臓器狩り──中国・民衆法廷

第20回

ウイグル人弾圧とジェノサイド①

本法廷は、中国の移植産業に関連するかなりのインフラが数多く解体された証拠を一切見つけておらず、すぐに入手できる臓器の源に関する納得のいく説明も得られていないため、強制臓器収奪は今日も続けられていると結論する。

『中国・民衆法廷 – 裁定の要旨』

 中共政権によるウイグル人の弾圧の状況が次々と報道されている。今回のコラムでは最近のウイグルに関するBBCの報道と最近の証拠を紹介する。

BBCの報道

最近の報道

 中国北西部の新疆ウイグル自治区は、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、パキスタンと国境を接する。中国共産党は1949年よりこの地区を統治してきた。当地のイスラム教徒を少数民族にするため、漢民族の移住政策がとられ、ラマダン期間の断食の禁止、長い髭とベールの着用禁止、宗教活動も登録された場所以外では禁じられた。2014年5月、暴力テロ活動を厳格に撲滅するための「厳打」(エンダ)を発動。2016年8月にはチベット弾圧に積極的に加担した陳全国(チェン・チュエングオ)が、新疆ウイグル自治区党委員会書記に着任し、弾圧が強化された。

 ウイグルの収容所から出てきた勇敢な証言者の体験を綴った2021年2月2日付けのBBCの記事 ‘Their goal is to destroy everyone’: Uighur camp detainees allege systematic rape(「すべての者を破滅させることが彼らの目的」)に、今、世界は愕然となっている(映像:5分20秒/原文記事)。以下、記事に出ている順に証言内容を要約する(証言者名は原文の英語表記に揃える)。

  • Tursunay Ziawudun(現在は在米)9か月過ごした新疆ウイグル自治区キュネス県(Kunes)の収容所での生活・レイプの証言。拘束者の髪は切られ、洗脳クラスに入れられ、身体検査を受け、錠剤を飲まされ、15日おきに吐き気としびれを引き起こす “ワクチン”を打たれた。
  • Gulzira Auelkhan(カザフスタン人)18か月収容された。 レイプの準備をさせられた。
  • Qelbinur Sedik(ウズベキスタン人)収容所で働かされた中国語の教師。レイプが起こっていることを婦人警官の口から確認。
  • Sayragul Sauytbay 収容所で働かされた教師。若い女性の輪姦を目撃させられた。目を背けたり反応したものは、罰せられるために別の場所に連れて行かれた。
  • 収容所の護衛 中国国外からのビデオリンクでインタビュー(映像では別人が証言を読んでいる)。収容所にウイグル人を連行する役割だった。収容者は本を暗記させられていた。暗記できなかったものは何度できなかったかを示す色別の服を着させられ、食事抜きや殴打などの罰を与えられる。皆、病弱で惨めな様子。様々な拷問を受けたに違いない。
収容所の動画と画像を記者のために認識していきながら泣き崩れるZiawudunさん(BBCの映像報道よりスクリーン・ショット)収容所の動画と画像を記者のために認識していきながら泣き崩れるZiawudunさん
(BBCの映像報道よりスクリーン・ショット)

 キュネス県の2017年と2018年の司法制度に関する内部書類によると、「主要なグループ」を「教育を通して転向させる」詳細が書かれており、書類の一つには、「洗脳、心の浄化、正の強化、悪の除去」(英語からの翻訳)と書かれているという。本来の言葉の意味を180度変えて使用する典型的な文書と言えよう。

 電話調査の録音から江沢民・元主席が法輪功からの臓器狩りを直接命令したことが指摘された(参照:連載コラム第19回)ように、この最近のBBC報道でも、ウイグルの迫害には、習近平・主席が直接関わっていることを指摘している。かつて中国に駐在していた大使で、現在は世界で最も古いイギリスのシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシニア・アソシエイト・フェロー(上級招聘研究員)を務めるチャールズ・パートン氏の言葉が引用されている。「(ウイグルの迫害は)中央、上層部のトップに至るもので、これが習近平の政策であることに疑いの余地はない」。習近平やその他の中共の幹部がレイプや拷問を命令することはないだろうが、「認識していることは確か」であり、「見て見ぬふりをしているのだろう。ウイグル弾圧の政策は厳格に実行するように命じられており」これらの行為に走る加害者への制約は一切ないとパートン氏は語っている。

