中国ネットジョーク

第06回

中国の官製ジョークはロシア支持

 2月に開戦し、世界に衝撃を与えたロシアのウクライナ侵略戦争は4月初旬の段階で首都キーウ近郊の町ブチャからロシア軍が撤退し、徐々に一般市民に対する非人道的行為が判明してきた。だがいまだ停戦には至ってない。
その中で中国メディアはウクライナでの非戦闘員に対する非人道的行為についてロシア側の意見を大々的に喧伝している。全ては西側、特にアメリカ側の陰謀や捏造によるものだと。アクセス制限のかかる中国国内ネットで許される言論もロシア擁護と反米である。
今回、ロシアの侵攻のタイミングを中国政府はあらかじめ知らされていたという説について、記者はその真偽を確認できない。だが少なくともロシアがウクライナに侵攻した翌日、翌々日にはウクライナを笑うジョーク集がいくつもアップロードされていたのは確認した。
ネットに散った数多くのミームやジョークになりうる発言を収集し、コラージュ画像を作り、動画を作成、編集、アップロードする手間と時間を考えれば、非常に短時間での動きは組織的な後援を疑うに十分ともいえる。
そのまとめ動画は侵攻から一カ月以上過ぎた4月初旬の記事執筆現在も削除されていない。中国でそれが何を意味するかは賢明なる読者の頭脳に任せたい。
 今回、日本からは伺い知る機会の少ない、もう一つの中国ネットジョークの世界、プロパガンダが疑われるものを『官製ネットジョーク』として紹介する。そこから今回の戦争について中国政府がどのような展開を期待していたのかも垣間見えてくるだろう。
 そして数はまとまっていないが、中共への反逆としてのウクライナ支持の皮肉や風刺も紹介する。
 中ロを隣国とする日本にとり、今日のウクライナは明日の自国かもしれない。何しろ駐日中国大使館総領事の本気のお言葉からして冗談じゃないのだ。
 では、悪い冗談のような中国総領事の本気のお言葉と、匿名反共の士の呟きをそれぞれ冒頭に置いて始めよう。

【平常運転】中国政府の本気は悪い冗談より性質が悪い

在大阪中国総領事『ウクライナ問題から銘記すべき一大教訓:弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売る様な愚かをしては行けないこと!』

匿名反共の士「ウクライナ国旗を掲げるのは中国への侮辱である」


解説:ウクライナ支持は反共。ゆえに中国の無数の匿名反共人士たちは、中国国内にあるウクライナ国旗色に見えた一瞬を記録に残し始めている。

 それでは、中国国内で許されているロシアのウクライナ侵攻に関するネットジョークを紹介する。出典はすべて、動画投稿プラットフォームbilibiliに投稿されたまとめ動画となる。動画ごとにタイトル、アップロードの日付、そして動画内のウクライナ侵攻に関する『ネタ』『ジョーク』を抜粋し解説をつけた。第4回までのネットジョークではジョークに対し、全篇通して連番をつけていたが、今回は動画ごとに番号を振った。また、人物写真の上にセリフ文を張り付けたコラージュの場合、その人物がセリフを発している形で翻訳した。

1.新しいウクライナ式ジョーク

2022年2月24日 タイトル原文「乌克兰新式笑话」出典

①大喜利だ! 全員集合!

「ウクライナ軍の装備は?」
「旧式~」
「露宇衝突(*)はいつ始まった?」
「旧時~」
「緊迫した情勢はいつまで続く?」
「長期~」

「開戦後ウクライナ人に不足したのは?」
「食だヨ」
「国連が何の役に立つ?」
「救(スク)いだヨ」
「中国の態度はどうなるか?」
「(機に)乗ずヨ」
「ロシア軍の総合的な戦略は?」
「速だヨ」
「前線指揮官は自身の任務を明確に認識してるか?」
「熟(ジュク)練ヨ」

「ロシア空挺軍はいつキーウに降下する?」
「すぐだヨ」
「ロシア軍のあの装甲はどれだけ速く進行したのか?」
「即だヨ」
「ウクライナは歴史上何処に繰り返し蹂躙された?」
「ソ独ヨ」
「開戦したらウクライナは結局何を得る?」
「損だよ」(負けるよ)
「お前そーいう感じにしか言えんのか」
「SOUDAYO」(日本語!)

*動画公開時、中国共産党の見方ではロシアのウクライナ侵攻による戦争は戦争ではなく『衝突』であった。中国政府の国内向け論調はまだ一貫してロシア側である。

原文:
“烏军的装备是什么样的?”
“旧式啊”
“俄烏冲突是什么时候开始的?”
“旧事啊”
“紧张的局势持续了多久?”
“久时啊”
“开战后乌克兰人会缺什么?”
“酒食啊”
“联合国会起到什么作用?”
“救世啊”(确信)
“中国的态度如何?”
“就势啊”

“俄军的总体战略是什么样的?”
“速打呀”
“前线指挥官对自己的任务清楚吗”
“熟的呀”
“VDV什么时候能空降基辅?”
“速达哟”
“俄军装甲不对推进速度有多快?”
“嗖的哟”
“乌克兰历史上被谁反复蹂躏过?”
“苏德哟”
“一旦开战乌克兰的最终结局如何?”
“输的哟”
“你只会回答这一句吗?”
“soudayo”

解説:
 この原文は地口としてよく練られており、一言返答が全て韻を踏んだものだった。翻訳でもなるべく語感を合わせるようにしたが、文意を通そうとすれば言葉遊びの面白さはある程度犠牲になる。
 また原文の落ちは本当に日本語を使っていた。
 ウクライナが故国防衛のため徹底的に粘り、西側諸国も協力体制にあったことでロシア側の即時終結の予定は破れ、中国側が手際よく用意していた悪趣味な嘲笑も意味をなさなくなったことが皮肉である。

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