パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第78回

フランスの社会的連帯経済が目指すもの

 去る10月29日から31日にかけて、フランス・ボルドー市で第8回グローバル社会的経済フォーラム(GSEF、ジーセフ)が開催されましたが、今回は初のフランス開催ということもあり(フランス語圏であれば、カナダのモントリオールで2016年に、そしてセネガルのダカールで2023年に開催済み)、フランスの社会的連帯経済(英語の頭文字だとSSE、フランス語の頭文字だとESS。本記事では固有名詞を除き、基本的に英語の頭文字であるSSEを使用)関係者の人たちが数多く参加していました。その中でもフランス社会的連帯経済会議所(ESS France)が作成した社会的連帯経済発展全仏戦略(フランス語)という資料がありましたので、今回はこの資料をもとにフランスの方向性について見てゆきたいと思います。

社会的連帯経済発展全仏戦略の表紙社会的連帯経済発展全仏戦略の表紙

 フランスでは1981年に発足したミッテラン政権以降、政府がSSEの支援を行うことが少なくありませんが、それが制度化されたのが2014年に可決した社会的連帯経済法(同法に関する拙稿はこちら)です。この法律により業界団体と認定されているのがESS Franceであるため、この提案書はSSE関係者が目指す発展をまとめたものと言えるでしょう。

 まず、本提案書では、フランスにはSSE関係の団体が100万団体以上存在し、賃金労働者の1割、すなわち260万人がそこで働いていることを紹介していますが、その中には、カリブやインド洋、ニューカレドニアや仏領ポリネシアなどの海外県で働く5万5000人も含まれています(なお、海外県におけるSSEの展開については、こちらの報告書(フランス語)をご覧ください)。そのうえで、以下の4つの分野で重点的な活動を行うことを提案しています。

フランス海外県の位置(SSEネットワークが未結成の場所や無人地帯あり)フランス海外県の位置(SSEネットワークが未結成の場所や無人地帯あり)

成長

 既存分野の強化(子育て・介護、共済、民衆教育・文化、社会的包摂、古着のリサイクル、スポーツ)、新規分野の開発(マスコミ、デジタル分野、再生可能エネルギー、食、建設、交通)および模索(社会保護、AI、工業、マフィアからの接収資産の活用)。具体的には:

  • フランス政府が支出する予算枠の確保
  • 医療や子育て・観光などSSEによる事業が数多く立ち上がっている分野でのSSEの代表性を確保した上で、産業別協定と呼ばれる政府・業界・労組間での業種発展協定への参加
  • 地域ごとのSSEの生態系の強化
  • 公共投資銀行(BPI France)の活用
  • SSE分野の労働条件を公共サービスのものに合致
  • 営利企業のSSEへの組織転換
  • EUやフランスなどの教育戦略の中にSSEを包含
  • 経済活動による社会包摂分野で行政との連携推進
  • 古着のリサイクルにおけるSSE関連団体の優遇
  • 欧州委員会と共同で、GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)に代表される大企業以外が提供するITサービスやSNSなどの推進
  • 省エネ向けのリフォームでSSE関連団体を推進
  • 電力自給コミュニティの創設推進
  • SSE全体での農業支援、新規就農支援
  • SSEによるエコ建築や建材の再利用の推進
  • カーシェアリングの協同組合の推進
  • 操業を停止した工場を元従業員が買い取って労協として運営する「回復工場」の推進
  • 裁判所により差し押さえられた犯罪収益のうち最低でも10%をSSEに振り向け

着想

 日本と比べればSSE関係の法制度が充実している一方、一般市民のSSEの理解度はまだまだ今一つということもあり、市民教育やSSEそのものの推進を実施。また、営利企業と比べてSSE団体の従業員に占める若者(30歳未満)の割合が低いため、若者向けの雇用創出を実施。具体的には:

