臓器狩り──中国・民衆法廷

第21回

ウイグル弾圧とジェノサイド②

ガットマン氏の9つのメモ

「中国・民衆法廷」(2018年〜2019年6月)での証言者イーサン・ガットマン氏(証言者番号:35&49)が、2020年12月にETAC(中国での臓器移植濫用停止 国際ネットワーク)のオンライン・セミナーで「新疆/東トルキスタンでの強制臓器収奪に関する9つのメモ」The “Nine Points” Memo: China’s Forced Organ Harvesting in Xinjiang / East Turkestan を発表した。「新疆」とは中国共産党政権がウイグル人の住む地区につけた名前で「新しい植民地」を意味する。「東トルキスタン」はこの地区の人々による名称である。(注:ガットマン氏のセミナーの内容は、「中国(臓器狩り)民衆法廷」の証言の一部ではない。)

この「9つのメモ」は、ウイグル人活動家、法輪功の調査者、欧米の政策立案者、記者のために書かれた機密の覚書だったと最初の概説にある。この「9つのメモ」のうち、収容所からの臓器輸送を示唆するポイント7と、カザフスタンで聞き取った証言を紹介するポイント8を紹介したい。

一か所に集約された施設

アクス地区を示す地図 (ラジオ・フリー・アジアの記事より転載)アクス地区を示す地図 (ラジオ・フリー・アジアの記事より転載)

アクス地区は、タクラマカン砂漠の北端に位置し、アクス市の人口は66万人。ノルウェーを拠点とする「ウイグル・トランジション・ジャスティス(移行期正義:紛争終結後の正義の実践の意味)データベース(UTJD)」のBahtiyar Omar理事は、2017年から2019年にかけての衛星写真を、ラジオ・フリー・アジア(RFA)に2020年11月初めに提出。2017年に二つの収容所建設の着手が始まり、工場施設が2018年に出現していることを伝えた。この地区にあった感染症用の病院が強制収容所となっていること、病院・収容所・火葬場が1キロ平方の土地に収まっていることが示された。

RFAはこの事実について2回報道している。

  • 2020年11月13日 Internment Camps in Xinjiang’s Aksu Separated by Crematorium(火葬場で隔てられた新疆アクスの収容所/英語原文
  • 2020年11月18日 Aksu Internment Camp Was Former Hospital, Raising Fears Uyghur Detainees Are Used in Organ Trade (アクス収容所はかつての病院 – ウイグル人拘束者が臓器売買に利用されている懸念/英語原文

ここではガットマン氏の解説を追っていく。

衛星写真が示す三つの施設(ガットマン氏のセミナー映像からのスクリーンショット)衛星写真が示す三つの施設(ガットマン氏のセミナー映像からのスクリーンショット)

上の写真の赤い四角で囲われた左右の施設が収容所であり、西側(左側)の収容所は1万6千人を収容する。500メートル離れた東側(右側)の収容所には3万3千人が収容されている。この東側の収容所の敷地内には以前から存在していた感染症用の病院がある。青丸で囲まれた施設は、巨大な火葬場であり、両方の収容所から900メートル離れたところに位置している。

三つの施設からアクス空港までの道順とアクス空港(ガットマン氏のセミナー映像からのスクリーンショット)三つの施設からアクス空港までの道順とアクス空港(ガットマン氏のセミナー映像からのスクリーンショット)

この地図で示されるように、この施設からアクス空港までは自動車で24分から29分。臓器輸送を優先させるグリーン通路(後述)が同空港に設けられた公式通知が、2017年10月14日付のChina Civil Aviation Networkからの報告書にある。同報告によると、新疆医科大学の臓器移植チームは、中国南方航空の6431便でアクス空港から首都ウルムチの空港に臓器を運ぶよう指示を受け、2017年に浙江省の杭州市を含む7回の搬送が行われた(RFAの2020年11月18日付の記事より)。

上海から遠くない浙江大学医学院附属第一医院では、2017年初頭、肝移植の件数が9割増で、腎移植件数は2倍以上である。2020年3月1日には、COVID-19の患者に両肺心臓移植を行っている。ガットマン氏は、同医院とアクスの医師・医療機器に太いパイプがあるとしている。

