パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第81回

スペインの社会的経済のサテライト勘定

 スペインの社会的経済の研究者は長年、その意義を客観的に実証すべく、サテライト勘定(国内総生産(GDP)などでは把握しきれない経済活動を数値化した統計)の作成に勤しんできましたが、先ごろ初めてスペイン国家統計局(INE)が、2019年から2023年にわたる数値を発表(英語版/スペイン語版)しましたので、今回はその内容を分析しながら、スペインにおける社会的経済の重要度について分析してゆきたいと思います。なお、2023年の数値については暫定的なもので、正式なものは来年発表されるとのことです。また、全てのデータはこちら(英語版/スペイン語版)からご覧になれます。

スペイン国家統計局の社会的経済関係サテライト勘定のサイト(英語版)スペイン国家統計局の社会的経済関係サテライト勘定のサイト(英語版)

 2019年から2023年にかけてスペインの社会的経済部門が稼ぎ出した売上高は、2019年の1036.12億ユーロ(2019年末のレートで約12兆6300億円)から2023年の1207.01億ユーロ(2023年末のレートで約18兆8700億円)へと成長しました。日本円換算だとユーロ表示よりも金額の増大幅が大きくなっていますが、これはこの4年間で円安ユーロ高が進んだためです(2019年末時点では1ユーロ=121円94銭だったが、2023年末には1ユーロ=156円33銭にまで為替レートが変動。ご存じの通りその後さらにユーロ高円安が進み、2026年3月現在では1ユーロが180円を超える状態)。

 上記の売上高をスペインのGDPと比較すると、11.1%(2019年)から11.9%(2020年)の範囲に収まっています。2020年についてはご存じの通り、Covid-19の流行により世界経済が大打撃を受けた年でしたが、特に観光立国スペインにおいては観光客受け入れの一時停止に追い込まれ、深刻な影響を受けました。その一方でスペインの社会的経済は観光関連分野とはあまり関係がないことからその影響は比較的少なく、その結果2020年はスペインのGDPにおいて社会的経済が占める割合が増えることになったのです。

 この内訳をみると、一番多いのが協同組合(2023年の数字で465.72億ユーロ、2023年末のレートで約7兆2806億円、以下同様)、次いで財団・NPO(368.32億ユーロ、約5兆7579億円)で、その次に「その他事業体」の246.60億ユーロ(約3兆8551億円)が来ます。「その他事業体」は労働者持株会社、農業組合法人(農作物の加工を担当する法人)、社会的包摂企業、漁協(正確には、協同組合というよりもギルド的な側面があるものだが、実際上の運営は漁協といえるのでここでは漁協と記載)、社会的イニシアチブ障害者雇用センターや医師・専門職による共同経営組織をまとめたものですが、上記の売上高のうち半分近く(113.77億ユーロ、約1兆7786億円)が「農林畜産漁業」で、「製造業」(53.66億ユーロ、約8389億円)や「卸売業・小売業、自動車・二輪車修理業、運輸・郵便業、宿泊・飲食サービス業」(37.65億ユーロ、約5886億円)がそれに次ぐ形になります。

 また、業種別で数字を見ると、一番多いのが「製造業」(295.26億ユーロ、約4兆6158億円)で、「芸術、娯楽、レクリエーション業、その他のサービス業、家事使用人を雇用する世帯の活動、および自給自足のための世帯による財・サービスの生産活動」の223.68億ユーロ(約3兆4968億円)、「公務および国防、強制社会保障、教育、保健衛生および社会福祉事業」の191.56億ユーロ(約2兆9947億円)、「卸売業・小売業、自動車・二輪車修理業、運輸・郵便業、宿泊・飲食サービス業」の165.85億ユーロ(約2兆5927億円)が続きます。

 次に、社会的経済により生み出された粗付加価値は、2023年で544.24億ユーロ(約8兆5081億円)に達し、スペインのGDP比で4.0%になりました。この割合も、2020年は4.5%とより大きなものでしたが、Covid-19の流行が落ち着きスペイン経済全体、特に観光業が回復するにつれ、社会的経済の割合がCovid-19以前の水準に戻ったと言えるでしょう。

