アジアから見る日中

第19回

無くなっていく「ジャンパン・アドバンテージ」

台北に残る日本家屋

▲台北に残る日本家屋

 初めて海外へ行ったのは1984年、場所は台湾。日本からフラフラやってきた若者に対してご飯をご馳走してくれたり、お土産をくれたり、バイクの後ろに乗せてくれたりと、台湾の人々は想像できないほどに暖かく迎えてくれた。何と日本人に優しいのかと感激したことを昨日のことのようによく覚えている。それから30年余り、アジアの20数ヵ国を訪ねて思うのは、「日本人だから」いうだけで厚遇してもらえる有難さ。「日本人でよかった」と感じたのは1度や2度ではない。筆者はこれを勝手に「ジャンパン・アドバンテージ」と呼んでいるが、アジア各国の日本人に対する見方は実際どうなっているのだろうか。

アジアは基本的に親日

 日本人だというだけで、笑顔になってもらえる、それはアジアで旅をする者、仕事をする者にとって、どれだけありがたいことだろうか。実際アジアのどこへ行っても「日本人だから」という理由で邪険にされたことはほとんどない。むしろ怖いほどに無条件に歓迎される雰囲気すらある。これが中国人や韓国人ではそうはいかない。中国人がマナー違反をすればもちろん、ただ中国人だというだけで露骨に嫌な顔をされる姿をしばしば目撃している。しかしそれがなぜなのか、我々はもう一度問い直してみる必要がある。

 アジアで親日国と言われているのが、ミャンマー。敬虔な仏教国であるこの国で、一般庶民の日本人に対する視線はかなり優しい。歴史的には第二次大戦中、日本軍が多大な迷惑をかけたにもかかわらず、敗走する兵士に食料を与えるなど、慈悲に溢れた対応があったと聞く。戦後はその兵士、遺族たちがミャンマーへの民間支援を行い、それは現在まで続いており、何となく気持ちが通じ合う関係がある。政府間ではなく、人と人が直接触れ合う関係、そしてそこで見られる日本的な礼儀、律義さなど、先方にも好印象を残しているように思われる。

トルコ アンカラのクルド人商人も日本を聞くと笑顔に

▲トルコ アンカラのクルド人商人も日本を聞くと笑顔に

 トルコも、無条件に日本を礼賛する国ではなかろうか。今でも日露戦争でバルチック艦隊を撃破した東郷元帥の名前が、普通のおじさんの口から飛び出してきて驚くこともある。トルコにとっては、隣の大国ロシアの脅威、というものの裏返しとして、そのロシアを破った勇敢な日本、という好印象が付いてくる。さらには第二次大戦後、荒廃した国土から現在のような発展を見せた国、電化製品など、ヨーロッパ製と比較しても素晴らしい品質を持つ革新的な日本に魅了された、という人々も多かった。日本の団結力、勇気への評価もそこにあった。ただしトルコの親日はミャンマーとは違い、トルコ側の一方的な思い入れがかなり強い。日本の現状などはあまり認識がない中、歴史的な繋がりで印象が決まっており、日本人と接する機会が多いとも言い切れない。

 またタイなど東南アジアでも、「日本の技術力の高さ」「欧米に対抗できる経済力」への憧れが強く見られ、これまで快く受けて入れてもらってきた。この地域は華人との関係からか、中国系に対するアレルギーもあり、その裏返しとしての親日もあるように思う。香港、台湾、韓国、中国の企業に比べて、日本企業の海外の「ゆるさ」が幸いした面もあり、良好な経済関係が続いていると言えるのではないだろうか。

バンコックは日本ブームだが

◀バンコックは日本ブームだが

中国・韓国は反日か

 中国に日本人観光客が行かなくなった、と言われて数年が経つ。どうも反日暴動の印象が強烈すぎ、さらには大気汚染、食の安全など、行かない理由はいくらでも挙げられるが、中国国内は本当にそんなに反日だったのだろうか。筆者は2012年9月の暴動1ヵ月後に、南京と長沙という、いかにも反日的と思われる2都市を訪問したが、一般の中国人からは、「日本人だから」という理由で不快な思いをさせられることはなかった。

