)の要請で、来年、数日にわたる公聴会を含む民衆法廷が開催される予定だ。只今準備中という記事が2020年9月3日にAP通信から「ウイグルジェノサイド疑惑を探る英国の公共の法廷」(英語原文) として発表された。2021年末までにはウイグルに関する民衆法廷の裁定が下されるということだ。

香港も?…

 2020年8月3日付の産経新聞によると、香港市民にPCR検査が無料で行われており、中国政府は全市民の検査を望んでいる。7月には国安法違反の疑いで逮捕された市民から香港警察がDNAを採取していることへの懸念の声が上がっており、香港の民主派は、今回の検査でDNAサンプルが中国に収集されることを懸念する市民が少なくないと指摘している。

 どれほど人間が機械化、部品化、デジタル化されても、個々の人間性、仏性、精神性は消えてなくなることはない。法輪功の迫害に対して「なぜあきらめないのだろう?」そして香港の民主デモに関して「おとなしくしていればいいのに」と思われる方もいると思う。中国から逃れた事実証言者たちは、精神性を守り抜き、勇気を振り絞って公の場に出た人々である。彼らの人間性に共感する人々が公の場で支援している。人間性という灯が消えてなくなることのないように…

参考資料 
◎ミタリポヴァ博士 (証言者番号46)提出文書(邦訳
◎ミタリポヴァ博士 口頭証言の録画(日本語字幕付き
◎『中国・民衆法廷 裁定』(英語原文
公式英文サイト ChinaTribunal
コラムニスト
鶴田ゆかり
フリーランス・ライター。1960年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学 環境学学士取得。1986年より英和翻訳業。(1998~2008年英国通訳者翻訳者協会(ITI)正会員)。2015年秋より中国での臓器移植濫用問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016年秋よりETAC(End Transplant Abuse in China:中国での臓器移植濫用停止)国際ネットワークに加わり、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。
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