  • 各種教育機関のカリキュラムにSSEを追加
  • 社会人教育の中でも、特にSSE関連の業種におけるSSE教育を追加
  • 国家公務員や地方公務員にもSSE関連の教育を実施
  • 政府によるSSE推進広報キャンペーンの実施
  • 社会的包摂関連の事業への予算確保
  • 若者の意見が反映され若者に魅力的な雇用環境づくり
  • フランス大使館やフランス政府運営の語学学校(日本についてはこちらを参照)などを通じてSSEのビジョンをフランス国外に発信
  • フランス開発庁(AFD、日本のJICAに似た機関だが、フランス海外県の開発や開発銀行としての役割も果たす)を通じてSSEの事例を発展
  • SSEサマースクールの開催
  • 社会的効用が実証されたSSE団体に対する法人税の引き下げ

運営

 行政の活動の中心にSSEを据え、フランスの社会モデルへの貢献を計測。例えば、市民による取り組みの実施条件を保証し、フランス政府の省庁横断型モデルにおいてSSEへの配慮を保証し、SSE担当省庁を強化し、地方の公共政策にSSEを取り込み、行政パートナー向けにSSEのロードマップを割り当て、SSEサテライト勘定を通じて統計面でSSEへの知名度を強化。具体的には:

  • フランス政府内でSSE担当の大臣の任命
  • フランス政府のSSE政策の立案におけるSSE関係者の参加
  • 各県にSSE担当官の配置
  • 前述の公共投資銀行やその親元である預金供託金庫などによるSSEへの融資拡大
  • SSEサテライト勘定の作成

投資

 民間企業に対しては政府が多大な資金援助を行う一方、SSEの団体はそれに見合う支援を受けられていない(民間企業の1/50のみ)が、それにもかかわらずSSE団体は5年生存率が高い傾向にある(79%。なお伝統的企業の場合は61%)ため、普通の民間企業と同じ待遇をSSEの団体にも提供することや、その発展のために必要な手段の提供を政府に要求。具体的には、

  • SSE団体に政府が提供する支援金の増額
  • 企業付加価値連帯税(CVAE)が近い将来廃止されるが、SSE関係の従業員への給与税も同様に廃止
  • SSE団体専用のソーシャル・イノベーションツールの創設
  • ソーシャル・イノベーションの分野で大学や地域社会、そして国際協力の関係者と協力
  • スタートアップ企業への税制優遇を、SSE団体にも適用
  • SSE団体への融資に使える担保の枠組みを官民で共同開発
  • 融資を受ける際に中小企業が利用可能なツールをSSE団体も利用可能に
  • 協同組合に有利な税制の構築
  • SSE関係の補助金の分配担当団体としてESS Franceの指名
  • 補助金受給団体へのフォローアップの強化
  • 労働者持株会社への転換を推進する財務制度の構築
  • 連帯金融や地域通貨の推進

  
 提案自体は上記のもの以外にもさまざまなものがありますが、正直なところSSEの推進とは直接関係ない(たとえば自転車専用道の整備は、クルマ社会からの脱却という意味では正しい政策だが、これ自体がSSEの推進につながるわけではない)ものも数多いため、このあたりは差し引いて考える必要があります。しかし、持続可能性やデジタル社会化など、特にSSEを意識せず立案された政策が、結果としてSSEの活性化につながる場合、当然ながらこれを活用しない手はありません。子育て支援や高齢者支援、長期失業者などの社会包摂、古着のリサイクル(EU全体で現在取り組まれているテーマ)、省エネや再生可能エネルギーの推進、農業の活性化といったテーマは、SSEという概念が政治や行政の中で一般的には取り扱われない国(たとえば日本)においても重要であり、そういう国でも各省庁が担当することになりますが、社会的連帯経済法があるフランスではこれら分野の公共政策の策定において、SSEへの配慮を求める法的基盤があると言えるのです。

 また、SSE関連の啓発活動ですが、これについてはもうちょっと対象を絞ったうえで対象ごとにソーシャル・マーケティングを行う必要があると考えています。具体的には以下の感じです。

