パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第79回

今後の日本で伸びそうな社会的連帯経済の分野

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 さて、社会的連帯経済について私は以前から文章を書き続けていますが、今後の日本の状況を踏まえた上で、今後伸びそうな分野についてちょっと考察してみたいと思います。

 社会的連帯経済も経済活動の一員である以上、やはりその活動は実需の充足、つまり日本で本当に必要とされている商品やサービスの提供に主軸を置く必要があります。例えばお米が足りないのであれば田んぼを増やして何らかの形で稲作面積を広げたり、バスが減便されて日常の足に困るような地域では住民自身によりコミュニティミニバスなどを運営して、交通弱者でも病院やショッピングモールなどに行けるようにしたりするわけです。

 社会的連帯経済が盛んなスペインやフランスなどラテン系欧州諸国の場合、伝統的に失業率が高いことから失業対策として主に労働者協同組合(労協)の創設に労力が払われてきましたが、その一方で今の日本では失業率はそれほど高くなく、猫の手も借りたいという思いで外国人労働者を受け入れている業種も少なくありません。リクルートワークス研究所によると、2040年には1100万人もの労働者が日本で不足し、特に輸送・機械運転・運搬、建設、商品販売や介護サービスといった分野では、必要な労働力のうち3/4しか確保できないと見られています(人材不足がそれほど起きないのは事務、技術者、専門職部門のみ)。その一方で、さまざまな理由から正社員にはなれないものの、自分たちが望む形での働き方を求める人たちが労協を作る動きもあます。日本労働者協同組合連合会ではそのような、または他の社会的な願望を潜在的に持つ人たちが集まる場として「みんなのおうち」を日本各地に設立し、そこからさらなる労協を生みだそうとしています。

「みんなのおうち」の概要を示した図(日本労働者協同組合連合会のサイトより)「みんなのおうち」の概要を示した図(日本労働者協同組合連合会のサイトより)

 その一方、今後さらに少子高齢化が進む日本社会の状況を鑑みると、特に介護サービスの需要がさらに高まることは容易に想像できます。諸外国と比べて日本では、食品を扱う消費者生協や大学生協、そして高齢協や医療生協などが発達してきた歴史がありますが、そのような歴史を踏まえたうえで、地域の高齢者が必要とする介護サービスを調達できるよう、既存の高齢協をさらに発展させたり、既存の高齢協がない場所では新設したりすることが大切だと言えるでしょう。

 しかし、介護サービスを提供する協同組合については、労協として設立することも可能であるため、消費者生協としての高齢協との違いに注意する必要があります。消費者生協として設立した場合、組合員は介護サービスの消費者として参加することになるため、消費者の求めるサービス(できれば低額で24時間対応可能など)を組合に求める傾向とになる一方、労協として設立した場合、介護労働者が組合員になるため労働者としての権利を組合に求めることになり、同じ協同組合による介護事業でも、その目的はかなり異なったものになります。スペインなど諸外国であれば、労働者と消費者の両方を組合員として受け入れる協同組合を設立でき、その場合にはお互いの要望を総会などの場で擦り合わせることが可能ですが、日本にはそのような制度がないため、どちらかだけが組合員になることになってしまいます。実際には労協であっても消費者の意向を、逆に消費者生協であっても介護労働者の意向をある程度取り込まないと協同組合として運営できませんが、消費者生協と労協のどちらの法人格を選ぶかによって、その性格が大きく異なってくることは理解しておいたほうがよいでしょう。

 また、前述のような労働者不足により今後の日本ではさらに外国人労働者の受け入れが進むことでしょうが、その外国人労働者の前に立ちはだかる問題として、転職のしづらさが挙げられます。日本では、永住権を手に入れるか日本人または永住権を持つ外国人と結婚しない限り、就労ビザを持っていても特定の活動しかできず、たとえばスポーツ指導者として日本で働き始めた人が調理師に転職したいと思った場合、在留資格を変更しなければならず、かなり面倒な手続きが必要となります。また、永住権を手に入れるには10年以上日本に住み続けなければならず、それまでの間に在留許可の更新に失敗した場合には日本を離れなければなりません。しかし、さまざまな業種で人手不足が深刻になっている現在の日本の状況を考えれば、正直そんな厳しい要件を課すよりも外国人にさらなる職業選択の自由を与えて、たとえばスポーツ指導者として来日したものの、職を失って路頭に迷っている外国人でも簡単に調理師になれるようにしたほうが、最終的に人手不足の解消につながる気がします。

 外国人の雇用の柔軟化について話をしたのは、これが日本におけるSSEの発展とも関連するためです。今後の日本ではさまざまな分野で人手不足が深刻化しますが、これにより農協や消費者生協など各種協同組合、または医療生協や介護組合などにおいても外国人を雇う必要性に迫られる可能性が低くありません。日本の入管法を改正して数年以上日本に住んでいる外国人に職業選択の自由を認めるのが理想ですが、それが無理であれば協同組合側が在留資格の変更要件を熟知したうえで手続きをできるだけスムーズに進めたり、あるいは協同組合側でこの分野に強い行政書士と協力したりして、必要な人材を確保する必要があるでしょう。