 確かに中国政府は「安倍政権を非難していた」が、中国人は日本人を特に非難してはいなかった。ただ特に親日的とか、日本人が好き、という感じも受けない。筆者が接してきた多くの中国人は、日本人に会うのが初めてであり、日本をよく知らないという戸惑いが感じられた。その中国人が最近は観光客として日本に大挙して押し寄せており、爆買いもしているが、日本各地に行き、日本に触れ、理解を高めてきており、日本への好感度は確実に上がってきている。

 韓国も同様で、一般観光客としてソウルなどを訪れると、言葉が全く通じなくても、そのホスピタリティは日本以上のものが感じられる。そして一部過激な発言する人たちもいるようだが、商業ベースでは日本の良いところは即座に取り入れるなど、常に日本を意識している様子が感じられる。

ミャンマー バゴー 日本兵の遺族が寄贈したミニチュア鎌倉大仏

▲ミャンマー バゴー 日本兵の遺族が寄贈したミニチュア鎌倉大仏

アドバンテージがなくなっていく

 実はアジアにおいては、日本の良いところばかりが見られたわけではなかった。日本人は一般的にアジア諸国を自分より低く見てきた傾向がある。上から目線、その意識もあり、アジアで横柄な態度を取る日本人も決して少なくなかった。

 親日的なアジア人でも、ビジネスにおいては、そこは商売。ニコニコしながら、日本の資金、技術を欲していた。日本人は一度信じると疑わない、任せ切るなどの弱点があり、失敗して日本へ帰った人も多いが、ビジネス失敗の理由を「中国人に騙された」「法律が滅茶苦茶で仕事にならない」など、アジアの責任にしてきた部分がある。実際よく確認してみると、半分以上のケースは自らの不注意だったり、信頼しきって確認を怠ったり、果ては現地にいる日本人に騙されたりしている。地元でもこのような日本人経営者に対する評判は当然芳しくない。

 そして最近特に感じるのは、我々の諸先輩が築き上げてきた「日本の信頼」が少しずつ剥げ落ちてきていることだ。これまでは一部に横暴な日本人がいても、一般の日本人はやはり礼儀正しかったが、経済成長を背景にしたモラルの破壊など、日本人の良さが感じられなくなってきている、と現地で偶に聞くようになった。

 さらにはアジア諸国の経済成長が大きい。これまで日本の良い面から悪い面を差し引くとプラスになっていたと思うが、これからはマイナスになっていきかねない。その時に現状の中国と同様に金のバラマキで関心を惹くようなことを続ければ、ますます信頼を失う、それを一番に危惧している。日本の海外との付き合い方は「経済中心」から変わらなければならないが、そのためにはまずは日本人が「日本の本来の良さ」を再確認する必要がある、と思う。

コラムニスト
須賀努
1961年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。金融機関在職中に、上海語学留学1年、台湾地場金融機関への出向2年。香港駐在合計9年、北京駐在合計5年では合弁会社日本側代表。合計17年の駐在経験を有し、日経BP社主催『中国ビジネス基礎講座』でトータルコーディネーター兼講師を務める他、進出企業向けアドバイスを行う。日本及びアジア各地で『アジア最新情勢』に関する講演活動も行っている。 現在はアジア各地をほっつき歩いて見聞を広めるほか、亜細亜大学嘱託研究員、香港大学名誉導師にも任ぜられ、日本国内及びアジア各地の大学で学生向け講演活動も行っている。 時事通信社「金融財政ビジネス」、NHK「テレビで中国語テキストコラム」など中国を中心に東南アジアを広くカバーした独自の執筆活動にも取り組む。尚お茶をキーワードにした旅、「茶旅」を敢行し、その国、地域の経済・社会・文化・歴史などを独特の視点で読み解き、ビジネスへのヒントとしている。
関連記事