廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第07回

ポルトガルの社会的経済基本法

 今回は、去る3月15日にポルトガル共和国議会で社会的経済基本法(原文(ポルトガル語)(日本語訳))が可決されたという、社会的連帯経済の推進の上で大きなニュースが入ってきましたので、それをお伝えしたいと思います。また、諸外国でもすでに類似の法律がありますので、その比較の上でポルトガル法が他国の法律と違う点について強調したいと思います。
 現在のところ、社会的連帯経済全体について規定した法律が国レベルで存在するのは、スペインの社会的経済法(2011年3月可決、原文(スペイン語)本文の日本語訳)、エクアドルの民衆連帯経済法(2011年4月可決、原文(スペイン語))、メキシコの社会的連帯経済法(2012年5月可決、原文(スペイン語))そして前述したポルトガルの社会的経済基本法(2013年3月可決)です。この4カ国の中でエクアドルの法律は、他国の社会的連帯経済法と協同組合法がセットになった内容ですので多少内容が違う一方で、スペインとポルトガルはどちらもEU(欧州連合)加盟国であることもあり、かなり内容が似ています。国内の地域レベルではベルギーやブラジル、アルゼンチンなどで同様の条例が可決されていますが、国レベルとしては今のところ上記4カ国に限られています。

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◀ポルトガルの社会的経済ポータルサイトの画面

 ポルトガル法は全部で14条という非常に短い法律ですが、他国の法律と比べるといくつか際立った特徴があります。まず一つ目に、社会的経済の団体のステイクホルダー(利害関係者)として構成員・利用者そして受益者の3者を想定しているということです。たとえば消費者に直接農産物を販売し、その利益のうち一部を地域内の老人介護NPOに寄付している協同組合の場合、構成員=その協同組合の会員(農家あるいは協同組合の従業員)、利用者=消費者そして受益者=老人介護NPOとなります。
 なぜこの3者の定義が大事かというと、同法第2条第2項で社会的経済の団体の活動について、「直接的であれ構成員・利用者および受益者の利益の追求を通じてであれ、社会的に意義のあるものである場合、社会の一般的利益の追求を目的とする」と定義されているからです。たとえば協同組合の場合には構成員および利用者の利益を主に追求し、慈善団体の場合には受益者の利益を主に追求したりしますが、ある団体の構成員だけではなく、団体外の人たちの利益のための活動を行う団体の意義をこの法律で認めている点は、注目に値するでしょう。なお、この3者についての記述は、この法律の他の部分でも見られます(例: 第5条方向原則のd:構成員、利用者あるいは受益者および一般的利益との間の利害調整)。
 次に、慈善団体が社会的経済の一部としてみなされている点でしょう(第4条)。他国の法律ではスペイン法でカリタス(カトリック教会系の慈善団体で、日本を含む世界各地に存在。参考: カリタスジャパン)、赤十字社(参考: 日本赤十字社)およびONCE(オンセと発音、スペイン盲人協会、ウェブサイト(スペイン語、英語など))という三大団体が特別扱いで社会的経済の団体として認識されている以外は、基本的に慈善団体は社会的経済の一員としてみなされていませんが、先ほどの記述のように受益者利益を重視するポルトガル法では慈善団体一般が社会的経済の団体として認められています。ちなみにメキシコ法では基本的に、生産・流通および消費活動を行う協同組合および労働者が株の過半数を保有する企業のみが社会的連帯経済の団体として認められており、エクアドルでも基本的に財やサービスの生産を行う協同組合、およびその金融部門のみが民衆連帯経済の団体として認められています。

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◀ONCEが販売している宝くじの一例。ONCEは宝くじの収益金で各種慈善活動を行っている。

 さらに、税制優遇措置規定が盛り込まれていることも注目に値します(第11条)。社会的連帯経済関係の公共政策として、関連団体への融資や公共機関による調達の際に社会的連帯経済の団体が生産した商品やサービスを優先的に購入するというものがありますが、税制面での優遇を盛り込んだのはポルトガルが初めてです。社会的経済の団体は公害や労働者酷使などによる外部不経済を極力出さず、逆に労働者や消費者などに対して一般的利益を出すよう努めていますが、その努力が税制優遇という形で報われることになるのです。
 とはいえ、他国の法律にある一方で、ポルトガル法には見られない特徴もありますので、それについていくつかご紹介したいと思います。

  • 地方分権が進んでいるスペインでは、全国単位のみならず自治州単位でも社会的経済の業界団体を設立して、各州政府の関連業務担当部署と掛け合うことができるようになっているが、(マデイラ島およびアゾレス諸島といった離島を別として)地方分権が進んでいないポルトガルではそのような制度については規定されていない。
  • スペイン法では、韓国の社会的企業に似た制度として包摂企業(基本的に非営利団体が株の過半数を取得し、障害者や長期失業者など雇用が得られにくい人たちに対して職業訓練を兼ねた一時雇用を提供する団体)が存在するが、ポルトガル法ではそのような団体に対する言及は見られない。
  • メキシコ法では、社会的連帯経済関係の政策を政府に推進させるよう働きかける常設の評議会の設立が規定されているが、ポルトガル法にはそのような規定は存在しない。
  • また、メキシコ政府側でも社会的連帯経済を管轄する官庁として国立社会的経済機構が設立されているが、ポルトガル法ではそのような官庁の制定については特に規定されていない。
  • エクアドル法では民衆連帯経済関連の金融機関も法律の適用対象となっているが、ポルトガル法では金融機関については特に規定されていない。

 いずれにしろ、今後この法律がどのように運用されているか、見守ってゆきたいと思います。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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