アジアから見る日中

第20回

「おもてなし」か「おせっかい」か

和服を着た台湾の若者と浅草で

▲和服を着た台湾の若者と浅草で

 2020年のオリンピック開催が東京に決まった時から、「おもてなし」という言葉が流行語になった。それ以来、何でもかんでも「おもてなし」が使われているような気がするが、筆者にはかなり違和感がある。もちろん日本の高級旅館の女将の振る舞いなどは見事なのかもしれない。でもそれはもてなす相手が日本人、しかもある程度地位や金がある人を対象にしているのではないか。おもてなしをするには相手のニーズがある程度以上分かっていることも重要な要素だと思うのだが、外国人をもてなす場合、この視点での話が少ないのはなぜだろうか。

 また正直言って、現在の日本の一般的なサービスレベルは、以前と比べて良くなっているとは言えない。来日した中国人から「コンビニでの丁寧な対応に感銘した」との話も聞いたが、確かに言葉遣いや態度は丁寧だが、単にマニュアル通りやっている人が多く、応用は効かないし、柔軟性はあまりないと感じ、残念だな、と思うことが多くなっている。「マニュアル主義」は、均一なサービス提供であり、おもてなし、とは違うだろう。昔はこうではなかったが、などというのは、歳を重ねたせいだろうか。

地下鉄のエレベーターへタイ人家族を案内

◀地下鉄のエレベーターへタイ人家族を案内

 実は最近「おせっかいジャパン」というプロジェクトにご縁ができ、2度ほど参加してみた。これは急増する外国人観光客が東京に来て、道が分からないなど、困っている場合、ボランティアで対応する活動だ。最近は主要駅の出口で必ずと言ってよいほど、スマホや地図を片手に、レストランやホテルなどへの行き方を探している外国人を見かける。彼らに対して、先方から道を聞かれる前に、外国語で積極的に声をかけ、その要望にできる限り応えている。

 このプロジェクトは、代表で筆者と同い歳の鬼内秀起さんと、現役大学生など若者たちが問題意識を共有して、誰に言われることなく、勝手に?始めたというのが素晴らしい! 情報発信にも力を入れた結果、この活動はどんどん大きくなっており、参加したいという気持ちを持つ人も増えているという。多言語対応というもの面白い。中国や韓国、ヨーロッパなどから来ている留学生も参加しており、昔海外に住んでいた、何らかの語学ができるという日本人と一緒に活動している。留学生にとっては、この活動を通じて、日本を知り、日本人を知るとても良い機会になっていると感じられる。国際交流、友好などというものは、言葉で発するのではなく、皆で動けば、自ずと出来上がるものだ。

新宿の国際映画祭で来日した映画関係者と

▲新宿の国際映画祭で来日した映画関係者と

 初めて参加した時、いきなり地下鉄の中で、筆者と同世代の日本人女性がポルトガル語で、ブラジルから来た観光客に浅草を紹介していたのには驚いたが、英語、中国語、韓国語などは当然として、メンバーの中にはスワヒリ語ができる人もいる。観光客の要望もかなり多様で、即座に対応できないこともあるが、その時はこれまでの経験とスマホを駆使して、ボランティアと観光客が一緒に考えている場面も見かけ、それもまた面白い。

 ちなみに観光客の要望の中には、「あなたのお勧めのお寿司屋さんはどこ?」とか、「渋谷って楽しいの?」などと聞かれ、答えに詰まることもある。だがこれこそマニュアル対応ではない、個人の感性が発揮される場ではないか。さらにはスーツケースの入るコインロッカーの場所、地下鉄に降りるためのエレベーターの場所、電車のチケットの買い方、チャージの仕方など、これからオリンピックまでに整備しなければならない課題が多く出され、とても勉強になる。

