臓器狩り──中国・民衆法廷

第8回

不都合な真実

調査者3人による共同陳述書

 2019年4月初めの第二回公聴会の直前にあたる3月末、英国議会での討論で閣外の外務大臣が調査報告を「結論に至る有力な証拠ではない」と発言。これを受けて報告書の著者三氏が2019年4月の公聴会に招かれ、三氏からは共同陳述書「不都合な真実」が提出された。

 今回は、三氏共同の調査報告を解説し、「不都合な真実」としての臓器収奪に焦点をあてる。

英語圏での主要な調査報告

 『中国・民衆法廷 裁定』では、以下の個人調査を主な英語圏資料として認めている。(p.13 段落19)

  • 2009年 Bloody Harvest:マタス、キルガー共著
  • 2014年 The Slaughter:ガットマン著
  • 2016年 Bloody Harvest/The Slaughter: An Update:マタス、キルガー、ガットマン共著

 2009年のBloody Harvest(英語完全版、邦訳『中国臓器狩り』アスペクト社 2013年)は、2006年3月のアニー(仮名)の告発証言を受け、同年7月に発表された調査結果『戦慄の臓器狩り』(邦訳)をより詳しく広域に書籍としてまとめたもの。アニーの証言とは、前夫が2001〜2003年に2000人の法輪功学習者の角膜を摘出しており、薬物注射による処刑後に臓器が摘出され、商業目的で他の機関に輸送されていたというものだ。法輪功迫害真相調査連盟(CIPFG)が、カナダの人権弁護士デービッド・マタス氏と、同じくカナダで検察官を経て議員を務めた元アジア・太平洋担当国務大臣デービッド・キルガー氏に調査を依頼。これが英語圏での本格的な調査の発端である。

 2014年のThe Slaughterは、アメリカ人ジャーナリストのイーサン・ガットマン氏が7年の歳月を費やして世界各地に居住する(被害者・加害者を含む)中国大陸からの逃亡者を直接インタビューして読み物として著した一冊。「2014年調査報告」としてETAC日本語サイトに解説と動画がある。英語の書籍版・電子版はオンラインで購入できる。

上記2冊の本の情報をさらに更新する大掛かりな調査書An Updateの発表を知らせる画像。(ETACの前身であるEOPのサイト上でリリースされた)上記2冊の本の情報をさらに更新する大掛かりな調査書An Updateの発表を知らせる画像。(ETACの前身であるEOPのサイト上でリリースされた)

 2016年のAn Updateは、上記三氏の共著である。これも「2016年調査報告」としてETACの日本語サイトに解説と動画がある。日本語ページから英語原文に入れる。本文449ページ、脚注2400。全16章。第3章〜第6章の260ページはカラー写真入りで個々の病院の詳細が収録。中国発表の年間移植件数1万件を鵜呑みにせず、職員数、病床数、メディア報道、研究報告、院内ニュースレター、認定病院の条件を満たすために必要な手術容量など、見つけられる限りのデータを系統的に照合し、一つ一つの病院で可能な移植件数を検証した結果、低く見積もっても中国での移植件数は年間6万〜10万件と算出。中国で栄える移植産業の状況をハイライトしたこの報告書の内容は、映像『メディカル・ジェノサイド』(21分)に簡潔にまとめられている。

 前回の第7回連載コラムで紹介したように、中国がデータを操作している事実を判事団は受け入れ、この段階を踏まえて「民衆法廷」はこの三氏の「2016年調査報告」の推定値を躊躇なく受け入れた。

2016年報告書について報道者に語る3人の調査者。2016年6月24日 カナダのオタワで。(左から)デービッド・マタス氏、デービッド・キルガー氏、イーサン・ガットマン氏(Jonathan Ren/NTD Television)2016年報告書について報道者に語る3人の調査者。2016年6月24日 カナダのオタワで。(左から)デービッド・マタス氏、デービッド・キルガー氏、イーサン・ガットマン氏(Jonathan Ren/NTD Television)

英国議会での発言

 2019年3月26日、強制生体臓器摘出に関する英国下院議会での討論で、マーク・フィールド外務・英連邦省閣外大臣がこの三氏共同の調査報告に言及した。

 「デービッド・キルガー氏、デービッド・マタス氏、イーサン・ガットマン氏の分析(『2016年報告書』)は……外務省の高官は……重要な情報源とみなしています。同報告書は、年間の中国での移植件数、臓器源を実証することは極めて難しいと指摘しています。……中国での臓器移植制度に透明性が欠如していることに疑問を呈していますが、同時に、犯行を証明する自明の証拠の欠如を認めています。著者たちは、疑惑を証明する犯罪の決定的証拠(煙の出ているピストル、つまりメス)がないために、仮定および厳格な調査技術には及ばない方法に頼らざるをえませんでした。このような仮定、特に統計的な仮定は、議員の方々のスピーチ内で言及されましたが、仮定に過ぎません。厳格な証拠に基づき作業を進める必要があります ― 私どもは、できうる限りの規模の調査に取り組もうとしています。彼らの調査技術には、データ源を適切に確認することよりも、病院の販促資料やメディア報道から臓器移植制度の規模を推量するなどが用いられています」(英国議会の発言記録 コラム62WHが該当部分)

