パラダイムシフト──社会や経済を考え直す

第77回

日本とスペインの社会的連帯経済を比較する

 本連載では、私が在住するスペインの社会的連帯経済について数多くの記事を発表していますが、社会的連帯経済が幅広い分野に及ぶ以上、スペインのほうが強い分野もあれば、逆に日本のほうが強い分野もあります。今回は、両国の社会的連帯経済を比較して、両国の強みを描き出した上で、両国間でどのような協力体制が模索できる考察してみたいと思います。

 社会的連帯経済にはいろんな団体が属しますが、その経済規模から主役となるのは協同組合です。日本にもスペインにもさまざまな協同組合が存在しますが、両国におけるその生態系はかなり異なったものになっています。そのあたりを見てゆくことにしてみましょう。

 まず、古典的な協同組合の理論に基づいており、協同組合運動によって最も基本的な存在といえる、労働者協同組合(労協)について見てゆきたいと思います。普通の会社に勤める場合、その会社の従業員として上司から与えられた仕事をひたすらこなす一方、その会社の経営方針を決めるのは株主総会や、その株主総会で承認された取締役会であり、一般従業員はそこには関われません。しかし労協の場合は、労働者組合員自身がその労協に出資していることもあり、総会には組合員が参加して一票を行使することができます。また、特に小規模の労協の場合、総会や取締役会と関係なく日頃から組合員全員で運営方針について話し合うことで、組合員の事情に合った経営方針を採用することができます。

 労協については、スペインのほうが日本よりもはるかに活発だと言えるでしょう。スペイン労働者協同組合連合会(COCETA)によると、2023年現在で労協は1万8941団体存在し、31万9039名の雇用を生み出しています。その中でも、バスク州で1956年に発足し、今では7万名もの従業員を抱え112億ユーロもの売上額(2024年)を誇る巨大グループへと成長したモンドラゴンについては、日本を含む世界各地で長年話題になっています。その一方、日本では2022年10月に労働者協同組合法が施行されるまで法制度が存在しなかったこともあり、現在でもその認知度は低いままです。厚生労働省のサイトによると、2025年11月1日現在で労働者協同組合は36都道府県において173団体が設立されていますが、逆にいうと11県(青森県、秋田県、岩手県、福島県、富山県、石川県、香川県、高知県、長崎県、大分県、宮崎県)においては未だ労働者協同組合が存在していないことになります。

 農協については、日本もスペインも同じように大きな存在感を発揮していますが、JAが一元管理している日本と比べると、スペインでは基本的に州ごとに、そして分野ごとに(酪農、オリーブ、ワイン醸造、果物など)別々の農協が存在しており、場合によっては同じ地域に住んでいる同じ業種の農家でも、ある農家はA農協に、別の農家はB農協に加盟することができます。スペイン農協連の数字によると、2022年時点で3669組合が存在し、全国で100万人以上の組合員を擁し、その売上高は432.07億ユーロ(2022年末のレートで約6兆0775億円)となっています。2022年のスペインのGDPが約1兆3759億ユーロ(同じく約193.5兆円、ちなみに日本のJAの売上総額は、2024年度で5兆1286億円)だったので、スペインのGDPのうち約3.14%を農協だけで稼ぎ出していることになるわけです。確かに日本よりも広大な国土を有し(50万5944平方キロ。なお日本は37万7974平方キロなので、日本よりも1/3ほど広い)、そのうちかなりの部分が農業に適した平原などであるという事情もありますが、スペインの人口が日本の2/5程度でしかないことを考えると、かなりの金額だと言えるでしょう(農業大国のフランスはこの倍以上の金額を稼ぎ出しているようですが)。

スペイン農協連の数字スペイン農協連の数字

 生協については、日本とスペインがそれぞれ独自の発展を遂げています。スペインにも消費者生協は数多く存在し、2024年には103億9781万ユーロ(2024年末現在のレートで約1兆6955億円)の売上高を記録していますが、スペイン消費者生協連によると、そのうち100億3366万ユーロ(約1兆6361億円、96.5%)が二大生協であるエロスキ(モンドラゴン系)とコンスム(バレンシア州に本部がありカタルーニャ州やムルシア州にも存在)のものであり、それ以外の消費者生協は比較的小さなものとなっていますが、学用品や電力分野の分野で比較的存在感を発揮しています。また、私自身もコンスムの組合員で、日頃コンスムで買い物を行っていますが、その店舗は普通のスーパーとそれほど変わらず、日本の消費者生協のような運動性はあまり見当たりません。他にも、分類上は消費者生協にはなりませんが、教育協同組合(中学校や高校、大学などを運営する協同組合)も存在し、スペイン教育協同組合連合会によると600ほど組合が存在し、27万7000名ほどの児童・生徒や学生に教育を提供していますが、日本ではこのような存在は見られないことから、かなり注目に値するものだと言えるでしょう。