 法人形態別の内訳を見ると、一番多いのが財団とNPOの187.54億ユーロ(約2兆9318億円)で、僅差で協同組合が続き(186.99億ユーロ、約2兆9232億円)、その他事業体の125.80億ユーロ(約1兆9666億円)が続いています。ちなみに財団とNPOの収入源ですが、「芸術、娯楽、レクリエーション業、その他のサービス業、家事使用人を雇用する世帯の活動、および自給自足のための世帯による財・サービスの生産活動」(84.34億ユーロ、約1兆3185億円、そのうち芸術、娯楽、レクリエーション業が35.89億ユーロ、約5611億円で、その他サービスが48.45億ユーロ、約7574億円)と「公務および国防、強制社会保障、教育、保健衛生および社会福祉事業」(83.53億ユーロ、約1兆3058億円、そのうち保健衛生および社会福祉事業が47.42億ユーロ、約7413億円で教育が36.11億ユーロ、約5645億円)が主なものとなっています。

各種サーカスや演劇などを行うNPOアタネウ・ププラー・ノウ・バリス

 また、事業分野別の内訳を見ると、「公務および国防、強制社会保障、教育、保健衛生および社会福祉事業」(120.83億ユーロ、約1兆8889億円)が一番多く、次いで「芸術、娯楽、レクリエーション業、その他のサービス業、家事使用人を雇用する世帯の活動、および自給自足のための世帯による財・サービスの生産活動」(100.56億ユーロ、約1兆5721億円)、「農林畜産漁業」(97.13億ユーロ、約1兆5184億円)、「卸売業・小売業、自動車・二輪車修理業、運輸・郵便業、宿泊・飲食サービス業」(82.31億ユーロ、約1兆2868億円)、「製造業」(58.29億ユーロ、約9112億円)の順になっています。トップ2については、先ほど財団とNPOの内訳でも記述しましたが、行政や教育、医療や文化などが占める比重が大きい一方、それ以外では第1次産業や小売業などが比較的大きなことがわかります。その一方、社会的経済部門に携わる労働者の割合は2023年で127.67万人となっており、総被雇用者のうち5.8%を占めていますが、この数字も2020年には6.5%と、より高いものになっていました。

 この他、ボランティア活動についても本サテライト勘定では調査が行われ、2019年の14.0%(正式ボランティア7.8%+地域のボランティア活動6.2%)から2023年の15.7%(正式ボランティア10.3%+地域のボランティア活動5.4%)へと増えていることが明らかになっています。そして、これらボランティア活動による粗付加価値を金銭換算した場合、スペインのGDPの0.5%に相当すると結論付けています。

 今回何よりも重要な点は、スペイン政府の公式統計の一部として、社会的経済の数字が正式に発表されたことそのものが挙げられるでしょう。これによりスペイン政府自身が社会的経済部門の経済動向を把握することになります。政府自身が調べ上げ公表した信頼できるデータが、中長期的な経済政策の立案における基盤となり、そのおかげで既存の政策の検証や、今後における政策改善を行えるようになるわけです。日本では同様の統計を管轄するのは、内閣府の経済社会総合研究所(GDPなどを担当)や総務省統計局(経済構造統計などを担当)でしょうが、このような部署でサテライト勘定という形で社会的経済の数値が発表されるようになれば、日本でもそのあたりの政策立案において大きな手助けになることでしょう。そのためにはやはり社会的経済法(スペイン法に関して以前解説した記事はこちら)のようなものを制定して、社会的連帯経済がそもそも何であるのかを法的に定義する必要があると言えます。

 その一方で、今までスペインの社会的経済関係でよく言われてきた、「スペインの社会的経済はGDPの10%を占める」と言う表現が誇張であったことも明らかになりました。確かに社会的経済の各団体の売上高を足し合わせてスペインのGDPと比較すると、スペインのGDPの11%以上に相当しますが、その半分以上が仕入れなどの経費であることを考えると、社会的経済の実勢はより控えめなものとなります。社会的経済のさまざまな意義について強調したくなる気持ちもわかりますが、その価値について大袈裟にいうのではなく、あくまでも実態に基づいた数字で政策立案者や政治家などを説得してゆくことが大切になると言えます。

 以上、スペインの社会的経済を数値化する試みでしたが、日本の皆さんのご参考になれば幸いです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。