 これを受けて三氏による共同追加陳述書『不都合な真実』(邦訳)では、調査報告をゆがめる発言として反駁。さらに続けて「煙の出ているピストル」という表現を逆手に取り、大臣の利用する「不透明な煙幕」の背後にあるものとして、中国の存在を示唆した。米国やオーストラリアでの具体例も挙げ、このような取扱いは過去13年間受けてきており、世界中の外務大臣にとって無実の人々の大量虐殺は『不都合な真実』を意味すると指摘する。

 キルガー氏は4月7日の公聴会で「我々の報告書を読んでいないことが丁重に示された…証拠に関する闘いでは我々が勝ったが、まだ通常、大臣格の者が『証拠が十分でない』と発言する。『証拠を受け入れたくない』ことが本音だから『証拠が決定的ではない』とするのだ」と証言。

不透明な煙幕に包まれた英国議会? ロイター(BBC News Japanの記事より写真のみ転載)不透明な煙幕に包まれた英国議会? ロイター(BBC News Japanの記事より写真のみ転載)

中国臓器狩りの経済

 『中国・民衆法廷 裁定』の「法廷に求められた基本的な質問」のセクションでも、国際機関、国家、国家機関、さらにはNGO、メディアなどが、臓器収奪が国際刑事法に触れる犯罪であるという結論に達していても、その犯罪性を明示することは控えていると指摘する。(p.15~16 段落22~28)

 中国が国連常任理事国であるため、国連機関は自ら進んでこの問題を取り上げない。また主権国家という世界秩序体制のもとでは、中華人民共和国で起こっている人権侵害に対して、他国が足を踏み入れることは難しい。

 「不透明な煙幕」は、より広範囲に及んでいる。2019年12月9日、チェコの共産主義犯罪研究所(Institute to Research The Crimes of Communism)が「中国臓器狩りの経済」を発表した。調査は全てオンラインで行われた。前半は医療に焦点をあて、後半は企業に焦点をあてている。医療関係の調査では、PubMedという検索エンジンを使ってNCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)のデータベースで「中国での移植」を検索し、各国から中国への渡航移植があることを実証。後半の中国での臓器狩りに関わる欧米企業の調査では「臓器保存企業」「臓器移植企業」「中国の医療企業」「中国の欧米医療企業」を検索し、該当企業を米国の証券取引委員会とブルームバーグで調べ、さらに検索を絞り込み、浮上した企業の年次報告書も確認した。また検索エンジン、百度とグーグルを使って中国での証拠も検索した。その結果、少なくとも28社の欧米企業が中国での臓器収奪を知りながら、移植関連の資材、薬剤、器具を中国に提供していると判明。移植された臓器の拒絶反応を抑制する薬剤を供給する日本の製薬会社も1社含まれている。

中国への移植ツーリズムが実証された国々を示す地図(IRCC The Economics of Organ Harvesting in China p.14より)中国への移植ツーリズムが実証された国々を示す地図(IRCC The Economics of Organ Harvesting in China p.14より)

 2019年6月17日、「中国・民衆法廷」の最終裁定が1時間半にわたり口頭で発表されてから1年以上が経過した。裁定の最後の締めくくりを引用して「私たちは今、何をすべきなのか」を問いかけたい。

各国政府およびPRC(中華人民共和国)とかなりの形で関わってきた下記の分野に携わる者は、上に記された犯罪の規模に関して、自分たちが犯罪国家と関わっていることを認識すべきである。

  • 医師、医療機関
  • 産業、ビジネス──特に航空会社、旅行会社、金融機関、法律事務所、製薬会社、保険会社、個々のツーリスト
  • 教育機関
  • 芸術機関

 付記:フィールド大臣は翌秋の選挙に出馬することはなかった。英国では「渡航移植と死体展示に関する法案」(1分41秒の映像を含む関連英語報道)が、2019年10月23日に提出された。2020年6月8日には、英国の一議員が、製薬の開発・製造におけるヒトの臓器の取扱いに関しての法律改正案を提出。中国で非人道的に無実の人々を利用して開発された薬品が、英国に入らないようにするための法律改正である。第一回目の下院での公共法案委員会(Public Bill Committee)の審議で可決はされなかったが、果敢な動きだ。

参照:
追加の共同陳述書(邦訳)
◎4月7日の3人の口頭証言の録画口頭証言の録画(字幕付き)
 デービッド・マタス(証言者番号48)
 デービッド・キルガー(証言者番号49)
 イーサン・ガットマン(証言者番号53)
『中国・民衆法廷 裁定』(英語原文)
◎ 公式英文サイト ChinaTribunal
コラムニスト
鶴田ゆかり
鶴田ゆかり
フリーランス・ライター。1960年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学 環境学学士取得。1986年より英和翻訳業。(1998~2008年英国通訳者翻訳者協会(ITI)正会員)。2015年秋より中国での臓器移植濫用問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016年秋よりETAC(End Transplant Abuse in China:中国での臓器移植濫用停止)国際ネットワークに加わり、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。