 なお、2021年2月5日の BBC News Japan の記事では、このBBC報道を受けての米英豪の反応も加えている。

真実の報道への圧力

 今回の報道をリードしたマシュー・ヒル(Matthew Hill)記者は、中国での良心の囚人からの臓器狩りを2018年10月に初めてBBCで報道した記者である(参照:連載コラム第15回)。

 2019年6月17日、「中国・民衆法廷」の裁定が発表された当日、BBCのNewsnight(国内放送)で大掛かりな番組を用意していたが、英国外務省から報道を控えるようにと通達され、この番組は公開されなかった。結局、BBCからはマシュー・ヒル記者による BBC World の報道のみとなった。この事実は、2020年11月4日に行われた英国の議員連盟「中国研究グループ」主催のオンライン・セミナーで判事団の議長であったジェフリー・ナイス卿が一般の人も知るべきであるとして明らかにした。判事団の1人だったマーティン・エリオット教授も、その発言の後に続けて、独立した放送局に対して外務省がこのように圧力をかけることは、中国で行われているようなことであり、極めて心外だと加えている。(セミナーの録画/発言は53:53より)

 このマシュー・ヒル記者が、今回、ウイグルの収容所で女性がどのように扱われているかをBBCから報道したことは、極めて大きい意味を持つ。

 なお、BBCのおぞましい報道記事の最後に、性的暴行や暴力の影響を受けた方のためのサポート・グループをリスト化したページのリンクが挿入されている。中国での臓器移植に関与し、いたたまれない気持ちになっている人々を支援してくれるグループが日本国内で発足し、筆者の記事の最後に加えることができれば、と切に願っている。

最近の証拠

 ETAC(中国での臓器移植濫用停止 国際ネットワーク)の英語サイトに、「ウイグル人が臓器のために殺害されている可能性を示す最新の証拠」というページがあり、その中に、アーキン・シディック教授の証言が記載されている。2020年1月21日付の報道、Muslims Are Being “Slaughtered on Demand” For Their Organs in China(中国で臓器のためにオンデマンドで殺害されているイスラム教徒)からの引用で、さらに同教授からの証言を追加の声明文として確認している。

 中共は100万人以上のウイグル人を漢民族の様々な省に輸送・拡散したのちに、グループ分けした。一つのグループは臓器収奪のためで、もう一つのグループは生物実験のためで、もう一つはその他の目的(distributed killing* など)のためである。中共が巨大な収容所を維持するための資金は底をついており、このような手段がとられている。
(*distributed killing が何を意味するのかは明確ではない。)

 シディック教授は、宇宙光学分野のシニア光学エンジニアで、中国政府のトップの高官と間接的な接触を維持していると記事では説明されている。

 なお、2021年6月4日から7日に、ジェフリー・ナイス卿を議長とする「ウイグル・民衆法廷」の第1回の公聴会が予定されている。(英国のロックダウンのために5月から日程変更)。すでにウェブサイトが設置されており、判事団の詳細やメディア報道などが掲載されている。

 

公式サイト
◎『中国・民衆法廷』邦訳サイトマップ
◎ 公式英文サイト ChinaTribunal
◎『中国・民衆法廷 裁定』(英語原文
コラムニスト
鶴田ゆかり
フリーランス・ライター。1960年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学 環境学学士取得。1986年より英和翻訳業。(1998~2008年英国通訳者翻訳者協会(ITI)正会員)。2015年秋より中国での臓器移植濫用問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016年秋よりETAC(End Transplant Abuse in China:中国での臓器移植濫用停止)国際ネットワークに加わり、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。
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