臓器狩り──中国・民衆法廷

第1回

「中国・民衆法廷」の概要

 「本法廷の判事団は全員一致をもって、合理的な疑いを超えて、中国でかなりの期間、極めて多くの犠牲者に対して、良⼼の囚⼈からの強制臓器収奪が行われてきたことを確信する」

──『中国・民衆法廷 中間裁定』

 ウイグル人の拘束、香港のデモ、ウイルス感染…。いったい中国で何が起こっているのか? 2020年3月に完全報告書として発表された『中国・民衆法廷 裁定』には、我々の生息する地球では「極端に邪悪なものが一時的に権力を握る」(勧告と最終的な所見 161ページ、セクション498)と明記されている。この法廷での証言や関連論文を通して得られた事実を考察することで、臓器収奪の側面から中国共産党政権の現状を理性的に把握していきたい。

 『中国・民衆法廷 裁定』の英語原文はこちら から閲覧・ダウンロードできる。連載1回めでは、この民衆法廷の設定について、そして国際社会への影響を紹介したい。

「中国・民衆法廷 裁定」とは?

「中国での良心の囚人からの強制臓器収奪に関する民衆法廷」(略して「中国・民衆法廷」)の発足は、オーストラリアに本部を置く人権擁護の慈善団体ETAC(中国での臓器移植濫用停止 ETAC国際ネットワーク)による委託を発端とする。

 中国での臓器収奪に関しては、これまで世界各地で様々な調査報告が行われてきたが、それを一堂に集め、世界で初めて独立した法的分析が行われた。強制臓器収奪に従事した可能性のある中華人民共和国政府、あるいは中国の個人・機関・高官・非公式機関が、(あるとしたら)どの犯罪に該当するかを判定すること(『中国・民衆法廷 裁定』 12ページ、セクション15)を目的とした。被告や原告を立てるものではなく、証拠から裁定を下す性質のものだった。

 強制臓器収奪(Organ Harvesting 臓器狩り)とは「臓器を摘出し別の人間に移植する目的で、合意なく個人を殺害すること」(『中国・民衆法廷 裁定』 9ページ、セクション2)と定義された。また、良心の囚人(Prisoners of Conscious)は「迫害の対象となるグループに属するだけで収監・拘束される者すべて」(同上11ページ、セクション10)と幅を広げて解釈され、信念を特に主張しているわけではなく、ウイグル人であるだけで迫害を受けている人々も調査対象となった。

 約6ヶ月間の水面下での準備期間を経たあと、2018年10月に「中国・民衆法廷」の発足が発表された。同年12月と翌2019年4月に公聴会が開かれ、計52名の証言者(事実証言者29名、調査者・専門家23名)が出廷。2019年6月17日には最終裁定の発表として60ページの「裁定の要約」が読み上げられた。

 2020年3月1日に完全報告書として発表された『中国・民衆法廷 裁定』は、本文161ページ、499段落に加え、各証言者が事前に提出した陳述書、公聴会での供述の要約、判事団全員が事前に目を通した500ページにわたる資料、その他裁定に用いられた提出資料全てのリンクが付記され、全562ページに及ぶ。

動画:『中国・民衆法廷 最終裁定』ETAC制作 映像(9分)

判事団と法廷顧問

 判事団の議長には、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で元セルビア大統領スロボダン・ミロシェヴィッチの検察チームを率いたジェフリー・ナイス卿が就き、この問題についてこれまで知識のない者、関わったことのない者が判事団となった。「中国・民衆法廷」の判事団は、米国、英国、マレーシア、イランにわたり、国際人権法、移植医療、国際関係、中国史、ビジネスの専門家から構成された。

 また、法廷顧問はハミッド・サビ氏が務めた。1980年代のイラン・イスラム共和国による政治犯の大虐殺を調査する独立民衆裁判において顧問と報告担当官を経験している。「中国・民衆法廷」では、証拠受け取りの窓口となり、判事団が直接(ETACを含む)活動家と接触することを防ぎ、判事団の独立性を保護した。法廷顧問とボランティア・チームは、文書整理にあたり、公聴会では判事団からの質問の前に証言者に対し最初に陳述書の確認を取る役割を担った。

 民間主導の独立法廷であり、裁定を行使する権力はない。しかし、該当する諸機関や政府に、問題点を明示し対処を促すという効果は発揮している。

「中国・民衆法廷」設立後の国際社会の対応

  • 2019年8月:米国の主要政党からの中国での臓器犯罪に関する最初の公式声明として、米共和党全国委員会(RNC)が決議案を通過。「中国の自主的でない臓器収奪は深刻な人権侵害である」と譴責。
  • 2019年9月:中国の強制臓器収奪犯罪が国連人権理事会(UNHRC)で初めて発表された。この歴史的瞬間に、「中国・民衆法廷」の顧問ハミッド・サビ氏は、国連加盟国が中国の強制臓器収奪に取り組む「法的義務」があると明言。
動画:国連人権理事会でのサビ氏の発表(1分31秒)
  • 英国では、上院議員が世界保健機関(WHO)に、中国・民衆法廷の調査結果を仔細に見るように圧力を掛けている。WHOは英国外務省に対して、中国での移植は倫理的であると通告していたが、この通告は「加盟国の自己査定に基づくものであり、この場合は中国」であったという事実を認めている。
  • オーストラリアでは、エリック・アベツ上院議員が外務貿易省(DFAT)に「中国・民衆法廷」の調査結果について質問した。DFATは「中国・民衆法廷」については認識しており、この最終報告書を待っていると答えた。
  • 2019年8月:処刑された囚人の臓器が研究に使われた懸念のため、中国の研究者による移植臓器に関する24の学術論文が撤回された。
  • カナダでは、臓器売買を防止する法案が上院・下院で満場一致の支援を受けている。英国では現在、上院で同様の法案が審議中。
  • 2019年11月7日:山田宏 参議院議員が「外交防衛委員会」で外務省における「中国・民衆法廷」についての認識を確認した。
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     以上の流れの中で、11月7日の山田宏議員による質問の意義は大きい。同議員による中国での臓器狩りに関する質疑応答は合計で10分ほどになる。そのうちの1分ほどの映像を抜粋させていただく。

    動画:外交防衛委員会で外務省に質疑する山田宏 参議院議員 (53秒)
    山田議員の発言の書き起こし

    「このカナダのマタス弁護士、私も会ったことはありますが、この方によると、中国に渡れば心臓を13万ドル、腎臓を6万5千ドルで移植できる。臓器を提供するのは強制収容所や刑務所の収監者、その大部分は法輪功の信者だが、中にはチベットやウイグルの少数民族も含まれている。この人類史上未曾有の犯罪をストップさせるには国際社会に広く真相を知らしめる以外、他に方法がない(中略)もしこんなことが行われているのであれば、ヒットラーどころじゃない、もう本当におぞましいことだ、原始社会に戻ったような話だと、私は非常に危惧をしております」

    コラムニスト
    鶴田ゆかり
    鶴田ゆかり
    フリーランス・ライター。1960年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学 環境学学士取得。1986年より英和翻訳業。(1998~2008年英国通訳者翻訳者協会(ITI)正会員)。2015年秋より中国での臓器移植濫用問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016年秋よりETAC(End Transplant Abuse in China:中国での臓器移植濫用停止)国際ネットワークに加わり、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。