援助とビジネスの境界で「開発」を考える

第08回

グローバル税制改革においてアフリカ諸国が取り組むべき課題──税収増・援助依存軽減がもたらす、より健全な「開発」

 1月28日に英国の開発学研究所(IDS)のウェブサイトに「アフリカはグローバル税制改革においてイニシアティブを取るべき(African leaders must seize the initiative on global tax reforms.)」というタイトルの記事が掲載されました。同記事は、IDSのムーア教授(Prof. Mick Moore)が最近発表したペーパーを引用し、昨年6月の英国ロック・アーンG8サミット及び同9月にロシアで開催されたG20サミットにおいて合意された租税回避問題への対応としてのグローバルな税制改革の取り組みを重要な方向転換であるとして評価しつつ、アフリカ諸国は税制改革を先進国や新興国に委ねるのではなく、独自に取り組みを進めるべきと述べています。今回は同記事およびムーア教授のペーパーの内容をご紹介しつつ、グローバル税制改革の現状とアフリカ低所得国の課題をタンザニアに焦点を当てながら考察したいと思います。なお、同記事およびムーア教授のペーパーはこちらでご覧いただけます。

ムーア教授ペーパー「国際税制の変革は低所得国に恩恵をもたらすか?」

 ムーア教授はアフリカ諸国のリーダー達が「第22回アフリカ連合サミット(2014年1月24日~2月1日)」に集う機会をとらえて、「国際税制の変革は低所得国に恩恵をもたらすか?(Will changes to the international tax systems benefit low-income countries?)」というペーパーを発表しました。主要な論点、筆者が興味深いと感じた点は以下の通りです。

【G8/G20によるグローバル税制改革へのコミットメント、問題点】

  • 過去数年、Tax Justice Network、Action Aid等の機関は、各国税務当局間での情報共有、タックス・ヘイブン問題への対応の必要性につき活発に啓発活動を展開してきたが、その主張はしばしば非現実的で非合理的であると捨て去られてきた。しかし、彼らの主張はようやく昨年6月の英国ロック・アーンG8サミット、昨年9月にロシアで開催されたG20サミットにおいて真剣に議論され、G8/G20は既存の租税制度が多国籍企業等による大規模な税逃れを可能としていることを認識し、租税政策の議論において重要な転換をもたらすことに貢献した。
  • 大きな動きではあるが、G8/G20による合意は税制改革の広範な原理と方向性を示したに過ぎず、特定のコミットメントや目標をほとんど規定していない。また、改革の方向性では各国税務当局間での潜在的な課税対象に関する情報の共有が重視されているが、その恩恵は一様ではなく、先進国やBRICS等は得られた情報を租税回避の阻止のために有効活用できるものの、低所得国は情報活用において人材・能力不足という問題を有している。G8/G20は税務情報の自動交換にコミットしており(従来は二国間条約による要請ベースでの情報提供)、過去数か月に制度構築に向けて急速な進展が見られるが、低所得国は蚊帳の外に置かれている。OECD諸国は低所得国の税務当局の能力強化についての支援をコミットしているが、その達成には時間を要する。

【アフリカ諸国が取り組むべき課題】

  • アフリカ低所得国は、先進国や新興国が主導するグローバル税制改革に受身である必要はなく、より望ましい国内税制を確立する上でアフリカ地域全体として、共同で取り組める課題も多い。
  • 海外直接投資(FDI)の促進を目的とする免税措置はアフリカ諸国でも広く導入されており、OECDペーパーによればアフリカ6か国における免税規模は平均で全税収の33%にも達している。免税措置は大幅な歳入損失をもたらしているが、①免税措置が本来の目的の達成のためには有効に機能していない、②政治家の介入により免税措置の適用が不透明である、③投資促進においては免税措置よりもインフラ(運輸、電力、上水道等)の整備状況の方がより重要である、といった理由から見直しが必要となっている。アフリカ諸国は免税措置の国際的なガイドラインの策定・採択を先進国に委ねるのではなく、アフリカ連合(AU)やアフリカ開発銀行等と共に議論をリードし、低所得国の声を反映させるべきである。
  • 低所得国では固定資産税の徴収は極めて低いレベルに留まっているが、固定資産税は富裕層への課税であり、税逃れが難しく、導入しやすいことから、「アフリカ固定資産税イニシアティブ゙」といった機関を創設し、アフリカ地域全体として徴収を促進すべきである。固定資産税は地方行政レベルにおける主要な財源であり、効果的に地方分権を進める上でも重要な意味を有する。

タンザニアにおける免税措置による歳入損失

 ムーア教授はアフリカ諸国のリーダー達に対して、アフリカ域内における歳入増のための免税措置の見直し(特に国際的なガイドラインの策定)や固定資産税の徴税強化に向けた取り組みを促していますが、個別の事例として筆者が在勤したタンザニアにおける歳入を巡る状況をご紹介します。