 東京の主要駅の複雑さは日本人でも迷うほど。表示に外国語があったとしても、駅のアナウンスなどに外国語がないので、乗換に困っている外国人は多い。正直いきなり外国語で質問されたら、どれだけの日本人が対応してくれるのだろうか。繰り返し説明をしてみたが、それでも彼らが無事に目的地に着くかとても心配であった。そんな気持ちになるだけでも、この活動に意義を感じる。

チケットの買い方をマレーシア人に英語と中国語で教える

◀チケットの買い方をマレーシア人に英語と中国語で教える

 この活動でポイントだと思うことが2つある。1つは「日本への信頼の高さ」だ。もしこの活動がインドのニューデリーやインドネシアのジャカルタで行われたら、どうだろうか。上海や北京ですら、いきなり現地人に日本語で声をかけられたら、まずは警戒してしまうだろう。もちろん新宿でも不審に思う外国人はいたし、有料かと聞いてくる人はいた。ただメンバーの誠実な対応とお揃いのTシャツが功を奏し、ほとんどの人が素直におせっかいを受け、そして感謝して立ち去る。中には Facebook で友達になるなり、連絡先を交換し、一緒に撮った写真を後日送り合うといった、その後に繋がっているケースもある。観光客にとっては親切を受け、そこに住む人々と交流できることは、旅の良い思いでなっているであろう。日本への信頼度、この活動を支える要素の1つである。

 もう1つは「おせっかい」ということ。筆者が子供の頃までは近所や親戚には必ず「おせっかいなおばさん」などという人がいたものだが、最近は他人に干渉しない風潮が高まり、おせっかい、というのは良くないイメージで語られることが多い。ところがこの活動に参加していると、「相手が声をけるのを待つのではなく、自ら声をかける」ことを求められる。学生にその辺を聞くと「初めは何を聞かれるか分からないのでとても怖かった」というのだが、この活動にはマニュアルなどはなく、細かい打ち合わせも何もない。その場その場で、自分たちが解決していくのである。もちろん失敗することもあるし、「もういいよ」と行ってしまう人がいると悔しい、と思うこともある。

新宿駅は問い合わせする外国人観光客であふれている

▲新宿駅は問い合わせする外国人観光客であふれている

 それでも慣れてくると、気軽に話しかけられるようになり、中には「写真撮ってあげましょうか?」などと、それこそいいおせっかいでは、と思うようなお手伝いにまで及ぶことになる。「おせっかいする」ことによって、人と人の関係が滑らかになり、より人間的になってく、これは現在の日本にこそ必要なことではないだろうか。そして外国人観光客もその辺を求めているのではないか。

 「おもてなし」と「おせっかい」。どちらも大切な対応だとは思うのだが、これからの外国人観光客への接待としては、外国人のニーズを的確に選んだおもてなしと、少々要らぬお世話かもしれないが、さらに踏み込んだ「おせっかい」の両輪を回していくことが、よりよい日本にとって大切ではなかろうかと思う。

コラムニスト
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須賀努
1961年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。金融機関在職中に、上海語学留学1年、台湾地場金融機関への出向2年。香港駐在合計9年、北京駐在合計5年では合弁会社日本側代表。合計17年の駐在経験を有し、日経BP社主催『中国ビジネス基礎講座』でトータルコーディネーター兼講師を務める他、進出企業向けアドバイスを行う。日本及びアジア各地で『アジア最新情勢』に関する講演活動も行っている。 現在はアジア各地をほっつき歩いて見聞を広めるほか、亜細亜大学嘱託研究員、香港大学名誉導師にも任ぜられ、日本国内及びアジア各地の大学で学生向け講演活動も行っている。 時事通信社「金融財政ビジネス」、NHK「テレビで中国語テキストコラム」など中国を中心に東南アジアを広くカバーした独自の執筆活動にも取り組む。尚お茶をキーワードにした旅、「茶旅」を敢行し、その国、地域の経済・社会・文化・歴史などを独特の視点で読み解き、ビジネスへのヒントとしている。
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