書名:指名手配議員
副題:私はなぜ「フーテンの寅さん」の聖地で議員になれたのか?
著者:鈴木信行
発行:集広舎/四六判/並製/240頁
価格:本体1,800円+税
発売予定日:2022年08月05日
ISBN:978-4-86735-033-1 C0095
「ならぬものは、なりませぬ」と行動する人
第1部から7部まで、全230ページ余の本書は、著者の半生の記でありながら、戦後の「右翼」と呼ばれる人々の活動の歴史、運動の変遷、社会の変動を知ることができる。
「右翼」といえば、世間一般、黒い街宣車に日章旗、旭日旗を翻し、大音響で軍歌を流す集団という印象を抱く。しかし、その「右翼」も「左翼」の暴力から身を守るため、街宣車は大型で装甲車のようになった。火炎瓶を投げ、ゲバ棒、投石で攻撃してくる「左翼」に対峙するための防御の手段から生まれたものだと、本書で知った。更に、「右翼」と言いながら、その運動の実態は在日がやっているという誤解も、東西冷戦構造の崩壊から生まれた事実と知る。『指名手配議員』という題名に、本書を手にするのを躊躇したが、やはり、何事も歴史や事情があるのだと分かり、無駄ではなかった。
著者の鈴木信行氏とは面識がある。互いに、踏み込んだ話をするわけではない。先輩諸氏の話を傾聴する勉強会で一緒になったのが始まりだった。口ぶりは穏やかで、「残したら作ってくれた方にすまない」と言って、余ったサンドイッチをパクパク口に運んでいる姿を記憶に留めている。大隈重信外相に爆裂弾を投じて後に自決した玄洋社の来島恒喜烈士の法要、墓参で幾度か一緒になり、思想の方向性を同じくする人、という程度の認識だった。
しかし、驚いたのは、その後の著者の行動だった。韓国ソウルの日本大使館前に据えられた「慰安婦像」に「竹島は日本の領土」と記した杭を括りつけたのだ。ニュースのテロップに、「鈴木信行」との名前が流れた時には、同姓同名の別人の仕業と思った。が、しかし、私の知る鈴木信行だった。とても、そんな、行動をするとは思えないほど、温厚な人という印象があるだけに、驚きは倍化した。それ故に、表面的な鈴木信行しか知らなかった私にとって、著者の思想遍歴、経歴を知る上で、実に貴重な一書となった。
世間一般は、著者の行動、言動に「差別主義者」「ヘイトスピーチの人」とレッテル貼りをする。しかし、差別をするわけでも、ヘイトスピーチをする訳でもない。法治国家として、人として、法の下で、公平に「ならぬものは、なりませぬ」と主張、行動するだけだ。むしろ、「人権派」と自認しながら差別発言、行動に気づいていない輩に嫌悪感を抱く。
著者は現代版「玄洋社」を目指し、日本国民党を立ち上げた。福岡発祥の玄洋社という自由民権運動団体は、社員がそれぞれ、役割分担を認識していた。活動資金を準備する者、行動する者、言論機関として新聞社を切り盛りする者。そして、国政や地方議会に出馬する仲間を支援する者の集団である。そう考えると、「机上の空論」を嫌って炭鉱経営に身を投じた初代玄洋社社長の平岡浩太郎のような人物が著者の周辺に出現して欲しいと願う。
ちなみに、著者は松田聖子の熱狂的なファンだ。次回、会った時には、この話題から切り込んで、政治の核心に迫ってみたいと思う。
令和4年(2022)11月7日:浦辺登