 それに対し日本の消費者生協分野では医療福祉生協の存在感が強く(スペインにも一応あるが日本のほうがはるかに大きい)、2025年4月1日現在で96もの生協が存在しており、2024年度には約3532億円もの事業高を記録しています。さらに、世界的に見ると日本の大学生協も独自の存在感を発揮しており、全国大学生協連によると2024年3月末現在で大学生協が207組合、そしてインターカレッジコープ(学内に大学生協が存在しない大学の学生や教職員を対象とした生協)が5つ加盟しており、2023年2月決算で約1402億円の売上高を記録しています。スペインには大学生協に相当するものがないので、日本の事例は非常に興味深いものだと言えるでしょう。

 さらに、生協の一部として、高齢者生活協同組合(高齢協)の存在も忘れるわけにはいきません。日本高齢者生活協同組合連合会によると、現在17組合が同連合会に加盟しており、5万人ほどの組合員を擁し、事業規模は約70億円となっています。高齢協は、中高年向けの雇用創出や生きがいづくりの活動、そして介護サービスまでさまざまな活動を行っていますが、高齢者のニーズに特化した協同組合はスペインではまだまだ少ないため、今後これらの事例がスペイン側の興味関心を呼ぶことになるかもしれません(手前味噌で恐縮ですが、日本の協同組合による介護事業について、カタルーニャ労協連発行の雑誌Nexeの第54号に寄稿させていただきました)。

 他にも、社会的連帯経済において忘れてはならない分野として、金融機関が挙げられます。日本で言えばJAバンクや信用金庫、労働金庫がこれに相当しますが(スペインであれば信用金庫や労働金庫は金融協同組合として協同組合法の枠内で取り扱われる)、この分野ではスペインなど欧州各国では、倫理銀行と呼ばれる事例が発達していることを見逃すわけにはいきません。倫理銀行とは事業への融資を行う際に、事業そのものの採算性のみならず、環境や社会に対するインパクトも審査したうえで合格した事業にのみ融資を行うものであり、それにより確実に社会や環境のためになる事業に資金が提供されるようになるものですが、ヨーロッパではこの範疇に属する銀行として、オランダで発足し現在は欧州5か国で営業を行っているトリオドス銀行やドイツのGLS銀行、フランスのLa NEFやイタリアで発足しスペインでも活動を行っているバンカ・エティカ(スペインではフィアーレという営業名を使用)、そして倒産したマンガ本の出版社の元従業員が失業保険としてもらっていたお金の一部を出資することで創設され、今年(2025年)に30周年を迎えるCoop57Coop57の30周年に関するレポート記事(スペイン語)はこちら)が挙げられます。倫理銀行に相当する日本の存在としてはNPOバンクが挙げられますが、預金残高がせいぜい数億円の日本のNPOバンクと比べ、数百億円の預金残高を有するスペインの倫理銀行のほうが、規模がそれなりに大きく成長していると言えるでしょう(100兆円以上の預金残高を誇る日本のメガバンクと比べれば、確かにちっぽけな存在ではありますが)。

 スペインの協同組合運動の中でも、特に注目する価値があるのは、バルセロナ市サンツ地区でしょう。特にマドリードやバレンシアなどから鉄道でバルセロナを訪れたことのある方であれば、同市の中心駅であるサンツ駅に立ち寄られたことと思われますが、この駅のあるサンツ地区はもともと繊維工場などが立ち並ぶ労働者地区でした。そのことから労働組合運動も盛んで、その関係から20世紀初頭に創設された消費者生協の建物が2つ現存し、そのうち1つは前述のCoop57や協同組合の各種連合会の事務所として現在使われています。また、1平方キロ程度の面積しかないこの地区には30を超える協同組合が集結しており、地域全体で協同組合運動を盛り上げている様子についてはこちらのサイトでご覧になれます。

サンツ地区の協同組合マップ(sants.coopより)サンツ地区の協同組合マップ(sants.coopより)

 とはいえ、社会的連帯経済を構成するのは協同組合だけではありません。国際的な社会的連帯経済の定義としては、2022年6月のILO決議の中のもの(和訳文はこちら)が挙げられますが、その定義に従って考えれば、協同組合やNPO、財団や共済組合以外の団体も社会的連帯経済の仲間だということができます。例えば日本全国各地にある社会福祉協議会は、基本的に非営利であり、行政から独立した形で、かつ福祉という公益のために活動していることを考えれば、十分に社会的連帯経済の一員だと言えるでしょう。また、スペイン赤十字社も社会的経済の構成団体と一般的にみなされていますが、その理屈から考えればやはり類似の目的でさまざまな活動を行っている日本赤十字社についても、社会的経済の構成団体として位置付ける価値はあるでしょう。

 このように、日本とスペインにおいては、各国社会の特徴などもあり、社会的連帯経済においても得意とする分野にかなりの違いがあります。スペインは、労協や農協、そしてエネルギーや学用品などの消費者生協、そして教育協同組合や倫理銀行が強い一方で、日本では食品関係の消費者生協関連の各種活動に加え、医療生協や大学生協、そして介護の分野においてスペインよりも進んでいると言えます。社会的連帯経済分野における国際交流においては、そのような社会構造の違いについても認識しつつ、自国の社会的連帯経済の発展のために相手国の先進事例をどのような形でアレンジして採り入れられるかについて、相互理解を深めつつ検討を重ねてゆくことが欠かせないでしょう。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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