ガットマン氏によるこの部分の解説は、セミナー映像(英語)の 25:28-30:25。

「卒業」または「消える」拘束者たち

中国共産党の目的はウイグル人の弾圧と壊滅であり、一部のカザフスタン人は収容所から逃れている。たまたま目撃してしまった立場にあるカザフスタン人の生存者は客観的な証言者であるとし、ガットマン氏が直接カザフスタンで聞き取った内容と彼の推定がこのポイント8に記載されている。

収容所から出所する者は二つのグループに分類できる。

  • 平均18歳の若者。昼食時に彼らは「卒業」したという発表が通常あり、中国東部の工場に労働力として送り込まれる。
  • 平均年齢28歳(25歳〜35歳)。臓器収奪の対象として体格的に望まれる年齢。夜中に連れ去られる。年間、この年齢層の2.5%〜5%が消えている。

収容所に拘束された人数は100万人、300万人など様々だが、ガットマン氏の推定では、少なくとも100万人が収容されており、そのうち低く見積もって2.5%、つまり2万5千人が毎年消えている。1日68人の割合だ。臓器が摘出され国外の渡航患者に売られるとしたら、これらの消えた人々は1人50万〜75万米ドル(5400万〜8100万円)の価値がある。

ガットマン氏によるこの部分の解説は、セミナー映像(英語)の30:26 — 36:25。

また、カザフスタンでの調査方法と聞き取り調査の内容が2020年4月に発表された動画に収められている。(Searching for “The Disappeared”(英語/6分22秒)

臓器輸送のためのグリーンの優先通路

民衆法廷で提示されたグリーンの優先通路の写真民衆法廷で提示されたグリーンの優先通路の写真

アクス空港でグリーンの優先通路の公式通知があったと上述のRFAの記事にある。このグリーン通路については、エンヴァー・トフティー元外科医(証言者番号13)が、「中国・民衆法廷」の公聴会で言及しており(公聴会映像/字幕付き/10:16~11:56)、「裁定」の直接証拠に列記されている(段落166)。

「特殊旅客、人体臓器運輸通路」という意味の中国語とウイグル語が書かれており、中国での移植活動の規模を示唆するものと「裁定」では記述されている。なおこの「グリーン通路の解説に関する通知」における「通関の優先」「輸送の優先」「共同作業」については、野村旗守氏の『日本はなぜ沈黙するのか、カシュガル空港の臓器専用通路の意味』(Will 2019年4月号)に詳しく書かれている(記事内容)。

「中国・民衆法廷」での証言者たち

中国での臓器収奪に的を絞った民衆法廷では、ウイグルの収容所から出てきた事実証言者は4人だった。2018年から2019年にかけての時点では、まだ証拠も収容所から出てこられた証言者も限られていた。状況がエスカレートしていることもあり、2020年に入って次々と証拠や証言が明るみになってきている。下記に、(2021年に開廷の「ウイグル・民衆法廷」以前の)「中国(臓器狩り)民衆法廷」に出廷した勇気ある事実証言者を紹介したい。

オムル・ベカリ(証言者番号19)

公聴会映像(字幕付き)
陳述書(邦訳) 

母はウイグル人、父はカザフスタン人。カザフスタン市民。 
拘束前は観光会社勤務。2017年3月26日から11月4日まで拘束。
黒頭巾をかぶせられ身体検査を2度受け、採血されている。300人収容の施設で、再教育を強要される。中国共産党を称え、中国語を学ぶ授業を受け、試験が毎週あった。中国語を書くことを拒否したため監房に閉じ込められた。カザフスタン外交官の働きかけで釈放。当時、数少ない収容所からの生還者だった。

2018年11月に来日し、東京と大阪で講演している。

アブドゥウェリー・アユプ(証言者番号3)

公聴会映像(字幕付き/途中で接続切断・質問部分の音声なし)
陳述書(邦訳) 