タンザニア最大都市ダルエスサラーム中心部

▲タンザニア最大都市ダルエスサラーム中心部

 タンザニアは2000年代半ば以降、6~7%の経済成長を続けており、国内歳入も順調に伸びています。同時期、タンザニア政府は歳入強化の取り組みを行ってきており、税務行政に関しては納税者ID番号の導入、大規模納税者ユニットの開設、個人所得税階層区分数の縮小、VAT(付加価値税)登録枠組みの構築、VAT納税・税関業務への電子システムの導入などの面において大きな改善が見られました。

(参考:アフリカ諸国では、歳入強化の一環で、交通規則違反への罰金徴収強化を目的として幹線道路に検問所が多く設置された結果、小規模汚職の多発、スムーズな道路交通の阻害といった負の影響も散見されますが、一方で過重搭載トラックの取締強化による道路の維持・管理においては効果を発揮しています。)

 しかし、ここ数年は税制改革の進捗も停滞気味であり、歳入のGDP比は横バイで推移しています。今後、歳入増を達成する上では、税務行政の改善による効果は限定的であり、税制度の大幅な改革が必要となっています。大幅な税収増加が見込める分野としては、鉱業セクター(金、ウラン、天然ガス等)への適正な課税、VATの対象拡大、更に中長期的な課題としては、GDPの5割前後、労働者の7割を占めると推定されるインフォーマル・セクターのフォーマル化による課税基盤の拡大などが挙げられますが、現段階では免税措置の見直し・縮小が最重要課題となっています。

(参考:タンザニア政府歳入GDP比の推移(IMF統計)-2002年:14.3%⇒2004年:16.2%⇒2006年:18.8%⇒2008年:21.9%⇒2010年:21.0%⇒2012年:21.9%)

 2012年6月に現地NGOが合同で『東アフリカにおける免税競争:タンザニアにおける優遇税制と歳入損失』という報告書を公表しています。タンザニアにおいてもFDIを引き寄せるべく広範な免税措置が導入されていますが、同報告書は2011/12年度の免税による歳入損失が総税収の18%(筆者注:GDP比2.9%)に達していると指摘しています。タンザニア政府も免税による歳入損失は非常に問題視しており、タンザニア政府の「5か年計画(2011/12年度-15/16年度)」において、「免税規模を2015年までにGDP比1%に削減する」という目標を掲げていますが、国内には強固な反対勢力が存在しており、目標達成には程遠い状況です。

 同報告書は2006年のIMF報告書の分析を引用し、FDIを引き付ける上では優遇税制(免税措置)よりも、インフラ整備(ムーア教授のペーパーでも言及)、ビジネス開始・実施における行政コストの低減(=行政手続きの透明性の確保)、政治的安定、マクロ経済政策の予測可能性の方がより重要であると指摘しており、免税措置の有効性に疑問を投げかけ、免税措置の見直し・縮小を提案しています。特に所管大臣が有している免税措置の適用に関する裁量権の見直し・縮小、免税措置の一般国民への公表が必要であると強調しています。

東アフリカ共同体としての取り組みの必要性

 更に同報告書は、タンザニアにおける優遇税制の導入は「東アフリカ共同体(EAC)」諸国間の「免税競争」の一部であること、EAC各国はより多くのFDIを引き付けるために免税措置を強化しつつあるものの、これは危険な「免税競争」につながることから、EAC諸国間で調整を進めるべきであると指摘しています。ムーア教授が指摘するようにEAC各国間、更にはアフリカ域内での更なる免税競争による歳入損失の拡大を招かないように免税措置の国際的なガイドラインの策定・採択に積極的に取り組む必要があると言えそうです。

(参考:1992年に経済停滞に苦しむアイルランドが法人税率を引き下げてFDIを引き寄せようとして、OECD各国から激しく批判されたことを契機に先進国間で「免税競争」の危険性についての議論が開始され、税の優遇措置とタックス・ヘイブンの問題は併せて取り上げられることになり、1998年にはOECD租税委員会が『「有害な税の競争」報告書』を公表し、その後の進捗レポートを経て、2009年の「タックスヘイブン・ブラックリスト」作成につながったということです。(志賀櫻著『タックス・ヘイブン-逃げてゆく税金』2013年、岩波新書))

忘れ得ぬタンザニア人若手企業家の言葉──税と説明責任

 2年程前、セミナーで出会った若手タンザニア人企業家が筆者を援助機関関係者と認識して述べた言葉を今も鮮明に記憶しています――「タンザニア政府は援助依存が高いために援助国・援助機関の顔色ばかりを伺っており、我々納税者である自国の企業家をよく見ていない。援助がなければ、政府は歳入源として我々企業家の税金に頼らなければならず、もっと我々に向き合い、ビジネスをやり易いように真剣に考えるはずだが…」

 本コラム第1回でも租税回避問題に言及していますが、筆者が「税と開発」の問題に大きな関心を有し始めたのは10年前、IDSでムーア教授の「税と開発」の講義を受講したことが契機でした。ムーア教授は同講義で以下の趣旨の説明をされました。

