書名:拉致問題と日朝関係
著者:村主道美
発行:集広舎(2021年3月15日)
判型:A5判 上製 480ページ
価格:4,500円+税
ISBN:978-4-904213-95-7 C3031
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小社刊「拉致問題と日朝関係」の書評が雑誌「改革者」11月号に掲載されました。評者は特定失踪者問題調査会代表・拓殖大学海外事情研究所教授の荒木和博氏です。氏の許諾を得てここに転載いたします。
拉致問題・国交正常化に新視点
本書は拉致問題と日朝国交正常化問題を純粋に研究者としての目で分析したものである。
本書を読んでまず感じたのは「自分にはこういう本は書けない」というのと「研究者の目で拉致問題や日朝関係を分析した成果が今後さらに積み上げられなければならない」という二つの点だった。
評者はこの四半世紀拉致問題に関わっており、また朝鮮半島研究者としてメシを食っている人間である。そして可能な限り記録は残そうとしているのだが、やはり鉄砲を撃ちながら一方で「戦争とは」などと書くようなもので、当然客観性には欠ける。自分にとって都合の悪いことはどうしても避けてしまう。それが本書では第三者的視点から書かれることによっておそらく後世にも残る貴重な記録となっている。
運動をしている側の私自身が全く気付いておらず、本書から教示を得たことも少なくない。例えば「小泉第一回訪朝またはその直後の段階で、今まで北朝鮮が拉致を認めなかったのはなぜか、についての正確な答えを日本は北朝鮮に求めるべきであった」(347ページ)ということである。
拉致を認めてからの北朝鮮側の嘘(例えば被害者の死亡など)については日本国内で様々に検証されているのだが、実は拉致を認めるまで、北朝鮮は一貫して「拉致は日本の反動勢力によるでっち上げ」と言ってきた。これについては嘘だと分かった後、日本政府も国民もほとんど関心を払ってこなかった。
当時の状況を体験していない人には分からないと思うが、北朝鮮が拉致を認めて蓮池薫・祐木子夫妻、地村保志・富貴恵夫妻と曽我ひとみさんが帰国したことによって帰国したことによって帰国した五人と死亡とされた横田めぐみさんたちのことに関心が集中してしまい、その渦中にいた私たち自身、過去の嘘について全く頭の中から飛んでしまったのだ。
日朝交渉についても同様で、拉致問題をいったん措いて考えても、その経緯を冷静に分析すればこれがいかに非合理的なものか、国益にそぐわないものかは非常に良く分かる。
少し残念だったのは若干の事実関係の誤りがあったことで、例えば特定失踪者古川了子さんの拉致認定を求める訴訟で裁判所が訴えを棄却したとされている(292ページ)が、実際には政府側の約束を前提とした取り下げである。このあたりは私たちにひと言出版前に聞いていただければ、という思いもあるのだが、そうすればしたで客観性を欠いた可能性もあり、仕方ないことかもしれない。
ともかく、このような取り組みは私が知る限り初めてである。極めて貴重な書であり、拉致問題・北朝鮮人権問題に関わる人にとってはぜひご一読いただきたいと思う。本当は日朝国交正常化問題に関わる政治家や官僚にも読んでもらいたい本ではあるが、本書を読んでまともに理解すれば日朝国交正常化への動き(少なくとも現在の)に賛同はできなくなるだろうから、逆に読むことを期待するのは無理かもしれない。
なお、村主先生には評者が代表を務める特定失踪者問題調査会のオンラインのシンポジウムにご参加いただき、本書にまつわるお話を色々お聞きしている。YouTubeで何時でも見ることができるので、ご関心のある方はご覧いただきたい。