カシュガル生まれ。現在はトルコ在住。
ウイグル語を母国語とする幼稚園を開園したことで拘束。
2013年8月から2014年11月まで拘束。2015年7月に再び逮捕され、拷問・男性レイプ(公聴会で証言)、6時間収監。2015年8月に警察に警告されカシュガルを去る。
2014年11月に同じ監房にいた男性が処刑されたが、家族は遺体に触れることは許されず、臓器摘出の疑いを指摘。

グルバハール・ジェリロヴァ(証言者番号25)

公聴会映像(字幕付き)
陳述書(邦訳) 
口頭供述のまとめ(邦訳) 

カザフスタン国籍。衣類業界で中国製品をカザフスタンに輸出する仕事に20年従事。
2017年5月から2018年9月にかけて3カ所の刑務所に合計15か月間収監。カザフスタンの家族がカザフスタン政府と中国当局に書簡を幾度も出し、カザフスタン政府が中国政府にはたらきかけて釈放された。

清水ともみさんの漫画でも取り上げられている。
私の身に起きたこと ~とあるウイグル人女性の証言2~
なお、近刊書の『中国臓器移植の真実』(集広舎)に筆者が寄稿した、民衆法廷の証言に関する章で、グルバハールさんの証言を詳しく取り上げている。

ミヒルグリ・トゥルスン(証言者番号25)

公聴会映像(字幕付き)
陳述書(邦訳) 

ウイグル民族。在米。12歳の時に中国化政策の一環として広州で教育を受ける。エジプトで英語を学び、2015年にエジプト人と結婚して三つ子をもうけ、エジプト市民となる。三つ子の養育を親に手伝ってもらうため、2015年5月に帰国した際、ウルムチの入国管理で逮捕。子供から引き離される。7月に仮釈放。息子の一人が死亡。2017年4月、再び拘束され、3ヶ月幽閉。2018年1月、三度目の拘留。身体検査、尋問、収監。3か月後に出所。3回の搭乗拒否を経て、ようやくエジプトに渡る。2018年9月、米国に到着。
ミヒルグリさんの状況は陳述書に詳しく書かれている。また、下記の清水ともみさんの漫画が多くを語っている。書籍版もKindle版もある(
私の身に起きたこと ~とあるウイグル人女性の証言~)。

「私の身に起きたこと」

「とある大学で『私の身に起きたこと』を授業の教材に。その学生さんの感想」という清水ともみさんのサイトをみつけた。

「…罪もない一人の人間が、なぜこのような扱いを受けなければならないのか。いくら考えてもわかりません…一人の少女がTikTokで動画を投稿していました。この投稿は、1日で650万回再生されていたそうですが、次の日アカウントが停止されました。TikTokは中国企業です。中国政府のイメージを悪くする、この動画は問題だと、彼女のアカウントを公式停止させたのです。彼女はただ事実を伝えているだけなのになぜなのか、問題なのはそちらではないかと、怒りと同時に無力さを覚えました。私も、一人でも多くの人にこの状況を伝えていきたいと思いました。未来を担う若者が、この世界を変えなければなりません。差別や人権問題に向き合っていき、今苦しんでいる人たちが、日の地を脅かされることなく、不当な扱いを受けることなく、安心して暮らせる社会に変えたいです。清水さんの漫画を読み、このように考えるターニングポイントになったと思います」

若い世代が「世界市民」として目覚めてくれることに、大きな希望を感じた。

お勧めサイト
清水ともみさん「ウイグル漫画日本語版まとめ」

公式サイト
◎『中国・民衆法廷』邦訳サイトマップ
◎ 公式英文サイト ChinaTribunal
◎『中国・民衆法廷 裁定』(英語原文

コラムニスト
鶴田ゆかり
フリーランス・ライター。1960年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学 環境学学士取得。1986年より英和翻訳業。(1998~2008年英国通訳者翻訳者協会(ITI)正会員)。2015年秋より中国での臓器移植濫用問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016年秋よりETAC(End Transplant Abuse in China:中国での臓器移植濫用停止)国際ネットワークに加わり、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。
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