 さらに、この10年ほどで来日観光客が非常に増えましたが、その一方で日本の社会的連帯経済の中でこれをビジネスチャンスととらえ、外国人関係で宿泊や飲食、あるいは日本ならではの体験(例えば和菓子作りや茶道、酒蔵探訪や日本の家庭料理講座など)などのサービスを行えているところは少ない気がします。日本風のおもてなしが必ずしも外国人に気に入られるとは限らない場合もあるので、そのあたりはある程度アレンジが必要ですが、今後も日本経済の中で順調な成長が期待できる数少ない分野として観光業が有望である以上、社会的連帯経済のほうでもこの分野での取り組みを模索し、労協などの形で宿泊施設を運営してみる価値はあるでしょう。また、外国人観光客の受け入れの際には、英語や中国語、韓国語など外国語での応対に加え、日本人だと気づかない外国人ならではの感性が大切になるので、こういう事業を起こす場合に外国人を積極的に雇い入れ、彼らの視点を取り入れることが欠かせないはずです。なお、ChatGPTに質問してみたところ、インバウンド観光客に人気の日本ならではの体験には以下のものがあるようが、この中には日本国内の協同組合やNPO関係者でも比較的始めやすいものがあるはずです。

  1. 伝統文化・和文化の体験: 茶道体験、書道体験、着物・浴衣の着付け体験、和菓子作り体験、華道体験、座禅(禅寺での瞑想)
  2. 伝統工芸を学ぶ・作る体験: 陶芸(ろくろ体験)、金箔貼り(金沢)、藍染め体験、和紙作り(手すき体験)、木工・箸作り、刃物研ぎ体験(堺など)
  3. 食文化に関する体験: 寿司作り体験、居酒屋はしご体験、日本酒テイスティング、味噌や醤油の醸造見学、精進料理体験
  4. ポップカルチャー・現代文化: アニメ聖地巡礼(秋葉原、池袋、京都)、カラオケ体験、ゲームセンター(プリクラ、クレーンゲーム)、メイドカフェ・コンセプトカフェ、マンガ喫茶体験(短時間利用)
  5. 自然関係の体験: 富士山麓でのトレッキング、里山ハイキング、雪遊び・スキー体験(北海道・長野)、棚田や茶畑の風景撮影ツアー(静岡・京都)
  6. 伝統的な地域生活の体験: 忍者体験・忍者道場(欧米に大人気)、侍/剣道・居合道体験(演武・模擬刀を使う)、農業体験(田植え・稲刈り)、漁村で魚の干物づくり体験、民宿・古民家ステイ
  7. 祭り・年中行事の体験: 夏祭りでの盆踊り参加、雪まつり(北海道)、秋の紅葉狩りツアー、春の花見体験(ガイド付き)
  8. 交通・乗り物系: 新幹線に乗ること自体が「体験」扱い、観光列車(例:ろくもん、黒部峡谷トロッコ)、人力車(浅草・京都)

 この他、今後の日本で増えそうな需要として挙げられるのが、住宅のリフォームです。新築の一戸建てやマンションを買う予算がない人を中心に、中古の住宅を買ってそれをリフォームし、今風の住みやすいものにしたり、または高齢になった人たちが自宅のバリアフリー化を希望したりといった需要が高まる可能性があります。スペインの社会的包摂企業や協同組合の中には、社会的疎外の危機にある人たちを雇い入れて社会的包摂を実現しているものがありますが、その中には、労協であるラ・ドゥベリャ(カタルーニャ州タラサ市)や、以前も取り上げた社会的包摂企業であるフルマシオー・イ・トレバイ(バルセロナ市近郊に本部)などのように、建設業やリフォームに取り組むものもあります。

建築や家屋のリフォームに取り組む労協として
社会的包摂を行うラ・ドゥベリャのウェブサイト建築や家屋のリフォームに取り組む労協として
社会的包摂を行うラ・ドゥベリャのウェブサイト

 他にも、スペインや韓国など諸外国のほうが発展している事例(たとえば再生可能エネルギーや倫理銀行)の中で、日本でも応用可能なものもあるでしょうが、個人的に特にその重要性を強調したいのは、社会的連帯経済関連の報道機関を設立し、日本社会に向けて広く情報を発信してゆくことです。その方法としては伝統的な雑誌、オンラインニュースサイト、YouTubeやInstagram、Tiktokのチャンネルなどさまざまな方法があるでしょうが、日本社会における社会的連帯経済の認知度を高めるには、このような分野での活動を増やし、特に若年層にそのコンセプトを知ってもらうことが欠かせないと言えるでしょう。

 今年も何かと大変な1年になると思いますが、今回の記事から社会的連帯経済関係者が、今後の発展に向けた何らかのヒントを見つけていただければ幸いです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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