  • 欧州においては戦費調達の必要性から徴税機構として官僚機構が生まれたが、その後、政府と納税者の間の緊張関係により統治機構が徐々に形成・強化された。幅広い国民への課税を通じた予算プロセスにおける国民の参加が政府機関の透明性を高め、説明責任能力を強化してきた。
  • 一方、石油等の鉱物資源、あるいは援助に歳入を過度に依存している国の政府は、自国民から税金を徴収する必要性が小さく(あるいは必要ない)ために、自国民から批判を受けることや自国民との交渉を行う余地が少なく、また、国民も自ら税金を払っていないために予算プロセスや歳出についての関心がうすい。援助に依存する多くのアフリカ諸国の場合、政府の予算執行の説明責任はドナー側を向いており、国民には向いていない。

「平等は包含(inclusion)、不平等は排除(exclusion)」との観点から、最低課税限度の所得レベルを引き下げることにより、納税額の多寡に関係なく、納税者を増加させることが真の平等と公平な社会の実現につながるという議論がありますが、「税と開発」に関するムーア教授の説明はアフリカの「開発」を考える上で非常に重要な視点を筆者に教示してくれたと感じています。そして、タンザニアで出会った若手企業家の言葉は、かつてムーア教授の説明に共感したことを鮮やかに甦らせてくれました。

免税見直しによる税収増加──援助依存軽減への最重要課題

 2011年5月、タンザニア政府は「予算に占めるドナーへの依存度を現在の30%から2015年までに10%以下に軽減する」と発表しました。当時、在タンザニアの援助国・機関関係者の間ではタンザニア政府の発表を「楽観的すぎる」と冷ややかに受け止める見方が大勢でしたが、筆者は政府の「決断」と「覚悟」は十分に評価すべきであり、むしろ援助機関側は「出口戦略」を描きつつ、インフラ整備、農業生産性向上・農作物への価値付加、歳入強化・歳出引締め、民間セクター主導の経済成長のためのビジネス環境整備といった体力増強のための支援を通じて、タンザニア政府の「決断」と「覚悟」の実現を後押しする度量が今後試されていると考えました。

 タンザニア政府予算(7月開始/6月終了のサイクル)において、総歳入に占める海外援助の比率は、援助依存軽減の方針を受けて、2011/12年度:29%から2012/13年度:19%への大幅に低下しましたが、残念ながら、2013/14年度では20%とわずかに増加に転じています。しかし、タンザニアが財政自立に向けて援助依存を軽減するという目標を達成していく上では、税収増加が不可欠であり、特に透明性に乏しく、有効性が疑問視されている免税措置の大幅な見直し・撤廃が最大の課題です。免税措置の見直しにより増加する税収により、援助依存度を軽減させる一方、自国民・自国企業への説明責任を強化させつつ、民間セクター主導の経済成長を可能とするためのインフラ整備を進め、行政手続きの透明性を高め、教育・保健サービスの充実に通して質の高い労働人口を形成していくことが本来あるべき望ましい「開発」の方向性であろうと思われます。

 過去数か月の間にグローバル税制改革の新たな、そして大きく潮流が生まれましたが、ムーア教授が主張されるように、タンザニアやアフリカ諸国はOECDや新興国に歳入増につながる税制改革の成り行きを任せるのではなく、自国の政治家や富裕層の抵抗に屈せず、自らのオーナーシップで取り組める免税措置の抜本的な見直しや固定資産税の徴税強化を如何に達成できるのかが問われています。そして、それはタンザニアやアフリカ諸国が援助依存軽減を実現し、より望ましく、より健全な「開発」の在り方を探る上での最大の鍵であると思われます。

 

  【参考文献等】

  • 外務省ウェブサイト(「ロック・アーン宣言(仮訳)(2013年6月」、「税に関するG20サンクトペテルブルグ首脳宣言付属書(骨子)(2013年9月)」)
  • JICAタンザニア事務所ニュース(2011年8月号、2012年8月号、2013年7月号)
  • “Tax Competition in East Africa- A race to the bottom?:Tax Incentive and Revenue Losses in Tanzania”(June 2012, Tax Justice Network-Africa, ActionAid International and Policy Forum)
  • “Domestic Revenue Mobilization for Poverty Reduction in East Africa: Tanzania Case Study” (November 2010, Africa Development Bank)(アフリカ開発銀行は同報告書で税収を引き上げるための6つの課題として、(1)優遇税制・免税措置の見直し、(2)課税対象の拡大、(3)ICT活用、(4)専門官の育成・雇用、(5)徴税における汚職の最小化、(6)東アフリカ地域統合を踏まえた税制度、を掲げています)
  • NHK番組クローズアップ現代「“租税回避マネー”を追え 国家vsグローバル企業」(2013年5月放映)
  • コラムニスト
    黒田孝伸
    1959年佐賀市生まれ。九州大学法学部卒、英国サセックス大学開発研究所「ガバナンス・開発」修士課程修了。青年海外協力隊を経て、外務省及び国際協力機構(JICA)において、開発援助業務に従事。訪問国数80か国、うち長期滞在は6か国計17年間。現在は福岡でフリーランスの開発援助コンサルタントとして、ソーシャルビジネス、地域通貨、社会的連帯経済などの勉強会に参加しつつ、「開発」につき考察中。
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