  • 若者、長期失業者、障碍者や移民など就職難民向けに: 雇用を獲得する手段としてのSSEの広報
  • スタートアップを目指す起業家向けに: 有限会社や株式会社ではなく、あえて労協や消費者生協として事業を起こすことで、より社会に貢献する事業体を創設可能
  • 公務員や教師、大企業職員など向けに: 基本的に失業の心配がない彼らは労協にはあまり興味を示さないだろうが、比較的高所得の人が多く、食やエネルギーなどに関心を持つ可能性が高いため、消費者生協の創設や加盟を呼びかける。また、勤務先が従業員向け研修を行えるだけの余裕がある場合があるので、それを通じてSSE全体の意義について意識づけを行う
  • 定年退職者または定年退職が近い年配の方向けに: 日本の高齢者生協の事例を紹介し、介護など高齢者特有の問題に自分たちで取り組み解決してゆくよう呼びかける
  • 環境保護や各種社会運動に取り組んでいる人向けに: 彼らが取り組んでいる社会面・環境面の課題の解決に役立つ道具としてSSEを紹介

 他にもSSE向けのターゲット層がいるかもしれませんが、いずれにしろそれぞれの人たちの興味関心を的確にとらえた上で、彼らの心に響くメッセージを適切なメディアで(たとえば若者向けならTikTokやInstagramで、年配の方向けなら紙媒体で)発信してゆくことも欠かせません。オンラインでSSEについての啓発を続けているサイトとしては、YouTube上で活動を行っているメキシコの動画制作協同組合ラ・コペラチャが挙げられますが、今後はより若者の多いSNSで、彼らの心をとらえるような広報戦略を採用することが欠かせないでしょう。

ラ・コペラチャが制作している動画の例

 個人的には、都道府県知事や政令指定都市の市長などの中でSSEに理解がある人が、定期記者会見ごとにSSEについて話題にすることで、新聞やテレビ局の記者など報道陣の間でSSEという表現を普及させ、この概念に対して関心を持ってもらうことも、戦略としてかなり有効であるように感じます。日本におけるSSEの推進において最大の障害は、そもそも政治家や行政マン、マスコミなど日本社会に多大な影響力を持つ人たちがSSEという概念そのものを知らず、SSEを話題にする人が少なすぎることなので、まずはSSEという概念を一般の人に知ってもらうべく、日本社会のインフルエンサーにその表現を使ってもらうことが欠かせないでしょう。

 さらに、この提案書ではフランスの在外公館やフランス語教育機関の活用も取り上げられていますが、これは日本におけるSSEの推進にも活用することができます。現在日本には東京にフランス大使館が、そして京都にフランス総領事館が存在し、東京、横浜、京都、大阪と福岡には日仏学院や日仏学館が存在していますが、日本のSSE関係者も機会があればこれら機関を訪れて、フランスのSSE関係者を日本に招聘して日本の実践例を訪問してもらったり、フランスの事例を日本に紹介してもらったりできないか相談するのもよいでしょう。

 その一方、財政支援や税制優遇措置などといった資金面での支援は、時の政権次第でその幅が大きく変わるような気がします。また、現在フランス政府は財政赤字の増大に苦しんでおり、節約が求められる一方、トランプ政権からは軍事費の増大を要求されており、そのような厳しい財政状況の中でSSE推進の予算をあまり捻出できない状況にあります。確かに要求すべき点についてはきちんと要求すべきでしょうが、フランス政府の懐に余裕がない現状を認識したうえで、それ以外の資金源についてもきちんと探ってゆく必要がある気がします。

 また、前回の記事では日本とスペインのSSEの強みを比較したうえで、日本のほうがスペインより進んでいる分野として「食品関係の消費者生協関連の各種活動に加え、医療生協や大学生協、そして介護の分野」を取り上げましたが、このような分野では、むしろ日本の先進事例をフランス人に紹介することでフランス側の関心を呼び起こし、日本から学んでもらえるような環境づくりをすることも大切でしょう。

 今の日本では、SSE全体を代表する業界団体による同様の戦略策定は夢物語でしかありませんが、このような取り組みが世界には存在することを知っておき、そのようなフランスからも学び続けることが、今後は欠かせないでしょう。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。